『風のマジム』['25]
監督 芳賀薫

 先ごろ二十七年ぶりに再見した卓球温泉のような映画だった。今の時代や世の中になっても、こんな映画が撮れるんだと妙に嬉しい気になった。

 劇中で伊波まじむ(伊藤沙莉)の後輩一平(なかち)の妻志保(下地萌音)がマジムさんは凄い、普通は、どうせ結果はダメだろうからと諦めるのにと言っていたが、結果だけではなくて、どうせこんな時代、こんな世の中だからと諦めてはいけないのではないかと、“人と人との関わりが育む善きもの”を描いた作品を観て思った。マジムの祖母(高畑淳子)が言っていた一番大事なところを間違えちゃいけないよとの台詞が利いてきていたのかもしれない。一番大事なところを間違えたまま、枝葉の部分で口達者に言い換え、摩り替えして臆面もなく正当化する弁舌を近ごろ矢鱈と見掛けるから、余計にそう感じるのだろう。論語の「子曰、巧言令色、鮮矣仁」を「巧言令色、少なきかな仁」と読むと習ったのは中学時分だったが、温故知新によって普遍性に向かうことよりも、古いものは今にそぐわないと見向きもしなくなる風潮に染まっている領域において、殊更に巧言が幅を利かせている気がしてならない。

 帰宅後、チラシの裏面を読んでいたら、『卓球温泉』ばりにファンタジックな話だと思っていたものが社内のベンチャーコンクールを活用してビジネスを立ち上げ、契約社員から社長になった女性の実話をもとに描かれる本作とあって吃驚した。

 それはそれとして、マジムの名前の由来が劇中で示されたように、命を意味するチムに「真」をつけた真心という意の名前ならマヂムでないといけないのに、いかにも無造作にマジムとしているあたりに原作者の原田マハらしさを感じて妙に可笑しかった。流石にタイトルだけに勝手にマジムをマヂムに変えるわけにはいくまい。手作り豆腐の店をやっている母娘を演じていた高畑淳子と富田靖子がなかなか好かった。
by ヤマ

'25.11.12. キネマM





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