『暗くなるまで待って』(Wait Until Dark)['67]
監督 テレンス・ヤング

 むかし観たローマの休日['53]は、作品的に大いに気に入りながらも、オードリーについては少々痩せ過ぎていて余り好みではなかったのだが、ティファニーで朝食を['61]やマイ・フェア・レディ['64]を遅ればせながら観て、思いのほか惹かれたことから、タイトルに覚えのある本作にも食指が伸びた。既見作か未見作か心許なかったが、遠い昔にTV視聴しているような気がする。悪党がこれほど悠長に手の込んだ芝居をするかねと思いながら観ていた前半は、少々倦んでいたけれど、スージー(オードリー・ヘップバーン)が、夫の旧友を騙るマイク・トールマン(リチャード・クレンナ)たちがグルであることに気づいて、はっとしたような顔をした場面から、俄然、面白くなったように思う。

 一年前の事故で失明したスージーが、夫のサム(エフレム・ジンバリスト・Jr)から少しでも自立をと促されながらの取組み中とは思えぬ異能を発揮して、悪党一味に立ち向かっていくのだが、明暗シチュエーションを巧く使った運びには、大いに感心した。生死を懸けた勝負の際に座頭市が闇を巧く利用しながらも「暗くなるまで待って」とは言わないように、スージーも口にはしないのだが、一味の襲撃に備えて家の中の電球を次々と割っていく様子には、座頭市の戦い方と同じものがあったように思う。

 映友の一人が「私はメガネ少女との「通信」のシーンが見事だと思いましたね。あのアイディアとその使い方がかなり効いてます。」と言っていたが、コン、コンと配管を叩く様子には戦闘慣れしたエージェントさながらの落ち着きと貫禄が窺えたような気がする。もうヤング・プリンセスなどではなく、アラフォー女性の佇まいのオードリーが、思いのほか新鮮だった。映友が言うように随所でアイディアとその使い方が光っていたと僕も思うなかで特に感心したのは、ロート(アラン・アーキン)が冷蔵庫の扉の付け根に挟んだ布地の使い方だった。スージーに与えるダメージと冷蔵庫から漏れる白い光の効果が抜群だったように思う。

 先輩映友が「ギャッと叫んでしまった」と挙げていたスージーの足首掴みの場面については、僕はその直前のロートの跳躍に唖然とし、月の輝く夜に』の映画日誌で言及している映画『危険な情事』のアレックス(グレン・クローズ)を思い出した。もう死んだと思っていた彼女が浴槽から飛び掛かってくるシーンに吃驚しつつも反則だと思った覚えがあるのだが、'80年代の終わりに文法違反だと思った荒業をその二十年前にやっていたことに感心した。
by ヤマ

'21. 9.14. BSプレミアム録画



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