独断的JAZZ批評 403.

DANNY GRISSETT
このGRISSETTは未だ若いし、糊代はたっぷりありそうだ
"PROMISE"
DANNY GRISSETT(p), VINCENTE ARCHER(b), KENDRICK SCOTT(ds)
2005年12月 スタジオ録音 (CRISS CROSS JAZZ : CRISS 1281 CD)

久しぶりのアメリカの若手ピアノ・トリオだ。どうやら、録音時、31歳だったらしい。ジャケットの写真を見ても歳相応な気がする。レーベルのCRISS CROSSは若手ジャズメンの発掘レーベルというから、GRISSETTにとっても初のリーダー・アルバムということで力が入ったに違いない。
このピアニスト、エモーショナルでアーシーな感じやグルーヴィさを持っていると同時に、白人的なクールさを感じさせる。多少、理屈っぽいところもあるかもしれない。
僕の第一印象としては、ピアノそのものせいか、録音のせいか、はたまた、自身の持つオーディオのせいか分からぬが、音に切れがない。タッチも強いというほどではない。粒立ちの良いクリアなピアノの音色ではないのが残念。若干、くぐもって聴こえる。結構、音数も多いので粒が立っているともっと良かった。全9曲のうち
BCDFがGRISSETTのオリジナル。

@"MOMENT'S NOTICE" 
J. COLTRANEの曲に挑んだ意欲作。
A"AUTUMN NOCTURNE" 
これは一転して、スタンダード。スタンダードの選曲に意外性がある。この曲といい、Eといい、Gといいメロディアスな曲が意外である。バラードというよりはミディアム・テンポの軽い乗りの演奏。
B"PROMISE" GRISSETTのオリジナルで、中盤から力強いワルツを刻む。総じて、このリズム隊は力強さとダイナミズムを持っているむしろ、ピアノが煽られている印象もある。
C"WHERE DO WE GO FROM HERE?" DON RANDIのアルバム(JAZZ批評 155.)にこの曲と同じタイトルのアルバムがあるので、同じ曲だろうかと思って調べてみたが、演奏曲目の中には同名曲は入っていないので、あくまでもアルバムのタイトルだけのネーミングのようだ。ここでもSCOTTのドラミングが躍動する。
D
"CAMBRIDGE PLACE" これもGRISSETTのオリジナルであるが、黒人らしいグルーヴ感に溢れるストレート・アヘッドな佳曲。
E"YOU MUST BELIEVE IN SPRING" 
フリー・テンポの叙情的なイントロから入り、最後までバラード・プレイに終始する。
F"ON THE EDGE" グルーヴ感溢れるオリジナル。やはり、こういう曲想の曲にこそ、このピアノが生きてくると思う。
G"EVERYTHING HAPPENS TO ME" 
スタンダード・ナンバーをオーソドックスに弾いている。左手は専らコードを弾いている。昔ながらの演奏スタイルという気もする。もっと多彩な表現力が左手にあるといいと思うのだ。イン・テンポになってからのスウィング感はなかなか良いと思う。
H"ELEVENTH HOUR" 
M. MILLERの書いた曲で、実に泥臭いハード・ドライヴな演奏である。スタンダード・ナンバーよりも、やはりこういう曲のほうが活き活きとしている。唸りを上げるARCHERのベースも良いし、SCOTTのドラム・ソロも切れがあっていい。若かりし頃のCHICK COREAの"NOW HE SINGS , NOW HE SOBS"(JAZZ批評 1.)をも彷彿とさせる演奏だ。音使いがコピーかと思うほどだ。でも、この曲がこのアルバムのベストかな。

このピアニスト、DANNY GRISSETTは31歳で、このアルバムが初リーダー・アルバムだという。右手は十分に達者で多弁であるが、左手が画一的なコードのみで表現力に乏しいのが残念だ。
ベースのARCHER とドラムスのSCOTTは力強いリズム陣で、僕は、こちらの二人に強い印象が残った。特にSCOTTのドラミングは力強さとともに切れがあっていいし、ブラッシュ・ワークもサクサクとしていて良いね。ベースのARCHERもアコースティックのベーシストとしてすごくいい音色を出しているので良いと思う。
このGRISSETTは未だ若いし、糊代はたっぷりありそうだ。今後の活躍に期待したいところだ。
次回はイタリアの若手ピアノ・トリオから。   (2007.03.26)