ここにあるのは、楽器を通した会話だ
"EXPLORATIONS"
BILL EVANS(p), SCOTT LAFARO(b), PAUL MOTIAN(ds)
1961年2月スタジオ録音(RIVERSIDE VDJ-1527)

最近は良いピアノ・トリオの新譜が少ないように思う。JAZZ批評 123.「JAZZ雑感(7)CDの試聴方法」でも書いたが、僕は常に4.5星以上のアルバムを狙って購入しているのだが、現実は「そうは問屋が卸さない」。わずかな時間の試聴だけで良いアルバムを見つけることは結構難しい作業だ。4つ星以下のアルバムの掲載が多くなって来ると、流石にストレスが溜まってくる。「もっと、良いジャズが聴きたい!」と。そうすると、戸棚から旧譜の名盤を引っ張り出しては掲載することになる。(最近では、そろそろ底を突いてきたが・・・)
今回の"EXPLORATIONS"もそうした1枚。名盤中の名盤ということは巷間広く知れ渡っている。40年の歳月を越えても、未だに色褪せない瑞々しさ。僕の評価基準をフルに満たす素晴らしいアルバムだ。

例えば、先に紹介したALAN BROADBENT"FURTHER DOWN THE ROAD"(JAZZ批評 154.)における"ISRAEL"をこのアルバムのそれと比較するとEVANS TRIOの素晴らしさを再認識することになる。グループとしての緊密度や躍動感が比べものにならない。
JAZZ批評 140.BERNDT EGERBLADHにおける"SWEET AND LOVELY"も同様のこと。EGERBLADHの演奏はアレンジに凝るだけでグループとしての躍動感に欠ける。
さらに、JAZZ批評 156.のVICTOR FELDMAN TRIOの"THE ARRIVAL OF ・・・"も、同じSCOTT LAFAROがベースを弾いているのだが、そこでは、傍若無人に振る舞うLAFAROがいるだけでグループとしての緊迫感に欠ける。

このアルバムは、このメンバーによる絶頂期の演奏といっても良いだろう。4ヵ月後の6月に名盤"WALTZ FOR DEBBY"(JAZZ批評 17.)を残し、それからわずか10日後にSCOTT LAFAROが交通事故で他界してしまう。
三位一体トリオの真骨頂とも言うべき演奏を堪能いただきたい。

@"ISRAEL" テーマの入り方といい、その後のコミュニケーションの取りかたといい、聴くものの心をガッシリと捕らえて離さない。超一級の証。
A"HAUNTED HEART" 確かに、リリシズム溢れる演奏だが、それに埋没していない。

B"BEAUTIFUL LOVE" 快いスウィング感に満ちた演奏。ピアノとベースのコミュニケートがスリリング。LAFAROのベース・ソロの裏でバックアップするピアノにも耳を傾けたい。甘さに流されない骨太な演奏を堪能されたい。
C"ELSA" ワルツ曲。ここでもベース・ソロの裏でピアノがバッキグンを入れる。この妙!

D"NARDIS" MILES DAVISのオリジナル。最近、この曲を取り上げるアルバムが多くなった。こういう美しい曲も瑞々しくも軽やかな音色で仕上げてしまうあたりがEVANSのEVANSたる所以だ。
E"HOW DEEP IS THE OCEAN?" 深い海にも溺れない抑制された演奏。

F"I WISH I KNEW" 是非、目を閉じて聴いてみたい。3人のインタープレイを・・・。
G"SWEET AND LOVELY" 楽器を通したおしゃべり。

EVANSのピアノの音色は粒立ちがはっきりしていて綺麗なのが特徴だ。美しさと強さを兼ね備えた演奏だ。それに、強靭なベースとセンシティブなドラムスが織り成す「会話」をお聴きいただきたい。「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。     (2003.10.11)



.
BILL EVANS

独断的JAZZ批評 158.