ZSOLT KALTENECKER
ミキシングの味付けをちょっと変えるだけで全然別の味わいをもったアルバムになったかも知れない
"WINTER'S TALE"
ZSOLT KALTENECKER(p), VIKTOR HARS(b), GERGO BORLAI(ds)
2007年1月 スタジオ録音 (KLUBRADIO : RV002)

ZSOLT KALTENECKERはハンガリーの1970年生まれというから、今年37歳になる。丁度、脂ののり切った年齢かもしれない。5年前の2002年に録音された"TRIANGULAR EXPRESSIONS"(JAZZ批評 84.)は優れたアルバムだった。この5年の間にどんな進化を遂げているのだろうか、興味津々で聞き始めた。

ピアノを云々する前にベースの音色が本当に「ダブル・ベース?」と首を傾げてしまうのだ。ジャケットに記されたクレジットを読む限り"Double Bass"と書いてあるのだ。がしかし、これはエレクトロニクスの音色だ。アコースティックの木の箱の共鳴がない。電気的増幅に頼った音色で、もうこれだけでガクッときてしまう。と言うよりも、これは最初から電気ベースを使用しているのではないかと思った。しかし、耳を凝らして大音量で聞いてみるとダブル・ベースのようでもある。それほど電気ベースと見紛う音色なのだ。
KALTENECKERの最近のアルバムは電気ピアノを使用していることが多くて、とても購入する気持ちになれなかった。アコースティックなピアノを使用した久しぶりのアルバムというので期待感はいやが上にも高まっていた。そんな心理状態に水を差すようなベース音に本当にがっかりした。

@"STILL AROUND" 
例によって、ブラッシュを使用してパタパタと饒舌気味なドラムスと電気増幅のベース音が印象的。
A"LIGHTS OF SHINJUKU"
 "SHINJUKU"とあるから「新宿の灯り」がテーマなのだろう。
B"IVORY TOWER" 
左手のアルペジオに乗って右手が美しいメロディを紡ぎだしていく。
C"PASOLINI'S DREAM" 
この曲はKALTENECKERが書いた曲だが、想像するに、これはイタリアの脚本家であり映画監督として名を馳せたPASOLINIへのオマージュであろう。この演奏はテーマとともに凄く良いね。参考までにPASOLINIへのオマージュ・アルバムとしてはANTONIO FARAOの"TAKES ON PASOLINI"(JAZZ批評 315.)があるので紹介しておこう。
D"SWAMP-ROAD POSSIBILITIES" 
E"WALLS" 
ベーシストのHARSの書いた味わい深い印象的な曲。エレキベース然とした重低音はこういう曲想の曲には合っているかもしれない。

F"THE LION 'S SONG" 
これも面白いテーマだけど、あまりジャズ的ではなくて、クラシックの匂いがする。
G"PARIS, 1972" 
この曲もHARSの書いた曲で、なかなかいい曲だ。この人コンポーザーとして面白いと思う。電気の増幅に頼ったベース・ソロがあるが、ここまで増幅に頼らなくてもいいような気もするし、ピック・アップにもっとアコースティックなニュアンスを伝えるものを使用すればよかったと思う。
H"CAFFEINE" 高速4ビートを刻む躍動感溢れる演奏だけに、余計にチープなベースの電気音が惜しいと思う。
I"WINTER'S TALE" 
J"MR. BROOKS" 
グルーヴィなブルース。ここのベース・ソロでは少しアコースティックな音色がしている。やはり録音のレベル設定でいかようにもなるのかも知れない。単にミキシングが僕の好みに合わなかったということだろうか?対して、KALTENECKERの迫力ある左手は良いねえ。ドラムスも吹っ切れたように叩きまくって、これもGOOD!だ。最後の曲で大いに盛り上がる。

返す返すもベースの電気音が惜しい!これさえなかったら!ウ〜ン、残念。これはベーシストの責任ではないかも知れない。ミキシングの味付けをちょっと変えるだけで全然別の味わいをもったアルバムになったかも知れない。
電気ベース、全然OKという方には違和感なく楽しめるアルバムだろう。CとかE、G、H、J等はなかなか良いと思う。
肝心のKALTENECKERのピアノであるが、流石にテクニック、歌心とも二重丸だ。   (2007.07.23)



独断的JAZZ批評 427.