一流どころの LARRY GRENADIERやJEFF BALLARDを
向こうに回して、臆するところがない
溢れんばかりの躍動感が素晴らしい
"WHEN OCTOBER GOES"
CHIHIRO YAMANAKA(p), LARRY GRENADIER(b), JEFF BALLARD(ds)
2002年スタジオ録音(ATELIER SAWANO AS 025)

いやはや、近頃、スポーツでも音楽でも世界的に活躍している日本人というとやたらと女性が多い。ジャズ・ピアノの世界でもご多分に漏れず女性ばかりが目についてしまう。AKIKO GRACE(JAZZ批評 101.)、馬場和子ときて(112.)、今回は山中千尋。
まあ、兎に角この山中千尋も頑張っている。一流どころの LARRY GRENADIERやJEFF BALLARDを向こうに回して、臆するところがない。もう、張り合っていると言っても良いほどだ。そこから生まれてくる緊張感と互いにインスパイヤーされたインタープレイがまたいい。
期せずして、AKIKO GRACEの"MANHATTAN STORY"の時と同じベーシスト・LARRY GRENADIERが参加しているのも面白い。

@"TAXI" 山中のオリジナル。曲想の素晴らしさとアドリブにおける瑞々しさに参った!
A"JUST IN TIME" オーソドックスな4ビート。GRENADIERのビートの強いウォーキング・ベースが光る。溢れんばかりの躍動感が素晴らしい。
B"PAINT MY HEART RED" KEITH JARRETTの作品。
C「八木節」 ハードな演奏。僕には実験的意味合いの方が強く感じる。「こんなこともやってみました」ということだろう。

Dちょっとおどけた"PLUM THE COW"は山中のオリジナル・ブルース。小気味の良いシンバリングに乗って全員でスウィング。「ジャズって楽しい!」
E"BALLAD FOR THEIR FOOTSTEPS / THREE VIEWS OF A SECRET" エレキ・ベースの天才、JACO PASTORIUSの曲。
F"I GOT RHYTHM" 結構、土の匂いのするアレンジを施してある。
Gタイトル曲"WHEN OCTOBER GOES" 美しい旋律の曲を気負いもなく、むしろ、淡々とシンプルなトーンで演奏している。胸を打つ作品。歌心あるなあ!
H"S.L.S." 山中のオリジナル。
I"IN A MELLOW TONE" ボサノバのリズムに乗って・・・。

この作品の成功は強力なサイドメンの起用にあると思う。特にGRENADIERの力強い強靭なバックアップは演奏の幅を広げていると同時に、トリオとしての安定感を不動のものにしている。

ヨーロッパのピアノ・トリオは比較的甘いか、頭でっかちで何回も聴いていると直に飽きるし、アメリカのピアノ・トリオも最近「これは!」というのが少なくなった折も折、日本人女性ピアニストのCDはとても新鮮であった。ガッツとドライブ感が満載されていて強烈な印象を与えてくれた。
今回のこのCD、AKIKO GRACEの"MANNHATTAN STORY"や馬場和子の"ai"と甲乙つけ難い出来映えとなった。   (2002.12.15)

<2005.04.03 追記>
タイトル曲の"WHEN OCTOBER GOES"は実に瑞々しい演奏でオリジナルのお気に入りCDの中には入れて常々聴いていた。また、最近ピアノ・トリオで演奏されることの多い"JUST IN TIME"も躍動感溢れるご機嫌な演奏であることも付け加えておこう。
このアルバムが発売された時期はAKIKO GRACEの"MNHATTAN STORY"がほぼ同時に発売されており、強烈なタッチとドライブ感に圧倒され、その分、このCDが憂き目を見たということは否めない。しかしながら、発売から2年半経っても色褪せない瑞々しさに改めて再評価し「manaの厳選"PIANO & α"」に追加したいと思う。   (2005.04.03)



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CHIHIRO YAMANAKA

独断的JAZZ批評 113.