THOMAS CLAUSEN
このピアニスト、僕は初めて聴くのだが、普段はもっと革新的なことを演っているプレイヤーなのだろうか?
"BACK TO BASICS"
THOMAS CLAUSEN(p), THOMAS FONNESBAEK(b), KARSTEN BAGGE(ds)
2006年8月 スタジオ録音 (STUNT RECORDS : STUCD 07062)

デンマークのピアニストTHOMAS CLAUSENの2006年録音盤。初回分は限定でSTUNTレコードのコンピレーション盤が付属している。しかし、これはあくまでもおまけ。販促物である。過度の期待をしないように!
このTHOMAS CLAUSENは1949年生まれというから今年、58歳だ。まあ、ベテランの類といっても差し支えないだろう。そのベテラン・ピアニストがタイトルにもあるように、「原点回帰」を意図して制作したものらしい。
全12曲。オリジナルが2曲、ジャズの巨人、T .MONKやM.DAVISの曲、スタンダード・ナンバーにH.MANCINIやディズニーの「シンデレラ」の挿入歌もある。色とりどりの万華鏡的雰囲気だ。


@"A DREAM IS A WISH YOUR HEART MAKES" 
この曲、"SOMEDAY MY PRINCE WILL COME"にそっくりである。調べてみたら、ディズニー映画「シンデレラ」の挿入歌らしい。少々没個性的な演奏である。
A"I'LL REMEMBER APRIL" 
軽快なブラッシュ・ワークに乗ってスウィングするが、新鮮味には欠ける。どこにでもある普通の演奏。「原点回帰」であるから、これこそが狙いなのかもしれないが。
B"HOME" 
CLAUSENの書いたバラード。ピアノのソロから3者のインタープレイへと移っていくが、一体感とか高潮感が不足している。
C"ANYWHERE THE HEART GOES" 
MANCINIの書いたワルツ。良い曲なんだけど、何かが不足している・・・そういう感じ。
D"THAT OLD BLACK MAGIC" 
E"WILL YOU STILL LOVE ME" 
この曲はCHICAGOの曲らしい。美しいバラード。叙情感たっぷりに歌う。聴けば「ああ、この曲か」と分かるはず。KARSTEN BAGGEのブラッシュ・ワークは控えめ過ぎて高揚感が増幅していかないのが残念。

F"PELICANS...& OTHER BIRDS" 
一転してグルーヴィなテーマのCLAUSENのオリジナル。でもあまり面白くない。
G"LOVE ME" 
リズム陣に前のめりの推進力がないとでも言ったらいいのだろうか。心沸き立つような躍動感とか高揚感みたいなものが湧き上がってこないのだ。
H"DEARLY BELOVED" 
ミディアム・テンポの気持ちの良い曲。今度はスティックで叩いているけどまだまだ遠慮がちだ。
I"ROUND MIDNIGHT" 
聞き古された名曲ゆえに一捻りしてみたか?
J"MILESTONES" 
これも一捻り、二捻りしてみたということか。テーマではブツブツとリズムが途切れてスピード感が湧いてこないのだが、アドリブに入ると4ビートを刻み心地良くなってくる。
K"WHEN YOUR LOVER HAS GONE" 
短めのエンディング。

このトリオは初めて組むメンバーのようだ。CLAUSENは若手のプレイヤーと呼んでいるが、これはCLAUSENを基準にしてのことだろう。若手と言われる二人は写真を見る限り、結構、老けて見える。
結論的に言えば、3者の一体感や緊密度に満足点をあげられない。若手のサポート陣がしっくり嵌ってくるのはこれからだろう。
ドラムスのBAGGEは良く言えば、「エレガント」であるが、自己主張が足りなくて迫力不足である。今回は一切の電気的増幅を使用しないアコースティックな演奏に徹したそうだが、そうであれば、録音のバランスを一考しても良かったのではないか。対してベースのFONNESBAEKは図々しいほどの「出たがり」であるが、技量的にもこれからだろう。
ピアニスト、CLAUSENはまとめるのに結構苦労したのではないだろうか?全体的な印象も一体感に欠けて、ぐいぐい引っ張り込むような高揚感が湧いてこない。「原点回帰」と謳ったからこういう普通の演奏になったのだろうか。このピアニスト、僕は初めて聴くのだが、普段はもっと革新的なことを演っているプレイヤーなのだろうか?   (2007.07.08)



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独断的JAZZ批評 425.