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『ナイトクローラー』(Nightcrawler) | |||||
監督 ダン・ギルロイ
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ちょうどシネコンで上映中の『スポットライト 世紀のスクープ』が商業メディアによる報道の光の部分を描いたものだとすれば、こちらはまさに“夜のミミズ”とも言うべき闇の部分を描いたものとして、並び立つ作品だという気がして、実に面白かった。日本のテレビ局(特に日テレが多い気がする)にも流れてきて放映されているアメリカの犯罪報道の映像というのは、どういう形で撮られているのだろうとかねがね思っていたので、成る程こういうネタ売り業者の手掛けた警察無線傍受による脱法的なものなのかと大いに合点がいった。 それとともに、ローカルテレビ局やキー局による買付を経て日本にまで流通してくる過程に、なんとなく“マネーロンダリング”にも似た胡散臭さを感じないではいられなかった。ダーティな部分をフリーの個人や零細業者に担わせ、ネタの商品価値としての値付けによって過激さを煽り、視聴者を麻痺させていく現代のメディア社会の病んでいるというか壊れている部分を体現していたのが、ジェイク・ギレンホールの演じたルイス・ブルームなのだろう。チラシに記されていた「デ・ニーロが演じた『タクシードライバー』のトラヴィス再来!!」の意味するところは、そういうことに違いない。商業メディアと犯罪の関係性という点では、同じデ・ニーロ&スコセッシのコンビによる『キング・オブ・コメディ』['82]を想起させるものがあったように思う。また、『ウワサの真相』['97]なども併せて思い起こされた。 役者としては、これまでにも何となく不気味さというか気持ちの悪さを漂わせることのあったジェイク・ギレンホールの嵌まり役ぶりに圧倒されたが、その点では、僕はデ・ニーロよりも、ピーター・オトゥールが見せた狂気を宿した目の凄みのほうを想起した。 あれだけ頭が切れて周到なブルームが暴行をして奪った時計をいつまでも腕にしているとは思えないが、警察の事情聴取に応じて急場をしのいだ後で、路上に出て歩くブルームの腕に光る時計を少しクローズアップしたのは、作り手の立ち位置を示しているもののように感じた。親子ほどに歳の離れたニーナ(レネ・ルッソ)を誑し込むことや絵になる構図を求めて現場に手を加えることも含め、放送局に買ってもらうためには手段を択ばないばかりか、ライバル業者や邪魔になりそうな助手を躊躇なく葬り去る非情さでのし上がっていくブルームの行く末には、いずれ逮捕が待っていることを仄めかしていたように思う。 先ごろ観たばかりの『ルーム』の女性警官と同じような敏腕ぶりを本作の女性刑事が発揮するか否かは定かではないが、少なくとも、録画記録されていた取調場面での気迫には期待できそうな執念が窺えるように描かれていた気がする。 それにしても、ブルームにしても、彼の助手となったリック(リズ・アーメッド)にしても、職を得ようとしてもなかなかまともな職を得られない社会の貧困というか過酷さがなんとも生々しくて、「白人の金持ちが被害に遭う凶悪事件が最も視聴率が稼げる」というテレビ業界のベテラン女性ディレクターのニーナの言葉が実に禍々しく聞こえた。これ以上、日本がアメリカ型社会に向かうのは願い下げだと改めて思わずにはいられなかった。 推薦テクスト:「チネチッタ高知」より http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/16050801/ 推薦テクスト:「雲の上を真夜中が通る」より http://mina821.hatenablog.com/entry/2015/09/24/112023 | |||||
by ヤマ '16. 4.30. あたご劇場 | |||||
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