江戸川乱歩の美女シリーズ(西郷輝彦版)
テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」

第1作『からくり人形の美女』['92] 監督 永野靖忠
第2作『みだらな喪服の美女』['94] 監督 鷹森立一
 第6作までで終えた北大路欣也板から二年後、西郷輝彦が惚れっぽい明智として登場した美女シリーズ第1作からくり人形の美女は、天知版第1作氷柱の美女と同じく『吸血鬼』を原作としながら、決闘が岡田道彦と三谷房夫ではなく、柳倭文子(美保純)と女王は二人要らないと嘯く養母の道子(三条泰子)に替わり、氷柱の美女が倭文子ではなく、なんと明智になっていて吃驚した。浪越警部も荒井注に戻っていた。シリーズ作の核とも言うべき人形は、道子の趣味としての人形コレクションばかりか、意味ありげなマネキンまでも登場する周到さだったが、美保純を配しながらも、伊東ではない熱川の温泉宿の露天風呂での混浴入浴場面は肩止まりだった。

 また、いかにもバブル期最後の当時を反映していて、明智の住まいは目白の豪邸で、クラシックカーに乗り、クラブカルチャーが妖し気に語られていたように思う。文代(星遙子)が小林少年を兼ねた小林文代になっていて、新宿に事務所を持つ弁護士になっていることに驚くとともに、目白・青山・月島・新宿・青山・浅草という東京巡りになっていることが目を惹いた。もう消費税導入は果たされていたんだなぁと妙に感心した。

 ビデオショップで『現金に手を出すな』(監督 ジャック・ベッケル)に手を出して知り合った倭文子に手を出して僕も間違いを犯すなどと言っていたものだから、ついつい前作北大路欣也版最後の第6作妖しい稲妻の美女での僕もつまづいたとの台詞を想起させられたように思う。

 原作小説アア何という異様な着想であったろう。谷山三郎は、その長椅子の中に身をひそめて、もたれと座席との境目の、深い隙間から短刀を突き出して、そこに腰かけていた倭文子を殺害したのだ。 彼は黒虹の小説をそのまま、椅子になった男であった。となっていた黒虹の小説たる『人間椅子』が「からくり人形」になっていて、自害するのが北大路欣也版最終作の『妖しい稲妻の美女』の妙子をなぞるかのような倭文子に変わっていた。両作とも脚本は吉田剛で、天知茂版25作では1作担ったのみだったが、北大路欣也版、西郷輝彦版を合わせた8作中7作をカバーしているのが目を惹いた。


 その吉田剛が、天知茂版の顔とも言うべき、井上梅次&宮川一郎が脚色して宝石の美女を撮った原作小説『白髪鬼を仕立て直したみだらな喪服の美女は、前作から二年後ながら、バブルの名残を留めた作品だったように思う。あっと驚いたのは、入浴場面が大牟田瑠璃子(杉本彩)ではなく、荒井注でも坂上二郎でもない河原さぶが演じた浪越警部の入浴だったことだ。当然ながら、シリーズ作の核たる“人形”も外してきている。西郷版第1作との対照がバリバリに利いていた。

 だが、女に甘い探偵ということで白羽の矢が立つ明智小五郎というキャラクター設定もなんとも中途半端な有様で、シリーズ最短の2作で打ち切られたのも已む無い感じだった。颯爽とバイクに跨る女性弁護士との設えの文代も余り活かされていなかった気がする。彼女がカネになりそうな仕事案件を持ち込んできても気が向いた仕事しかしようとせず、カネに頓着しないながらも朝食をはじめハイソ生活には執着して豪邸が三重抵当に入っている次第を序盤で露わにする場面は、ほぼまるまる第1作と同じだった。台本の数ページは前作の使い回しだったことになるわけだが、シーンそのものが使い回しだったのかもしれない。もっとも、確認まではしていない。

 それにしても、杉本彩は三十年前、こういう面立ちだったのかと、十年後の石井版花と蛇['04]との違いの大きさに驚いた。頬から顎にかけてのふっくらした感じが後のイメージとは対照的なあどけなさを漂わせていたように思う。




参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ【天知茂版】(1話~6話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ【天知茂版】(7話~11話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ【天知茂版】(12話~16話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ【天知茂版】(17話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ【天知茂版】(18話~21話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ【天知茂版】(22話~25話)
参照テクスト:江戸川乱歩の美女シリーズ【北大路欣也版版】(1話~6話)
by ヤマ

'25.11. 6. BS松竹東急録画



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