『アイアムアヒーロー』
監督 佐藤信介

 エンドロールを眺めていたら、東宝映画だと出てきて魂消た。三池崇史とか園子温といったブランドならまだしも、それ以外の監督でかような惨殺映画を東宝が自社名で公開する時代になったのだなとの感慨を覚えた。もっとも僕が観ていないだけで、既に実写版『進撃の巨人』を公開しているように、現在の邦画のメインストリームになった感のあるコミック原作となれば、なんら抵抗のないところなのかもしれない。

 それはともかく、悪趣味寸前のスプラッタ―活劇の部分よりも、最後に藪(長澤まさみ)が咥え煙草で車を運転しているのが妙に小気味よかった。僕が育ってきた映画文化のなかでは、煙草は絵になる小道具として映画作品の必須アイテムだったのに、禁煙ブームの同調圧力によって映画のなかでもすっかり見かけることが少なくなってしまっているので、「かようなアンチモラルのような映画では、最後にそこのところをしっかりキメてこそのものだ」という思いを抱かせてくれたから、思わず快哉を挙げたくなったわけだ。

 僕自身は、何年も前に煙草を止めてはいるのだが、高地を目指していた彼らが、食糧の備蓄場所も得て、ある種、心強い気持ちで富士を目指すエンディングで車を運転している長澤まさみを観て、「そう言えば、テルマとルイーズの最後のドライブ場面はどうだったろう」などとふと思った。僕としては、煙草を吸っていないはずがないように思える場面なのだが、なにせ二十五年前に観たきりなので、確証はない。

 ゾキュンに感染した同棲相手から受けた歯の全部折れた歯茎バイトと、高級腕時計をせこく腕中に巻き付けていたおかげで、からくもゾキュン化を免れた冴えない漫画家鈴木英雄(大泉洋)の「俺が英雄だ」を観ながら、高級時計をガメるせこさを棄てたときが、英雄がヒーローになったときだったのだなと思った。テイスト的には『マッドマックス 怒りのデスロード』系を狙っている感があったが、そこまでの切れ味はなかったような気がする。




推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20160505
by ヤマ

'16. 5. 1. TOHOシネマズ8



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