FRED HERSCH
FRED HERSCH には繊細さと豪胆さを持ち合わせ、配慮が利いて、良く歌うサポート陣が必要不可欠だと強く感じる
"NIGHT & THE MUSIC"
FRED HERSCH(p), DREW GRESS(b), NASHEET WAITS(ds)
2006年12月 スタジオ録音 (PALMETTO RECORDS : PM 2124)

FRED HERSCHというピアニストは今までに3枚のアルバムを紹介している。しかし、未だに5つ星がない。なかなかいいピアニストだとは思うのだが、決定打がない。2002年録音のアルバム"LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD"(JAZZ批評 127.)の中で、「このトリオの場合、ピアノとベースのコンビネーションに比べて、ドラムスが浮いている。グループとしては部分、部分でキラッと光る部分もあるし、美しい曲も何曲か配置されているのだが、そういった良いところが潰されている。今度はじっくりとスタジオ録音のこのトリオを聴いてみたいと思った」と書いた。
今回はその念願かなって、その時と同じメンバーによるスタジオ録音盤である。

@"SO IN LOVE" 
COLE PORTERの書いた佳曲。いい曲だと思うのだが、演奏内容からどうしてもドラムスに違和感を感じてしまう。デリカシーがないというのか雑というのか、何故、このドラマーを起用するのか分からない。????少なくてもFRED HERSCHの良さが倍加するようなサポートとは言えまい。ベースとの一体感がないのも残念至極。
A"RHYTHM SPIRIT" 
演奏が進むほどにドラムスとベースの一体感が感じられない。最後は3人揃った荒っぽい演奏で終わる。
B"HEARTLAND" 
バラードも落ち着きがなくて、心に染み込むようなしっとり感が足りない。
C"GALAXY FRAGMENT / YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC" 
導入部として2分間のイントロがあって、"YOU AND THE NIGHT・・・・"に入っていくのであるが、何のためのイントロか理解不能。こねくり回して、分からなくなった・・・・・そういう感じ。
D"BOO BOO'S BIRTHDAY" 
E"CHANGE PARTNERS" 
F"HOW DEEP IS THE OCEAN" 
スロー・テンポのバラードという以外に引き立つものがない。
G"GRAVITY'S PULL" 
H"ANDREW JOHN" 
GRESSのオリジナルでベース・ソロで始まり、何となく終わる。
I"MISTERIOSO"
 T. MONKの曲もつまらない演奏だ。

HERSCHのピアノはいい意味でも悪い意味でも陰影をまとった演奏が特徴的ではある。HERSCHファンにとってはこの知的な印象とある種のもどかしさみたいなものが魅力なのかもしれない。@の"SO IN LOVE"ではリズムを倍テンにしたりして意欲的なところを見せてくれたが、その後が続かない。吹っ切れないじれったさがどうしても印象として残ってしまうのだ。だからといって、豪腕タイプのドラマー、NASHEET WAITSが良いといっているのではない。むしろ、逆である。
先に紹介した2002年のアルバムもドラムスはNASHEET WAITSであったが、今回もまた、このドラマーは浮いている。・・・というよりもドラムスのがさつさが皆に伝染してしまったような印象を持ってしまう。そもそもHERSHの志向するところと演奏スタイルが180度違うように思うのだけどいかがだろう?ついでに今回のアルバムに限って言えば、名手DREW GRESSの演奏も切れがない。まず、音が悪い。モゴモゴとしたくぐもった音色だ。何よりもサポートする側のドラムスとベースの間で一体感とか緊密感がないのが残念。
いっそのこと思い切ってベースもドラムスも入れ替えてみたらどうだろうか?たとえば、ベースにJESPER BODILSEN、ドラムスにMORTEN LUNDなんていうのはどうだろう?そう、これはSTEFANO BOLLANIが名作"MI RITORNI IN MENTE"(JAZZ批評 210.)や"GLEDA"(JAZZ批評 264.)を生んだ黄金コンビだ。また、"LIVE IN PARIS"(JAZZ批評 324.)という大傑作を残したENRICO PIERANUNZIのサーポートであるHEIN VAN DE GEYN(b)とANDRE DEDE CECCARELLI(ds)のコンビでも良いかも知れない。あるいはドラムスだけ取り替えてBILL STEWARTというのも良いかも知れない。このピアニストには繊細さと豪胆さを併せ持ち、配慮が利いて、良く歌うサポート陣が必要不可欠だと強く感じる。
いずれの曲も5分以上を要し、少々食傷気味になる。ピアノ・トリオは3者の均衡した力量と同時に、アンサンブルとしての一体感や緊密感がないと合格点の星4つはあげられない。そのくらいこのドラマーには違和感を覚えるということ。HERSCHの、ひいては、DREW GRESSの力が十二分に発揮されないままで終わったアルバムとして非常に残念である。   (2007.06.16)



独断的JAZZ批評 419.