『LOVE』(Love)['15]
監督・脚本 ギャスパー・ノエ

 前日に観たエンター・ザ・ボイド['10]と合わせて、宿題だった映画だ。アダルトビデオをきちんと観たことがあまりないので定かではないが、AVにもなさそうなオープニングに意表を突かれたまま、最後にマーフィー(カール・グルスマン)がバスタブのなかで、幼い息子ギャスパーを抱きしめ「人生はつらい」と零しつつ、息子共々二人して泣いている“素っ裸の二人で始まり終わる映画”を観ながら、些か情けない気持ちになった。

 劇場版と違って3D映画ではなかったこともあってか、ひたすらセックス&ドラッグで綴られた本作には、いくつかのイメージショットを直接的に継ぐほどに前作の残像が色濃く感じられたのだが、そこには“猥雑な映像美”を思わせるものはなく、確信的に“猥褻な映像美”を志向しているように見受けられた。だが、離脱した魂の彷徨を描いた前作なれば143分の長尺にもそれなりの必然性が感じられたことに対して、135分の尺が本作に必要だったようには到底思えなかった。

 興味深かったのは、映画学校に行っているらしい“巴里のアメリカ人”で、人間の根源たる「血と精液と涙の映画を撮りたい」と語るマーフィーにとってのベストムービーが2001年:宇宙の旅['68]だったことだ。それが、およそ血と精液と涙とは繋がらない作品だったことから、そう言われてみれば、前作『エンター・ザ・ボイド』の幻覚イメージの描き方や時空の飛び越え方には、確かに『2001年:宇宙の旅』に通じるものがあったと得心した。

 そのマーフィーが写真に撮った恋人エレクトラ(アオミ・ムヨック)の一見同じカットと思しき2枚組の連作が、微妙にズレた2枚であることが意味深長で印象深かった。そして、マーフィーにとってその名も象徴的なエレクトラの願望に沿うようにして誘い込んだ3Dならぬ3Pのアヘン・セックスに加わったオミ(クララ・クリスティン)の不慮の妊娠により、エレクトラと別れる羽目になった失意に囚われ続けていたマーフィーは、出世作カノン['98]での「ATTENTION!」を彷彿させるクレジットによって序盤に映し出されていた「失敗する可能性があるときは必ず失敗する」とのマーフィーの法則に従っていたわけで、エレクトラの目を盗んで交わしたオミとのセックスでコンドームが破れたのは不運な失敗だったということなのだろう。

 それはそうなのかもしれないが、その失敗によって「女と暮らすのはCIAと寝ることだ。秘密は持てない」とぼやき、妻オミに悪態をつくマーフィーは、「過去を整理して。私は未来の面倒をみる」と幼子を外遊びに連れて出る彼女の弁を到底全うできそうにないから「人生はつらい」などと泣くわけだ。そこには弥生、三月 -君を愛した30年-の山太こと山田太郎が息子の歩に「人生はタイミングだ」と零し、息子から「実感こもっているなぁ」と言われていたようなペーソスなどはなく、マーフィー自身が繰り返し自嘲していた“ルーザー(敗北者)”しか浮かび上がっていなかったような気がする。

 エレクトラに導かれるようにして辿った、3人プレイどころかシーメイルとの体験まで含む放埓なドラッグ&セックスのアバンチュールを重ねたことの咎は、そこまで重いものかと思いつつ、マーフィーのエレクトラへの執心が表題の「LOVE」であるようには感じられなかった。脚本・監督を担っているのがノエなれば、おそらくそこのところは確信的なものなのだろう。ドラッグ同様に、酩酊と陶酔はもたらしても、愛の営みなどではないのだと言っているような気がしてならなかった。そして、マーフィーの法則に言う失敗は、オミの不慮の妊娠などではなく、エレクトラの導きによって重ねた放埓なD&Sのほうだと言える造りにしている辺りが、『カノン』を「これはモラルについての映画だ」と言っていたらしい、いかにもギャスパー・ノエの作品だという気がする。

 そのうえで、妙に可笑しく面白かったのが、美術家を志していたエレクトラの元彼である画廊経営者のノエ(ギャスパー・ノエ)に嫉妬して、パーティでの深酒により暴行を働いた“巴里のアメリカ人”マーフィーに対して、フランス人警官が、'60年代のアメリカ人を讃え、その博愛主義を見倣えと諭していたことだった。その当時、フリーセックスを唱えていたフラワーチルドレンのカルチャーは、今かの地では、どのようなことになっているのだろうとふと思った。

 それにしても、本作は劇場では3D映画として公開されていたようだが、どアップになった男性器から客席に向かって迸る射精の場面は、日本ではボカシが入っていて何てことないにしても、無修正の3Dで晒されたら、どういう気分になったのだろうと呆気にとられた。
by ヤマ

'20. 4.14. DVD観賞



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