『さよなら、人類』(En Duva Satt Pa En Gren Och Funderade Pat Tillvapon)
監督 ロイ・アンダーソン

ヤマのMixi日記 2016年04月24日18:52

 始まるや否や、これはカナダ映画か北欧映画に違いないと思ったら、やはりスウェーデンだった。画面構成における徹底した絵画的美しさというものの判りやすさとは実に対照的な“物語と言うも躊躇われる展開のわけのわからなさ”を、不釣り合いと言うか、補完性において見事に釣り合いが取れていると言うか、どちらにしても際立って個性的な作品ぶりに、呆気に取られながら観ていた。

 ロイ・アンダーソン、もちろん初見である。三部作の第三作目とオープニングで告げられていたから観ているうちに、前二作を是非とも観てみたくなったが、高知では叶いそうにない。可能性があるとすれば、県立美術館の特集上映のみだ。

 不思議な魅力を湛えた画面が、画題とも言うべきモチーフを替えて次々と繰り広げられていたが、最初のはしに示された「標本」のイメージが語るように、どこか人間という不可思議極まりない存在を標本的に捉えているような気がした。

 そんななか、自分の最も好んだ「標本」が図らずも、僕がもう何年も前に止めた煙草を窓辺でくゆらせている裸の男の手から取った下着姿の女が一服吸って男の指に返し、寄り添って窓から外に淡い煙を吐き出している図という、本作の標本のなかではとびっきり凡庸な標本だったことに、改めて己が凡庸さを思い知らされたようで、少々癪だった。侮れない作家だと思った。何を思ってこの「標本」を差し込んだのだろう。全く嫌な奴だ。

 まるでゾンビのように血の気の失せたメイクを施されたサム(ニルス・ヴェストブロム)とヨナタン(ホルゲル・アンデション)の重ねる覇気も生気も感じられない営業活動【実に面白くもなんともない“面白グッズ”の販売】が、人の生の営みの核心を衝いているようで何だか情けなくなるのだが、「元気そうで何より」と繰り返される台詞が格別の慰撫でも皮肉でもないのが人生の有り体なのかもしれない。


コメント談義:2016年04月25日 06:33~2016年04月26日 20:10

(TAOさん)
 あっけにとられますよね~(笑)。
 でも終盤は鳥肌がたち、私も前2作が見たくなりました!


ヤマ(管理人)
◎ようこそ、TAOさん、

 そーか、たまの歌だ、確かに(納得)。久しぶりに聴いてみて、改めて感じ入りましたよ。いや実際、本作のモチーフの一つだったりしているんじゃないかしらん。
(https://www.youtube.com/watch?v=hw7oAFoddiE)

 それにしても、御見事な鑑賞文でした。敢えて一つだけ抽出して言及する画題の僕との差は、どーでしょ~(笑)。「思わず、”実存を省み”たりしてしまう」のは同じでも、己が凡庸を嘆くのと人類の不完全さに思いをきたすのとの格調の違いが…(あは)。これは拝借しなくちゃいけませんね。そのためには台となる拙日誌が要るなぁ。


(TAOさん)
 私はイカ天に登場したたまが大好きで、当時TVの録画から「さよなら人類」の歌詞を書き起こし、友人たちに配ったことがあるんです(笑)。

 スウェーデンの監督がたまを聴いたとはとうてい思えないんですが、すっとぼけた具合は似てますよね。

 ヤマさんが抽出された標本はぼんやりとした記憶しか残ってないなぁ~。批評性とかブラックユーモアとも無縁で、おじさん2人の覇気も生気も感じられない営業活動に近いけれど、「元気そうで何より」でもあるような、生の営みの核心っぽいですね。

 しかし、私が個人的に最も好んだのはおサルがキィキィ言うやつですから、こちらも格調どころか、幼児性と悪趣味を自覚しておりますよ(笑)。


ヤマ(管理人)
 イカ天もエビ天も愉しかったですねー。エビ天で審査員をしていた武藤起一が大学の同期生だったことを、後に知遇を得たときに知り、驚きました。沢尻エリカとの結婚離婚で注目を浴びた高城剛も審査員してましたね。まだ、テレビが創造的なものを持っていた時代でした。

 本作の作り手がたまを知っていたかどうかは無論さだかではありませんが、カルチャー世界のボーダレスって、思いのほか進んでますからねー。侮れませんよ(笑)。本作の捉えていた“実存”が侮れないのと同様に。
 ELPを好きな僕の友人が十代の時分に演奏したライブ録音をユーチューブに挙げてたら、「このキーボードをやっているのはどういう奴だ?」ということで、キース・エマーソンの側からメールが届いたらしいですからね。確か♪石をとれ♪の演奏だとか言ってた気がしますが。

 それにしても、おサル、ご無体な有様でしたね。本作が多くの人の目に触れるヒット作になっていたら、例によって愛護団体とやらが黙ってないでしょうねー。おサルじゃなくて、犬猫だったりしたら必至まちがいなしですよ。でも、顰蹙ソースのまるで掛かってないアート作品なんて、殆どないですよね。人間っていう存在がそもそも顰蹙の塊なんだから(笑)。




推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=3700229&id=1946176495
編集採録 by ヤマ

'16. 4.24. あたご劇場



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