『ウワサの真相』(Wag The Dog)
監督 バリー・レビンソン


 この題材ならば、もっと面白い脚本が書けたのではないかという気もするが、宣伝されていた権力の陰謀やマスコミの腐敗に対する風刺ということよりも、アメリカ的な文化の本質といったものが浮かび上がってきているところが興味深かった。つまり、過剰なほどの自己肯定と呆れるばかりの前向き志向、そして人間は有能であることが何にも勝るという価値観と何やら信じがたいほどの幼稚さ。しかし、そういったものを備えてなければ、一人前の大人ではないかのような強迫感のなかで彼らは生きている。

 ダスティン・ホフマン演ずるハリウッドの映画プロデューサー、モッツは、まさしくその典型である。だからこそ、何をやってもいいと思っているし、何だってやれると思っているかのように振る舞うのだろう。どんな難局やアクシデントにもへこたれ、挫けるわけにはいかないし、独創的で周到でまさに有能である自らに自信を持っていなければならないと思っている。だが、その割にやってることは、陳腐でパターン化しており、イージーだ。せいぜい大仕掛けであることだけが取り柄で、周到さとは掛け離れた大雑把な乱暴さで押し切り、ディーテイルはけっこう間が抜けている。実にアメリカ的なのだ。でも、陳腐でパターン化した大仕掛けだからこそ大衆に受けるのだし、所詮そういったキャンペーンに踊らされるのが大衆なのだということだろう。
 典型は確かにモッツだが、そういう眼でみると、ロバート・デ・ニーロ演ずる“もみ消し屋ブリーン”だって、アン・ヘッチの“女性報道官エームス女史”だって、かのウィリー・ネルソンが扮する“キャンペーンソングの作曲家ジョニー”だって、みんな似たり寄ったりだ。

 十代の時分、アメリカ映画によく出てくる‘Take it easy!’という台詞が好きだったが、この言葉には善くも悪くもアメリカの文化が滲み出ているような気がする。この映画に登場する人物たちは、姿を現さない大統領や国民も含めて、総ての人たちがイージーきわまりない。「戦争にはタイアップソングだ」「戦火に逃げ惑う少女の手には猫が要る」なんて脳天気な馬鹿さ加減を笑ってばかりもいられない。ヘッジファンドなんてその最たるものだ。ごく一部の大資本家の投資ゲームが世界の経済を危機に晒している。湾岸戦争の時だって、国連問題だって、アメリカの放恣加減には辟易とさせられたが、そういったものを生み出しているのが、この作品に現れているアメリカン・スピリットなのである。そして、戦後世界がアメリカナイズされてきたなかで、この成熟を拒むアメリカン・スピリットというものが地球規模で蔓延してきているような気がする。困ったもんだ。


推薦テクスト:「岡山で映画を観よう!!!」より
http://www5b.biglobe.ne.jp/~blackish/Movie/ReviewOfMovies/Movie3/WagTheDog.htm
by ヤマ

'98.11.30. 県民文化ホール・グリーン



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

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