ズームアップ ビニール本の女』['81]
『女高生偽日記』['81]
『団鬼六 女美容師縄飼育』['81]
監督 菅野隆
監督 荒木経惟
監督 伊藤秀裕

 今般の朝ドラではヒロイン寅子を演じる伊藤沙莉よりも、花江を演じている森田望智に惹かれていて全裸監督を再見してみたくなっていたところに、『みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ』に特集テーマ「ビニ本」とディスクに印字されていたものを見つけて「#119 第108回」を観ることにした。ビニ本と言っても判らないだろうからと言って、本と図鑑の中間領域にあるビニ本・裏本・自販機本という有害図書の一つだと定義づけていたのが可笑しかった。ズームアップ ビニール本の女【早野久美子】、女高生偽日記【荒井理花】、団鬼六 女美容師縄飼育【麻吹淳子】の三作品が採用され、+1が言わずと知れた泉じゅんの天使のはらわた 赤い淫画と、奇しくも揃って'81年作品が並んでいた。僕が大学を卒業して、郷里に戻って二年目となる年の作品だ。『天使のはらわた 赤い淫画』は半年余り前に再見したばかりだったので観送ったが、三作のなかでは『団鬼六 女美容師縄飼育』が最も目を惹いた。

 先ずズームアップ ビニール本の女』を観たのだが、かの『天使のはらわた』の村木と名美ではなくて、キムラ(北見敏之)とナミ(麻吹淳子)のなんじゃこりゃ話だったように思う。天使のはらわた』シリーズの日誌例によって“雨”は出てくるし、“襲われる名美”も出て来ると記したように、まさに“襲われる名美”から始まる作品ながら、雨に替わって放尿が繰り返される作品だった。天使のはらわた系を装いながら、主軸は小水フェチを狙った映画で、だからこそ今回の特集でもフィーチャー女優がクレジットトップの麻吹淳子ではなく、マコを演じた早野久美子になっているのだろう。両者に幾度もあった放尿場面での最も念の入ったシーンは確かに早野久美子のほうが演じていた気がする。

 だが、作品的には、小水フェチでもなければ、呆れるほかない映画だと思った。ナミがビニ本製作者と思しきカワモト(草薙良一)から盗んだ五百万と思しきカネをキムラに百万づつ繰り返し押しつける行為にしても、キムラに強姦された復讐として今度は逆に彼を縛りつけて玩具にして交わる行為にしても、訳が分からない。

 また、ビニ本の女王として鳴らしていたという人気女優を名前しか知らない業界人のカメラマンというのは何なのだという気がするし、ビニ本カメラマンが二年前はCMディレクターだったという設定も腑に落ちないところだった。しかも、私を撮ってと押しかけてハード撮影に挑んだナミを撮った肝心の写真が何ともおざなりな映りの写真で、脱力した。これでは特集タイトル「卒業」の元に先月観た『ズームアップ 卒業写真にまるで及ばないズームアップだと思った。


 次に観た『女高生偽日記』に関して、みうらじゅんはカメラはカマロであるとして台詞を取り上げていたが、僕の記憶では「カメラはカマラ」であってこそ魔羅なのだから、カマロというのは誤りだと思ったが、確かにカマロとも聞こえる微妙な音声だった。

 写真集「荒木経惟の偽日記」(白夜書房)より、と映し出して宣伝する商売上手というか、ちゃっかり感に失笑していたら、冒頭に監督を務めた荒木自身が登場して件の台詞を発したわけだが、その後のモデルと入浴しながらの戯れめいた言い寄りに、後にセクハラ・パワハラを訴えられた彼の撮影現場のノリがまさにこれだったのだろうと得心した。無理やりともそうではないとも双方が言えそうなドキュメンタルな記録性が興味深かった。

 自身の名と被るところのある「アナーキー」というフレーズを好んで使い、自身のセールススタイルともしていた覚えもあるのだが、映画作品でもいかにもそれらしい無秩序性を押し出していて、脚本の大部分を蔑ろにしたのではないかという気がしてならなかった。

