CARSTEN DAHL
DAHLのようなミュージシャンは既成の音楽をそつなく演るよりも、自作曲で埋めた先鋭的でオリジナリティの高いアルバムにこそその真価が発揮できるのではないかと思うのだ
"BEBOPISH RUBBISH RABBIT"
CARSTEN DAHL(p), LENNART GINMAN(b), FRANDS RIFBJERG(ds)
2007年2月 スタジオ録音 (MARSHMALLOW RECORDS : MMEX-115)

このアルバムの帯には「名作”ブルー・トレイン”の続編」と書いてある。同じメンバーで録音された2004年の"BLUE TRAIN"(JAZZ批評 267.)と同様に100年前のピアノを使用して、同じスタジオで録音されている。
ジャケットのデザインも前回同様、DAHLの愛娘の描いた絵を採用しているとのこと。4歳にしてこの絵心というのは確かに凄いと僕は思う。
話がそれてしまったが、このアルバム、なかなか評価の難しいアルバムだと思う。僕なりの結論はこのレビューの最後に記したいと思う。

@"WHEN YOU WISH UPON A STAR" ミディアム・テンポのハッピーな演奏。今までにこういうアプローチは聞いたことがない。
A"WHAT IS THIS THING CALLED LOVE" この曲もアプローチとしては珍しい超高速の4ビート。ここまで高速だと「雑」と紙一重。「だからどうした!」と言いたくなる。
B"BEBOPISH RUBBISH RABIT" 音楽の本質と関係ないことだが、あえて、一言。ジャケットに記されている曲名紹介のタイトル名どおりに書いたが、"RABIT"のスペルが間違っている。正しくは"RABBIT"であると思うが、日本で制作されたアルバムでもこういう間違いが起こりうるのだ。因みにジャケットのアルバム・タイトルには正しく"RABBIT"と記されている。演奏は泥臭いブルース。
C"SOMEONE TO WATCH OVER ME" この曲といえば、BRAD MEHLDAUのソロ・アルバム"SOLO PIANO LIVE IN TOKYO"(JAZZ批評 219.)とMARTIN WINDの"GONE WITH THE WIND"(JAZZ批評 176.)を挙げたい。この演奏がそれらを超えているや否や?
D"THE MAN I LOVE" 通常スロー・バラード演奏されることの多いこの曲をミディアム・テンポのグルーヴィな演奏に仕立て上げた。

E"A NIGHT IN TUNISIA" 躍動するリズムに乗ってピアノが奏でたと思ったらすぐ終わった。
F"ANGEL EYES" ここまでくると何でもかんでもブルージーに料理しているという感じ。
G"MITSUO AFTER MIDNIGHT" プロデューサーの上不氏に捧げたDAHLのオリジナル・ブルース。
H"YOU AND NIGHT AND THE MUSIC" この曲ではドラムスのRIFBJERGはスティックもブラッシュも使わずに素手で叩いているという。こういうチャレンジ精神は買うが、この曲にひとつのインパクトを与えているかというとそうでもない。迫力不足で、結果的に、自己満足と言えなくもない。
I"COMING HOME" まるで雰囲気的には"AFTER HOURS"だ。参考までにこの曲といえば、RAY BRYANTのソロ・アルバム"RAY BRYANT ALONE AT MONTREUX"(JAZZ批評 173.)でしょう。確かに良く似ている。

このアルバムでは聞き古されたスタンダード・ナンバーを手を変え品を変えてアプローチしている。根底にあるのはハード・バップだ。その最たるものが100年前のピアノであろう。確かに、"BLUE TRAIN"では流れ出てくる音楽に新鮮さを感じたものだった。しかし、2匹目の泥鰌がいたかどうか?
100年前のピアノは本当に良い音色なのだろうかという疑問が僕にはある。やはり、現代のピアノの方が良い音色を持っているのではないだろうか?100年前のヨーロッパにはJAZZが流行っていたとは思えないし、であれば、100年前のピアノはクラシックを意識したものであろう。100年前のピアノにこだわる理由とは何だったのだろうか?
僕の最大の焦点は、CARSTEN DAHL、その人の能力を最大限に発揮出来たアルバムであるかどうかにある。近年のDAHLはこのマシュマロ・レーベルに代表されるようにハード・バップ志向が目立つが、本当にDAHLがやりたかった音楽なのだろうか?
僕にとってDAHLが一番刺激的であったアルバムは"MOON WATER"(JAZZ批評 246.)であった。方向性として、このアルバムとは180度反対側に位置するが、DAHLのようなミュージシャンは既成の音楽をそつなく演るよりも、自作曲で埋めた先鋭的でオリジナリティの高いアルバムにこそその真価が発揮できるのではないかと思うのだ。皮肉なことに、改めて"MOON WATER"を聴き直した僕はその凄さに痺れてしまった。   (2007.09.03)



独断的JAZZ批評 434.