『プリティ・リーグ』(A League Of Their Own)['92]
『カリフォルニア・ドールズ』(...All The Marbles)['81]
監督 ペニー・マーシャル
監督 ロバート・アルドリッチ

 今回の課題作は、男性競技と見なされがちなスポーツにおける女子プロの世界を描いた二作品だった。身体を張って頑張る女性たちとろくでもない男たちの対照がくっきりと浮かび上がったエンタメらしさ溢れる二本立てだ。

 先に観たのは、未見作品だった『プリティ・リーグ』。第二次大戦中、選手の出征で維持できなくなった大リーグに代わって、野球ファンを繋ぎ留めるために創設されたとの女子リーグを描いた著名作だ。ユニフォームスタイルからして創設時から色物イベント的に企画されていたようだが、果敢なスライディングをして腿の付け根にできた大きな擦り傷に手当をしている姿が描かれたりしていた。そしたら、エンドロールに映し出されていた、往年の選手たちによると思しき高齢女性たちのプレイを観て、半世紀近くを経てなお同年齢の男性選手たち顔負けの動きや気合を見せていたことに驚いた。映画に描出されていた以上に、本格的なベースボールを披露していたのかもしれない。

 物語そのものは、史実に材を得ながらも、いかにもなドラマ化の施されたフィクショナルなもののように感じられたが、それだけにエンタメ作品的な昂揚や展開、見せ場に事欠かず、興行的成功を得たのも道理という作りだったように思う。また、やたらと唾を吐き、粗野な振る舞いを見せるジミー・ドゥーガン監督を演じたトム・ハンクスは、この時分はまだ、こういう役どころを演じていたんだなと思ったりもした。リーグ随一の実力と人気を備えたドティ・ヒンソン捕手を演じていたジーナ・デイヴィスは、テルマとルイーズ以外に印象に残っている作品がなかったけれども、本作では、それを上回るものがあったように思う。

 おそらく本作は、この映画に描かれていたように女子プロリーグが野球殿堂入りしたことを契機に製作されたものなのだろう。僕はまだ、映画に描かれた女性選手たちの年齢には至っていないが、近しいところにまでは来ているからか、彼女たちの再会場面が思いのほか響いてきた。それにしても、戦時窮乏ということでの対応策が女子リーグ創設だったりしたアメリカと「欲しがりません勝つまでは」の我が国の当時における彼我の差には唖然としてしまう。


 翌日に観た『カリフォルニア・ドールズ』は、八年ぶりの再見となったが、感想的には当時と変わるものは殆どなかった。むしろ、どうしてこれがカルト的支持を得ているのかなとの疑念のほうが強い。

 当時の映画日誌にも記したが、あれで辛勝を手中にしたからといって、観ている側としては、カタルシスの得られにくい運びだったような気がする。カリフォルニア・ドールズのアイリス&モリーを演じていたヴィッキー・フレデリックとローレン・ランドンは頑張っていたように思うけれど…。

 それにしても、ろくに采配もせずドティに丸投げしていた酒浸りのジミー監督といい、アイリスを恋人にしながら巡業宿のモーテルに女を連れ込んでいたマネージャーのハリー(ピーター・フォーク)といい、身体を張って女性選手たちが頑張る脇で揃いも揃って、ろくでなしの男たちだった。いかにもな定型ではあるとは思うが、いささか安っぽい気がする。興行師エディ(バート・ヤング)がアイリスに持ち掛けた枕営業の件など安っぽさを通り越し、折しも映画監督の園子温や榊英雄の行状が取り沙汰されているさなかに再見したものだから、強要について何を以て強要と捉えるのかという観点から、なかなか興味深かった。人によって観方の分かれる実態を生々しく描いていて、ある意味、レスリング場面以上のものがあるように感じられる。

 エディとの一夜を屈辱的“取引”だったと捉えているように映ったアイリス自身は、強制されたとは思っていないだろうが、強要されたようには感じているはずだ。だが、おそらくエディのほうは、強要も強制もしていないと主張するに違いないと思う。約束通りマッチメイキングしたのだから騙してもいないわけで、褒められたことではないとの自覚はあっても、自由意思を侵害したりなど決してしていないと思っているはずだ。

 ある意味、自由意思の侵害の度合いにおいては、エディの求めた枕営業よりも、ハリーのセットした泥レス試合のほうがアイリスにとっての不本意が強いように描かれていた点が秀逸だったような気がする。“エディの求めた枕営業”と“ハリーのセットした泥レス試合”のどちらのほうがより耐え難い汚辱だと感じるのか、女性の意見を伺ってみたいと思った。だが、いずれの屈辱の度合いが強いにせよ、そう思うといかにも気分の悪くなってくる作品だった。なんだか慰安婦問題にも通じてくる「強制とは何か」というものを孕んだ映画だったような気がする。

 もっとも、一般的には、女性選手たちが泥にまみれ、汗にまみれ、汚辱にまみれ、悔し涙をシャワーで流してまで勝ち取った「All The Marbles(トップ賞とか、満額の賞金とかいう意味らしい)」というのが、素直な観方なのだろうとは思う。




『プリティ・リーグ』
推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/1813604678739107/

『カリフォルニア・ドールズ』
参照テクスト:mixi日記でのケイケイさんとの談義編集採録
【追記】'24. 2.29.
 DVD観賞で『美少女プロレス 失神10秒前』['84]を昨年末(12/19)に観た。那須監督のファンである映友から薦められて観たものだが、カルト的人気を誇る『カリフォルニア・ドールズ』['81]でさえもがどうしてこれがカルト的支持を得ているのかなとの疑念のほうが強い僕には、『セーラー服 百合族』の山本奈津子と小田かおるが、夢の島大学の篠原メグと八王子大学の横山しのぶに分かれて、対戦したり交わったりしつつ、嗚呼!!花の応援団的ノリのハチャメチャを繰り広げる本作は、ちっとも響いて来なくて、すっかり倦んでしまった。
 失神10秒前というのは、よもや観る側に向けたものではあるまいと思いつつ、竹内まりやの作ったMajiでKoiする5秒前に十三年先立つ10秒前は、どこから来たものだろうと思ったりした。
 本家『カリフォルニア・ドールズ』にも塗り込められていた、いわゆるWAM(ウェット&メッシー)などのフェチ・テイストは、キャットファイトや水着の食い込みのみならず、放尿や経血にまで及び、フェチものという点では本家を上回っていたものの、その方面の趣味嗜好がない者にとっては、むしろ呆れる感じのほうが強かった。
 それにしても、タンポンを装着すると破壊的にパワーアップするメグなどというトンデモ技に唖然とさせられた脚本が、先ごろイヴちゃんの姫』や『悪魔の部屋福田村事件と立て続けに観ている佐伯俊道であることに奇遇を感じた。

by ヤマ

'22. 4.10. DVD観賞
'22. 4.11. DVD観賞



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