独断的JAZZ批評 426.

ENRICO PIERANUNZI
「スイングがなければ意味がない」とは、けだし名言であ
"LIVE IN JAPAN"
ENRICO PIERANUNZI(p), MARC JOHNSON(b), JOEY BARON(ds)
2004年3月 ライヴ録音 (CAM JAZZ : CAMJ 7797-2)

このアルバムの録音は2004年の3月で、しかも、日本公演である。メンバーは"PLAY MORRICONE"(2002年録音、JAZZ批評 203.)と全く一緒である。そのENNICO MORRICONEは2003年にNHKの大河ドラマ「武蔵」のテーマ音楽を担当している。その話題性を狙ったのか、この日本公演では「武蔵」のテーマが演奏されている。
この日本公演、ひとつ特徴的なことは録音がいいのである。ライヴにも拘わらず・・・である。僕は今までにMARC JOHNSONのベースの音色が良いと思ったことは一度もないのだけど、このベース音は良いね。アコースティックな木の匂いのする音色だ。流石、日本の録音技術と言いたくなる。
演奏曲の中にPIERANUNZIのオリジナルが
6曲、3人の競作が3曲、JOEY BARONの曲が1曲、ENNICO MORRICONEの曲が4曲ある。

<CD 1>
@"AURORA GIAPPONESE" 前奏曲ともいえる1分50秒のピアノ・ソロにドラムスが加わる。
A
"IMPRONIPPO" IMPROVIZATION + NIPPONかな? NIPPOって何だろう?ベース・ソロで始まるインプロ。まるで万華鏡的スタンダード崩しだ。この感覚って、良くある映像で、陶器が床に落ちて砕け散った瞬間をスローモーションで撮影し、それを逆回転にした映像を見ているようだ。即ち、砕け散った陶片の数々がひとつの完成品に収斂していく様をスローモーションで見ているような感覚。抽象画のバラバラのパーツがひとつの形に収斂していく様といっても良いかもしれない。15分と21秒。
B
"HOW CAN YOU NOT?" PIERANUNZIのオリジナル・ワルツ。ここでもJOHNSONのベースが素晴らしい。音色といいテクニックといい感性といい、素晴らしいベーシストに成長したと感じる。
C
"IF ONLY FOR A TIME" 幻想的な美しさが溢れる演奏。
D"MIO CARO DOTTOR GRASLER" 
ENNICO MORRICONEの曲。ベースとピアノ、ドラムスの丁々発止のインター・プレイの後に力強い4ビートを刻むご機嫌でヘビーな演奏。ジャズの醍醐味が凝縮されている!
E"MUSASHI" 
同じくENNICO MORRICONEがNHKの大河ドラマ「武蔵」のために書いたテーマと思われる。
F
"IMPROLEAVES" IMPROVIZATION + AUTUMN LEAVESでタイトル名となったようだ。実にスリリングであり、ライヴの楽しさを満喫できる。

<CD 2>
@"WINTER MOON" PIERANUNZIの書いた曲。美しいピアノに後からベースとドラムスが絡んでくる。絶妙のインタープレイが素晴らしい。
A
"BROKEN TIME" ドラムスでスタートするBARONの書いた曲で、美しさよりもアブストラクト的アプローチが印象的。しかし、これが徐々に一体感のあるアドリブに収斂していく様は"IMPRONIPPO"に似ている。
B
"TOKYO REFLECTIONS" ピアノ・ソロの抽象画。
C"NUOVO CINEMA PARADISO" 
ENNIO MORRICONEの書いた曲。これには、この"MAIN THEME"と息子のANDREA MORRICONEの書いた"LOVE THEME"があり、この二つをPATMETHENYが"BEYOND THE MISSOURI SKY"(JAZZ批評 6.)で演奏しているので是非、聴いてみて欲しい。で、このアルバムの演奏であるが、「素晴らしい!」の一言。なんと言ってもテーマにおけるピアノとベースのユニゾンや曲全体を通したアンサンブルが素晴らしい。JOHNSONのベース・ワークもいいねえ!この人、上手くなったなあ!もともとテクニックのあったベーシストだったけど、それに歌心が加わって鬼に金棒だ。ピアノもスリリングだし言うことなし。これぞ、ジャズでしょう!
D"NINFA PLEBEA" 
"PLAY MORRICONE"にも収録されている美しいスロー・バラード。
E
"WHEN I THINK OF YOU" これもPIERANUNZIの書いたスロー・バラードであるが、ベース・ソロを経て徐々に高揚感を増していく。5分過ぎから最後の9分まで熱い演奏を繰り広げる。
F
"IMPROMINOR" 11分の長尺であるが、緊迫感溢れる演奏で飽きさせることがない。ベース〜ドラムスと順番にソロを執りつつ、最後にピアノが締める。

このグループの強みはライヴ演奏における溢れんばかりの躍動感だ。BARONの力強いドラミングも素晴らしい!何よりも三位一体となった躍動感が心振るわせる。
2001年のライヴ録音盤、"LIVE IN PARIS"(JAZZ批評 324.)の2枚組みはスタンダード色が強かったのに対し、このアルバムはオリジナル色が強く、"LIVE IN PARIS"に勝るとも劣らない素晴らしい出来である。PIERANUNZI〜GEYN〜CECCARELLIのトリオも素晴らしかったが、このPIERANUNZI〜JOHNSON〜BARONのトリオも躍動感に溢れておりジャズの醍醐味を充分に堪能させてくれる筈だ。
DUKE ELLINGTONが書いた「スイングがなければ意味がない」とは、けだし名言である。躍動感溢れるライヴ演奏の名盤として、 「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2007.07.14)