独断的JAZZ批評 387.

E. S. T.
今度は「規格の面白さ」をじっくりと堪能頂きたい
"WHEN EVERYONE HAS GONE"
ESBJORN SVENSSON(p, fender rhodes, roland D 50, oberheim), DAN BERGLUND(b, whistle), MAGNUS OSTROM(ds, percussion, vocal)
1993年7〜9月 スタジオ録音 (DRAGON OF SWEDEN DRCD 248)

E. S. T.の最新アルバム"TUESDAY WONDERLAND"(JAZZ批評 371.)はまさに
「規格外の面白さ」だった。通常のピアノ・トリオにエフェクターを追加することによりスケールの大きな演奏スタイルになった。これはジャズだ、いや、ロックだという議論が喧しいが、こういうのは聴く側の勝手であって、演奏する側はそんなことひとつも考慮していないだろう。僕にとっても、流れ出てくる音楽がどのジャンルに入るかなんてことに興味はない。関心があるのは、「躍動感、緊密感、美しさ」である。その視点で先の"TUESDAY WONDERLAND"を聴いた場合、これは素晴らしいアルバムだと思った。そして、2006年のベスト・アルバム(JAZZ批評 382.)にも選定した。

翻って、1993年録音のこのアルバムを聴いてみると、これも素晴らしいアルバムだと言わざるを得まい。デビュー当時の14年前のE. S. T.も光り輝いていたと・・・。
超一級のトリオだと思う。言ってみれば、このアルバムは
「規格内の面白さ」に満ちている。しかし、根底にある音楽はこの14年間、何ひとつ変わっていないと思う。このアルバム、Cの"STELLA BY STARLIGHT"を除く全ての曲がESBJORN SVENSSONの書いた曲でアレンジはE. S. T.の3人が行っている。この姿勢は最新作まで貫かれている。
このグループ、ヨーロッパにありがちなクールさを身に着けているが、冷たい印象はない。むしろ、ウォームで艶っぽい。色気があるといったら言いのだろうか、セクシーと言ったらいいのだろうか?そして、どの曲もテーマが素晴らしい。今度は「規格内の面白さ」をじっくりと堪能頂きたい。これがデビュー・アルバムだって!!!


@"WHEN EVERYONE HAS GONE" 
出だしの数小節を聴いて、このアルバムの基本とするところは"TUESDAY WONDERLAND"と変わらないなと思った。まさに一貫した流れなのだ。
A"FINGERTRIP" 
テーマが面白い。切れ味鋭い演奏で躍動する。ウ〜ン、痺れるね。
B"FREE FOUR" 
これまたいい曲だなあ。
C"STELLA BY STARLIGHT" 唯一のスタンダード・ナンバー。絶妙なインタープレイを聴かせてくれる。
D"4 AM" 
しっとり系バラード。こういう曲にあっても独特の雰囲気を持っているんだよね。こういうスロー・テンポにおいても躍動感を失わないのが良い
E"MOHAMMED GOES TO NEW YORK part 1" 
いきなり、voiceが入る。
F"MOHAMMED GOES TO NEW YORK part 2" 
part 2は一転して小気味の良いドラムスでスタート。しばし、快いスイング感に浸ろう。
G"WALTZ FOR THE LONLY ONES" 
美しくも躍動するバラード。どんなに美しくてもどんなにスローであっても躍動感を失ったらジャズじゃないね。
H"SILLY WALK" 
これも良いテーマだ。躍動する4ビートに切れのあるピアノ。OSTROMの暴れ方がいいね。唸りを上げるBERGLUNDのベースも良い。
I"TOUGH TOUGH" 
陽気な8ビート。
J"HANDS OFF" 
ドラムスに換えてパーカッションを叩く。

E. S. T.のグループとしての素晴らしさと同時に、ESBJORN SVENSSON、その人にも触れておかねばならないだろう。このピアニスト、作曲の才能といい、ピアノのセンスとテクニックといい、将来性豊かなミュージシャンだと思う。BRAD MEHLDAU, CARSTEN DAHL, STEFANO BOLLANI, KASPER VILLAUMEらと共に次世代を担う逸材であることは間違いあるまい。

本日、13日(土)には渋谷で東京公演が行われる。
今年、既に3枚のコンサート・チケットをゲットした。1枚がこのE. S. T.。あとの2枚が、3月のGIOVANNI MIRABASSIのソロ・コンサート、そして、もう1枚が5月のKEITH JARRETT TRIOという具合だ。その中で最も期待しているのが今日のE. S. T.だ。MIRABASSIとKEITHのトリオは恐らく予測の範囲内になると思うが、E. S. T.にはそこからはみ出した
「規格外の演奏」を期待したい。
14年間、不動のメンバーでジャズの真髄を突き詰めていくその姿勢に拍手。「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。  (2007.01.13)