『マイ・インターン』(The Intern)
監督 ナンシー・マイヤーズ


 脚本・監督作品5作のうち4作(ハート・オブ・ウーマン What Women Want』['00]、恋愛適齢期 Something's Gotta Give』['03]、『ホリデイ The Holiday』['06]、恋するベーカリー It's Complicated』['09])を観て3作について映画日誌を綴っている「お気に入り」とも言うべきナンシー・マイヤーズの新作で、かなり面白く観た。

 オープニングとエンディングで映し出された太極拳の動きのような“柔らかみ”を、人の至るべき円熟の境地として体現していたシニア・インターンのベンを演じていたロバート・デ・ニーロが素晴らしかった。あの物腰と笑顔、そして、ジュールズ(アン・ハサウェイ)がどうして貴方はそんなに、いつも最高のタイミングで正しい言葉が言えるのと驚嘆しつつ感激していた当意即妙なる叡智を人生経験によって身につけることができたら、どんなに素晴らしいことかと、十二年後にはベンの年齢を迎えることになる我が身の到底及ばなさを思いつつ、とても心惹かれた。しかも実践力というか機敏な行動力を備えていて、乱雑に不用品が積み上げられていた共用スペースの机を人知れず速やかに片付けたり、大胆不敵な家宅侵入によるチームプレイを若手を引き連れ見事に統率遂行するなど、言葉と物腰だけではないところが素晴らしい。

 そして、その鍵となるのは、老いたのち心からのインターンシップを持ち得るか否かだというのが、作り手の示していた回答だと感じたが、これが至難のものであることは我が身を思えば、容易に察せられる。だが、今や時代の遺物になりかけている電話帳というものの製作会社に四十年勤め、部長として印刷工場を仕切るサラリーマン人生をリタイアした後、長年連れ添った妻と死別して独り暮らしの空漠感を味わう日々を過ごしていなければ、ベンといえども見事なシニア・インターンに転身することはできていなかったのではないかと思わせてくれるところがミソというか観る者への救済であって、なかなか脚本の巧みなところだ。

 Eコマースによってアパレル業界で成功した若き女性社長で、自ら退職して育メン専業主夫を買って出てくれたという夫との間にもうけている小学生の娘との三人家族の充実した人生を謳歌しているように見えながらも、実はもう一杯一杯の限界域に近づいているジュールズを演じていたアン・ハサウェイは、あまり僕の好むところではない大口系美人の女優なのだが、その演じる役どころが好みに合っていることや『レ・ミゼラブル』『ラブ&ドラッグ』などでの惜しみない熱演に感心させられ、気に入っている。本作でもジュールズの気丈と聡明さについて、脚本での描き込み割愛を補ってよく演じていたように思う。ベンの出来過ぎとも言えるほどの立派さには及ばずとも、彼女の自身と夫を含めた家族に向けた眼差しの健気で冷静な卓抜した賢さは、CEO選びに勤しむなかで窺わせた聡明さとして、巧みに印象づけられていたように思う。そして、最後にベンをCEOに抜擢せずに、最高経営責任者を置くこと自体を止める展開に持って行っていたあたりに、ナンシー・マイヤーズの面目が窺えるように感じた。

 大いに興味深かったのが現代アメリカのジェンダー状況で、かつての“男らしさ”がマチズモとして弾かれた後に、すっかり軟弱で気概に乏しくなってしまった男性像というものに苛立ちつつ、自活力を得て威勢がよくなった女性たちが“ダンディ”への憧れを露わにするようになってきている様子が、日本と全く同じように感じられたことだった。アメリカと日本の同質性というものは既にここまで来ているのかといささか驚いた。道理でハロウィーンなんぞが日本でも大流行りになるわけだ。

 それにしても、フィオナ(レネ・ルッソ)の手揉み技は大したものだ。上半身マッサージで七十歳のベンを奮い立たせるのだから、もしかするとやわらかい手(監督 サム・ガルバルスキ)のマギー(マリアンヌ・フェイスフル)以上だったのかもしれない。





推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-7945.html
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1947171867&owner_id=3700229
by ヤマ

'15.10.29. TOHOシネマズ4



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