SIMPLE ACOUSTIC TRIO
願わくは、グループ名のような"SIMPLE"な演奏を期待したいものである
"HABANERA"
MARCIN WASILEWSKI(p), SLAWOMIR KURKIEWICZ(b), MICHAL MISKIEWICZ(ds)
1999年9月 スタジオ録音 (NOT TWO RECORDS : MW712-2)

このアルバムに遡ること4年、1995年録音の"KOMEDA"(JAZZ批評 93.)では次のように僕は書いている。
「CD全体の印象はヨーロッパの演奏にありがちなクリアでリリカルな演奏ではあるが、甘さに流れない力強いドライブ感やスウィング感もある。いわゆる、ブルース・フィーリングは薄いが、如何にも洗練されたヨーロッパ的な味付けになっている」・・・と。
"KOMEDA"のジャケットではWASILEWSKIの顔がイラストで描かれている。対してこのアルバムは薄暗い闇の中でうな垂れる少女の写真。演っている内容に大きな変化はないと思うのだが、ジャケットから受ける印象は天と地ほど違う。前者ではお堅い、いかにも理屈っぽいイメージが刷り込まれるのであるが、それとは反対に、後者の方はいかにも聞き易そうな印象を受ける。やはり、こういうジャケットの方が一般受けはいいのだろう。このジャケットが効いたのか、発売時、結構評判になったアルバムだ。ポーランドのジャズを代表するアルバムといっても過言ではないだろう。

ところで、このMARCIN WASILEWSKIのバイオグラフィをネットで調べたのだけど、よく分からない。"KOMEDA"のジャケットの裏に印刷された写真はいかにも若い。3人とも中学生くらいの歳のようにも見える。1993年には、10代の歳でTOMASZ STANKOのグループで活躍していたというから、推測するに現在、30歳代前半だろうか?

@"HABANERA EXCENTRICA" 
幻想的なピアノのイントロで始まる。ヨーロッパでもない、アメリカでもない異国情緒溢れる演奏。敢えて言うと、中東的雰囲気。3者が対等に演じるスタイルで、調和を保つというよりは自己主張の方が強い。1曲の中に何曲かを詰め込んだように、演奏スタイルも変化していく。
A"WITHOUT THEM" 
このベーシストは倍音が好きなようで、アルバム中に何回も倍音を叩くが、あまりに多いので鼻につく。どこにでもあるスロー・バラード。
B"TAMARA" 
軽快なワルツ。中盤あたりに差し掛かかり、ドラムスがスティックに持ち替えたあたりから妙に元気になって主張し始める。
C"GREEN SKY" 
ベースの倍音でスタート。チューニングするわけではないのだからほどほどにしないとね。フリーテンポで延々と3者の自己主張が続く。

D"FURIOZI" 
これもピアノのフリー・テンポのイントロで始まり、1分後にイン・テンポになり、躍動する4ビートを刻んでいく。テーマに面白みはないが、アドリブはこれが一番。あまり手の込んだことをするよりはストレートな演奏の方が持ち味を生かせそうだ。コロコロと転がるピアノは若かりし頃のCHICK COREAを思い起こさせる。
E"STRAVINSKY" 
この曲も中盤から4ビートを刻みだすと、俄然、良くなってくる。惜しいなあ!どの演奏もいろんなことやりすぎで焦点が定まらない感じ。こういうストレートな演奏が一番このグループに相応しいと思うのだけど・・・。
F"SIMPLE SONG" 
透明感のあるクリアなサウンド・・・、今ではどこでも聞けてしまう。
G"SIMPLE JUNGLE" 
延々と続くドラム・ソロが用意されているが、これが陳腐。

流石に現代にあっては、この種の演奏は聞き飽きたといういうべき内容で、この手の演奏はあちこちに散らばっている。余程、このグループとしてのアイデンティティをしっかり持たないと埋没してしまうだろう。あれこれ手の込んだことをやるよりはストレートな演奏を心がけて欲しいものだ。何故なら、ストレートな演奏にこそこのグループの実力が発揮されていると思うからだ。DとEの演奏はこのトリオの良さが十分に発揮されていると思う。4ビートで躍動し前へ前と進むドライブ感は得がたいものがある。
願わくは、グループ名のような"SIMPLE"な演奏を今後のアルバムに期待したいものである。   (2007.06.10)



独断的JAZZ批評 418.