『SCOOP!』
監督 大根仁

 脚本・監督を担った大根仁は、もしかすると芸能スクープ雑誌の現場を映画製作の現場に見立てていたのかもしれない。最盛期の過ぎたメディアとしてかつての勢いを失っている雑誌メディアのスタッフ会議のなかで、馬場チャン(滝藤賢一)が「みんな、昔話しかできねぇのかよ」と過去に報道スクープをものにして賞与を得た話の繰言を重ねるスタッフの今やすっかりサラリーマン化している状況に対して、毒づき叫ぶ場面を観て思った。

 だから、訳知り顔の冷めた面持ちで捌くように仕事に臨む連中のなかにあって、最初は「サイテーの仕事ですよね」とやる気のまるで見えなかった行川野火(二階堂ふみ)が、横川定子副編集長(吉田羊)の睨んだとおり都城静(福山雅治)とコンビを組むなかで、記者魂に火が点くようになる物語を書いたような気がした。

 その記者魂とは、とにもかくにも個人的な熱情なのだが、重大犯罪の容疑者の現在の顔写真を、警察がメディアに抜かせまいとガードを固める困難な状況にあって果敢に突破するモチベーションとして、ほぼ腹いせに近い個人的なむかつきをほぼ全面的に肯定している形になっているところが気に障った。個人的心情としての本音を露にする熱情が現場に必要だからと言って、こういう形での理解の得られやすさに作品が流されていいとは、やはり思えないところがある。

 娯楽としての映画が感動【ゲージツ】を生み出すために求められるべきことと、娯楽としての雑誌が啓発【報道】を生み出すために求められるべきこととにおいては、やはり私的熱情と公的熱情として大きな違いがあるような気がしてならない。

 静の最期の迎え方に対するヒロイックな設え方にも違和感が残った。また、このような作品なればこそ、日本で一番悪い奴らのような昭和の香りが漂わなければ嘘なのにそれがなく、後妻業の女のような軽妙にも乏しくて、何だか味の悪い作品だった。64-ロクヨン-前後編に感じたものと通底しているような気がする。

 そもそも映画の開始早々に華々しく打ち上げられた大スクープ場面で、「花火の音が聞こえるわけないじゃん」などと思ってしまったところで躓いたのだが、エンドロールに原作映画『盗写 1/250秒』(原田眞人監督)と出て来て、原田作品の焼き直しなら、僕と相性が悪いのも無理ないと思った。アメリカン・エンターテイメント映画志向の強かった気のする昔の原田作品なら、いかにもありそうな“いわくありげな凄腕の場末ロートルと新米のバディもの”という感じだったのだが、未見の『盗写 1/250秒』について当たってみると、本作の原作というよりは、本作の前日譚という感じの作品のようだ。もしかすると、都城静がチャラ源(リリー・フランキー)に負っている重い借りというのが『盗写 1/250秒』に描かれているものなのかもしれないと思った。

 それにしても、馬場チャンを演じた滝藤賢一はよかった。静を偲ぶあの場面、少々取って付けた感じではあったが、おいしいところを持って行っていた気がする。最初に印象づけられた映画は、ゴールデンスランバーだったが、最近は本当によく見かけるようになった。

 だが、報道担当からグラビア担当に転進して雑誌の発刊を支えるヌードグラビアの仕事に邁進し、静から「脱がせの馬場チャンの腕で警察のブルーシートも脱がせちゃってよ」というような声を掛けられつつ現場かく乱の頼りにされ、「東大生モデルを脱がせたぞぉ~」との雄叫びを誇らしげにあげたり、定子のほうに編集長ポストを取られても副編の位置で気勢を上げ陣頭指揮をしていた馬場チャンというキャラクターを造形しながら、二階堂ふみの下着を取ることもできない濡れ場しか演出できないのであれば、馬場チャンに顔向けできないというくらいの気概がなければ、本作はダメなんじゃないかと情けなく思った。なにも馬場チャンに相応しく剥き出しの尻の接写やバストトップをさらせと言うのではない。少なくとも上下とも下着を着けたままのベッドシーンをソフトタッチに撮って済ませるのでは『SCOOP!』という映画は死んでしまう、くらいの個人的熱情を見せなければならない気がする。自分が新人時代から育て上げたモデルのゴシップ記事は「ウチから出すわけにはいかない」ときっちり潰していた馬場チャンは、編集長ポストは定子に持っていかれたとしても、「SCOOP!」誌の真の屋台骨だった。

 このような物語を撮るには、いかにも作り手の迫力不足が目立ち、ぬるくて仕方がなかったのだ。高級ホテルの防音ガラス窓越しの遊興打上げ花火の音のごとく肝心のものが響いてこない気がした。上っ面でなぞるのではなく、昭和の時代のB級秀作の気合の入った作品群の爪の垢を煎じて呑んでからでないと描けない題材だという気がしてならない。




参照テクスト:ケイケイさんの掲示板での作品談義の編集採録


推薦テクスト:「ケイケイの映画通信」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1955979234&owner_id=1095496
推薦テクスト:「ライ麦畑でぴ~ひゃらら」より
http://satumaimo-satoimo.blog.jp/archives/11819306.html
推薦テクスト:「大倉さんmixi」より
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969283702&owner_id=1471688
by ヤマ

'16.10.10. TOHOシネマズ2



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