『シルバラード』(Silverado)['85]
『100万ドルの血斗』(Big Jake)['71]
監督 ローレンス・カスダン
監督 ジョージ・シャーマン

 第二次世界大戦の戦勝国のなかでも、自国が戦場になることの殆どないままに戦後の世界経済を牽引することによって世界に冠たる第一国となったアメリカ合衆国だが、そのアメリカン・スピリットを喧伝するうえでの絶好のアイテムとして黄金期を迎えたようにも見受けられる西部劇は、亡父の愛好する映画ジャンルで僕の映画好きの端緒ともなったものだ。しかし残念ながら、1960年代前半あたりまでの黄金期を物心つくに至らぬ歳で迎えたために、スクリーン観賞を果たせている作品が、あまりない。黄金期の作品のほとんどはTV視聴でしかなく、ちょうど時期的に重なった公民権運動の高まりやベトナム戦争の泥沼化などから、その後は、荒っぽい開拓精神の称揚や先住民を侮蔑的に描くことへの風当たりが強くなって、西部劇そのものがあまり製作されなくなったり、変質してきて、僕の青年期には、アメリカン・ウエスタン劇を観る機会がほとんど得られなくなっていたような覚えがある。

 それでも時々入ってくる西部劇には足を運ぶようにしていたのだが、'80年代の『シルバラード』は、かねてより気になりながら観逃していた“遅れてきた西部劇”で、このたび初めて視聴したところ、なかなか面白かった。若造役のケヴィン・コスナーや黒人ガンマンを演じたダニー・グローヴァーの若さが懐かしく、'80年代作品なのに、かつての西部劇の風味をよく湛えていたように思う。もっとも、悪党たちに立ち向かう側のガンマンたちに黒人ガンマンを配した作品は、黄金期の作品では観覚えがないような気がする。モーガン・フリーマンが相方のネッドを演じた許されざる者['93]は、'90年代の作品だし、ジェイミー・フォックスが主人公を演じたジャンゴ 繋がれざる者['12]やデンゼル・ワシントンがリーダーのサムを演じた『マグニフィセント・セブン』['16]は、今世紀になってからの作品だ。

 それにしても、ジェイク(ケヴィン・コスナー)を牢に捕えていたラングストン保安官にしても、ペイドン(ケヴィン・クライン)と因縁のある元無法者のコッブ保安官にしても、まったく西部の町の保安官というのは、言わば、昔の日本のヤクザの親分のような顔役だと改めて思った。そして、コッブを演じていたブライアン・デネヒーが、悪辣牧場主マッケンドリックとつるみながらも、彼の手下の隻眼牧童頭のような酷薄悪党ではなく、一筋縄ではいかない曲者ぶりを醸し出して、なかなかの存在感だったように思う。

 ところで、あの顛末の後にもなおエメット(スコット・グレン)&ジェイクの兄弟がカリフォルニアに向かわなくてはならない理由は、何だったのだろう。別れのほうが絵になるにしても、なにもハンナ(ロザンナ・アークエット)たちを残して立ち去らなくてはならない事情はなかったような気がしてならなかった。

 二日後に観た『100万ドルの血斗』も、'70年代の西部劇だから、既に黄金期は去ってからの作品だ。初めて観たが、驚いたことに、ジョン・ウェイン【ジェイコブ】とモーリン・オハラ【マーサ】が、孫持ちの訳あり夫婦を演じていた。この二人が出演して往時を偲ばせるような作品が、なにゆえ子供を撃ち殺す場面を序盤に置いてあるのか、全く以て不可解だったが、西部魂['41]の原題になっていたウエスタン・ユニオン電信会社の看板の提げられた鉄道駅の名前にすらなっていた大地主マッキャンドレス夫妻の孫息子ジェイク(イーサン・ウェイン)を強盗団が拉致して連れ回す意味が何処にあるのかと言えば、追跡劇に仕立て上げるためとしか考えられないというような、何とも合点の行かない運びの物語だった。凶悪強盗団の首領フェイン(リチャード・ブーン)の思惑が全く腑に落ちない。

 手紙を読むときには老眼鏡を必要とする歳になっているレジェンド・ガンマン“ビッグ・ジェイク”をジョン・ウェインが演じていて、流石にあの大きさの文字なら必要ないだろうにと思わぬでもなかったが、もはや二十世紀に入り、大陸横断鉄道どころか、車やバイクまでが登場し、スコープ付きの狙撃銃が威力を発揮する時代を迎えている西部劇という意匠が、その効果のほどはさておき、もしかすると珍品としての真骨頂なのかもしれない。こちらは黒人ガンマンではなく、先住民ガンマンが相棒になっていた。

 それにしても、五十路になっても凛として美しいモーリンは、やはり流石だと観惚れてしまった。目にも鮮やかな白いブラウスも黄色のドレスも、よく似合っていた。妻の写真を収めた懐中時計を肌身離さず持っていたジェイコブが十年以上も家を出ていた理由は何だったのだろう。数日前に観たユリシーズ['54]のような話だと思った。単に家に収まっているようでは、英雄たり得ないではないかという制作側の御都合だったのではないかという気がしなくもない。

by ヤマ

'20.12.20. BS-TBS録画
'20.12.22. BSプレミアム録画



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