 今回の特集における本作でのフィーチャー女優はトップクレジットの荒井理花だが、あまり魅力は感じられなかったように思う。ただ画面全体からは、妙にねっとりした生々しさが立ち上っており、アラーキー的な禍々しさには満ちていたような気がする。胸毛男に舐め寄る女の姿の捉え方だとか、当時名を馳せたラブホテル“目黒エンペラー”の一室と思しき回転ベッドや荒木の好みそうな木枠をあしらった和風部屋、白い服の幼女にシンボライズされている無垢、それとは対照的なノーパン喫茶やジャズのライブスポットでの乱交の猥雑、剃毛や縛りも含めて、アラーキー趣味全開が目を惹く作品ながら、映画としてはあまり面白くなかった。そのなかでは、カメラマンである夫の助手を務める若者をツバメにしていた年増女の絡みの場面が、悪くないように思った。

 '84年に『危険な年』、'94年に『カルネ』を観た六本木の俳優座シネマテンで当時上映していた『ベリッシマ』のポスターが映り込んでいたが、いかがわしいジャズバーに屯して破廉恥遊戯に耽っていた男が公務員だと言っていた台詞に当時、六本木には防衛庁があったことを思い出した。また、スタッフクレジットにスチール宇崎竜童とあったのが目を惹いた。親交があったのだろう。


 最後に観た『団鬼六 女美容師縄飼育』では、ふわ~っとした奇妙な存在感が“何処か仮初の生を遣り過ごしている感じ”というものを中丸信が好演していた一平が、特集テーマである「ビニ本」カメラマンには見えず、緊縛撮影マニアのように感じられた。助手の一人も現れず、ビニ本になった写真集が一冊も映し出されなかったうえに、妻の沙貴(志麻いづみ)とのエピソードに業界色が欠片も感じられないどころか、いかにもアマチュアマニア的なものだったからなのかもしれない。

 お話はロマポらしいトンデモものなのだけれども、ディーテイルがなかなか丁寧に撮られていて、かなり感心した。図らずも緊縛セックスの魅力に目覚めた美沙(麻吹淳子)が一平不在の部屋に忍び込み、スキャンティ一枚の自縛姿でベッドに潜んで待ち、一平から笑われて気に入ると思ったんだけど。あんた好きなんでしょ、こういうの。こういう愛され方もあるんだな、と…もう、バカ!と恨み言で甘える展開だったものだから、これが団鬼六ものかと驚いた。

 鬼六もの定番の監禁、凌辱、調教とは無縁の緊縛性愛を描いていたから、『蛇の穴』(東京三世社)よりとクレジットされていた原作がどのような小説なのか妙に気になったが、本作の物語とは掛け離れているような気がしてならない。

 自縛の下着一枚姿を笑われた美沙が、激しく交わった後で全裸立位の屈腕後ろ手縛りに股縄を掛けられたうえで、彼女を更にきつく縛り上げながら上目遣いに見上げる一平を見下ろして、愛おしそうに微笑みかける表情がなかなか好く、うつ伏せの伸腕後ろ手縛りで折り曲げた片足首に結わえられた指を、尻穴の舐め上げから背中へとなぞってくる舌遣いのなかでしゃぶられて、うっとりしている表情もなかなかのものだった。タイトルにもなっている女美容師の美沙を演じる麻吹淳子が『ズームアップ ビニール本の女』でのナミよりも、断然よかったように思う。

 このハイライト場面からすると、一平を巡って張り合う美沙と沙貴を重ねて交互に挿入を差し替えて煽る3Pや、二人を対称形の片足立ち吊り縛りにして向かい合わせの我慢比べをさせるシーンは、両女優の容貌肢体の苦悶の対照を際立たせてなかなかの趣向だったからまだしも、一平が外出している間に美沙が沙貴にイルリガートルでのビール浣腸を施し、沙貴が美沙の乳房や性器を幾つもの大型クリップで挟んで飾り立てる責めを同時に加え合って互いに呻きながら耐えている対決場面に至っては、もはや緊縛性愛とも懸け離れた珍妙さで蛇足の感を免れないような気がした。
by ヤマ

'24. 8.18~20. スカパー衛星劇場録画



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