『乱歩の幻影』['24]
監督 秋山純

 テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」江戸川乱歩の美女シリーズの天知茂版の二十五作品を観終えて一区切り付いたこともあって、目に留まった作品だが、思いのほか面白かった。

 Chapter1 Yumiko から始まり、Last Chapter Truth とepilogue で終える、乱歩の幻影に囚われた弓子(結城モエ)が辿る妄想譚を観ながら、これは一体いつの時代の話なのだろうと気になり、年内に解体されると劇中にあったキヨスナ同潤会アパートを当たってみたら、2002年解体とのことだった。それからすれば、二十余年前の話ということになる。

 いくつもの乱歩作品が劇中に散りばめられていて、この同潤会アパートというのも『陰獣』の大江春泥が暮らしていたアパート群ということで登場していた。そこに弓子が里美(小貫莉奈)から提供を受けた福島萍人の著作から辿ったChapter5 に登場する踊子の芙蓉(常盤貴子)が車椅子に乗った姿(泉晶子)で現れ、江戸川乱歩(高橋克典)との思い出話を語るLast Chapter truth に時代感覚が錯乱したのだった。

 Chapter7 Love で東京の花売り娘を同時代的に歌っていた、ハルピン生まれで、1965年に七十一歳で亡くなっている乱歩と縁ある芙蓉なれば、2003年に八十代で生存していても何とか辻褄は合うような気がして感心した。

 Chapter2 Rampo で弓子が長々と繰り返していた 虫虫虫虫…のリフレインの唇の動きを捉えたフェティッシュな感じが印象深く、Chapter10 Meta Theater で彼女が繰り返していた 江戸川乱歩は人を殺しているが軸になった、小説『蟲』に登場する芙蓉と柾木愛造のエピソードへの囚われを描いて、なかなか興味深い作品になっていたような気がする。

 その他の章題は、3:Secret、4:Suspicious、5:Odoriko、6:A Man、8:Intrigue、9:Phantom of Rampo。芙蓉を演じた常盤貴子は、肌こそ露わにしないものの吊るし責めにも応じ、既に五十路に入っているとは思えない若々しさで演じてはいたが、劇中の芙蓉と同じ年頃の時分の彼女が演じていれば、さぞかしという気がした。
by ヤマ

'25. 8.24. abemaTV



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>