独断的JAZZ批評 396.

NEW YORK TRIO / MARC COPLAND
拝啓 BILL STEWART様

その万華鏡のようなドラミングと尽きることないアイディアに、
僕は脱帽です!
"MODINHA"
MARC COPLAND(p), GARY PEACOCK(b), BILL STEWART(ds)
2006年3月 スタジオ録音 (PIROUET RECORDS : PIT3018)

MARC COPLANDは僕にとってあまり相性の良いピアニストとは言えない。といっても沢山のアルバムを聴いたわけではない。せいぜい2枚だが、この2枚とも印象が良くない。それでも、今回は今をときめくPEACOCCKとSTEWARTがサポートするというので購入した。ゲットしたのは昨年のうちだったが、一聴、ピンと来るものがなくて延ばし延ばしにしてきた。
丁度、同じグループ名のNEW YORK TRIO / BILL CHARLAPを前回、掲載したので一念発起してレビューしてみた。同じグループ名がついているがまったく関連はないといっていいだろう。唯一、共通点を挙げれば、ドラムスにBILL STEWARTが参加していることくらいだろうか。
こちらのNEW YORK TRIOはサポート陣を替えて、シリーズ化していくらしい。その第1弾がこのアルバムでジャケットの右上の片隅に"Vol.1"の記載がある。GARY PEACOCKにBILL STEWARTという最強のリズム陣がその任を担うことになった。このシリーズは第3弾まで用意されるとのことだ。

@"HALF A FINGER SNAP"
 PEACOCKのオリジナルで、結構、泥臭い曲だ。4ビートで躍動する。ベース・ソロの時のドラムスのバッキングとその後に続くソロが素晴らしい。
A"MODINHA" A. C. JOBIMの書いた美しい曲。ブラッシュとベースがピアノに絡み付いてなかなかいいと思う。PEACOCKの力強いソロがフューチャーされている。これぞアコースティック・ベースの音色でしょう!少し暗めで、けだるさを持った演奏だが心に沁みる。いやぁ、参った!
B"FLAT OUT" ピアノに続いてドラムスとベースが4ビートでフェード・インしてきて躍動感が高まって来たなあと思ったら終わってしまった。2分40秒。
C"RAIN" あきれるほど、しつこく同じリフが繰り返される。この曲を最後まで聴き続けるのは苦痛だ。忍耐を強いる10分。そんな中でSTEWARTのドラミングが燦然と輝いている。
D"SLAP HAPPY" 約2分間のアブストラクト。

E"SWEET PEACH TREE" COPLANDのオリジナル。これも泥臭い曲だが、気持ちの良い4ビートを刻んでいく。天衣無縫というか屈託のないドラミングが良いね。左手で色々なこと演っても、右手のシンバリングだけは欠かさないから凄い。
F"AGLASIA" KEITH JARRETT TRIOをも彷彿とさせる躍動感が良い。リズム・パターンが途中からがらりと変わるが、STEWARTの叩き出す多彩なドラミングが実に印象的だ。
G"YESTERDAYS" COPLANDはスタンダード・ナンバーもただでは弾かない。一癖あるテーマ崩しが施してある。PEACOCKのソロも良く歌っているし、徐々に高まるテンションに伴いSTEWARTのドラミングが万華鏡のように姿を変える。
H"TAKING A CHANCE ON LOVE" 素晴らしい!この演奏は曲の良さと相俟って、ピアノが艶っぽくていいなあ。シャワシャワ、サクサクと刻むブラッシュに乗ってビート感溢れるベースが絡み、ピアノが歌う。このアルバムの一押しだ。至福の8分20秒。

最強のリズム陣を擁しただけのことはやはりあった。特に、STEWARTの万華鏡のようなドラミングとアイディアは尽きることがない。
なんとはなしに聴いている頃はそれほど良いアルバムとは思っていなかった。いざ、レビューを始めてみて、1曲ずつ丹念に聴き出したら、思っていた以上に良いんだなあ。これが!
このCOPLANDには根強いファンも多いと聞いている。この一種、何とも言えないもってまわったような節回しや音使いが魅力なのではないだろうか?今後、さらに2作が制作される予定だそうで、その都度、サポート陣が替わっていくという。さて、どんなメンバーになるのか、これはちょっと楽しみだ。

このアルバム、真正面から向き合ってほしいアルバムだ。そして、じっくりと聴き込んでほしい。最初、このアルバムのレビューを書き始めた時の評価は星3つ半。中古の買取行きだなあと思っていた。しかし、レビューを書いている途中から評価が変わってきた。そして、聴きこむほどにこれは凄く味のあるアルバムだと気づいた次第だ。特に、AとE以降の4曲がお気に入りだが、極めつけはHで何回も繰り返して聴きたくなる。Cの印象がすこぶる悪くて、これが障害になったことは否定できない。

このアルバム、BILL STEWARTのファンにとっては垂涎の1枚になるのではないだろうか?!ついでに録音の良さも追記しておこう。

拝啓 BILL STEWART様
その万華鏡のようなドラミングと尽きることないアイディアに、僕は脱帽です!

やはり、ジャズは真正面から向き合って聴くことに尽きると反省しながら、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2007.02.22)



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