“MOOSIC LAB”in Kochi/ゴトゴトシネマコレクション
 音楽×映画の祭典 ムージックラボ

一日目
 『光と禿』['16] 監督 青木克齊
 『聖なるもの』['17] 監督 岩切一空
二日目
 『月極オトコトモダチ』['19] 監督 穐山茉由
三日目
 『内回りの二人』['18] 監督 柴野太朗
 『ドキ死』['18] 監督 井上康平

 チラシに記された“新進気鋭の映画監督とアーティストの掛け合わせによる新感覚の音楽×映画”との惹句に観過ごせないものを感じて視聴しに行ったのだが、一日目の二作品を観て、もう新感覚には付いて行けない年回りになってしまっているように感じた。肝心の音楽が、『光と禿』のクリトリック・リスにしても、『聖なるもの』のボンジュール鈴木にしても、さっぱり魅力的には聴こえてこなくて、映画としても惹かれるものが殆どなかった。

 先に観た『光と禿』では、視覚障碍のある梢(岸井ゆきの)の人物造形の自然体が目を惹き、彼女の中学時分からの友人を演じた樋井明日香が好もしかったが、いま人気があるとのスギムの演技も歌も僕にはさっぱりで、「そりゃあ、いくらバンド名とはいえ、Anal Cunt なんて書いたTシャツ着て不用意な振る舞いをすりゃあ、気色悪がられるのは当然だ」としか思えないし、言うところの“新感覚”について行けなかった。

 続いて観た『聖なるもの』も、ズーミングしてカメラを振る画面など映画だと思えない僕には、なかなかツラいところのある作品で、大学キャンパスでの新歓風景に、四十年前に卒業した母校は今こんなふうになっているのかとか、高田馬場駅前のビッグボックスのミニチュアを岩切(岩切一空)が破壊する特撮と実写を交互に入れた場面が目を惹いたものの、作品自体にはあまりピンと来るものがなかった。本作に寄せられるであろう辛口評を前以て作中に取り込んでいて、政経学部3年の橘(縣豪紀)や理工学部2年の小川(小川紗良)の台詞で先手打ちしてあるところが自虐ネタには思えないイクスキューズのように映ってきて、妙に小賢しくて気に障ったのも、僕が“新感覚”について行けない逆恨みだったのかもしれない。

 だが、翌日観た『月極オトコトモダチ』は、とてもデリカシーに富んだリアルな真情を汲み取っていて、秀作愛がなんだを想起させる面白さに感心した。柳瀬草太(橋本淳)の体現していた優しさがマモちゃんに通じるものを感じさせ、アラサーライター望月那沙(徳永えり)の抱えていた“なにやら自身の内でもめんどくさそうな恋愛心情”というものが『愛がなんだ』を想い起させたのだろう。

 それにしても、レンタルの友達などというサービス業があるとは思わなかった。何だか気が知れないという気がしてならないが、先ごろ観たばかりのアイネクライネナハトムジークでも改めて提示されていたように、出会い方が重要なのではなく、出会えてよかったと思える関係性を持てることが重要なのだから、その形が何であれ、いいのだろう。最後の場面でもなお“付き合う”という言葉に反射的にこだわっていた那紗の持つめんどくささには少々呆れたが、那紗のめんどくささは同時に、脚本監督の穐山茉由が内在させているものなのだから、やはり在りがちな恋愛関係の始まりで終えたくなかったのだろう。

 だが、“記号としての言葉の持つ意味は解釈次第でもある”ことをレンタル友達のキャリアを積むなかで熟知しているであろう草太なれば、そのことをも充分に承知したうえで、上手く解釈して行けそうに思えた。レンタルで友達時間を買うという感覚には付いていけないながらも、それを新感覚としてきちんと捉えた映画の感覚には充分ついて行ける気がした。

 また、新感覚の音楽×映画というコンセプトによる“MOOSIC LAB”作品としては、抜群に音楽が活かされていた気がする。音楽と言葉を通じて描出された“人と人との関係性の織りなす綾”が、なかなか鮮やかだった。ルームメイトでミュージシャンの小野珠希(芦那すみれ)に充ててBOMIの歌う♪ナニカ♪がよく活かされていたように思う。

 三日目に観た『内回りの二人』と『ドキ死』は、日曜の午前、旧知の前横山隆一記念まんが館長と二人での貸し切り状態で観た。実に自主映画っぽく若々しい映画に何やら笑みを誘われながら、還暦を過ぎた二人だけで観賞している漫画チックな状況が妙に可笑しかった。そのせいか益々もって、若い子たちが何かやってる姿を観るのはいいなぁとの思いが湧いてきた。どこかマサラムービーっぽく、取って付けたように歌が始まるのが意外とよかった。

 先に観た『内回りの二人』は、恋人までの距離(ディスタンス)踊れ!トスカーナを想起させる“夜の街をふたりで歩き回る”映画なのだが、ビフォア・サンライズまで歩いた最後の終え方に作り手の意思が窺えて面白かった。続けて観た『ドキ死』は、勝手にふるえてろを想起させるような妄想力が可笑しい作品だった。
by ヤマ

'19.10.11~13. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



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