『442 日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』
(442 Live With Honor, Die With Dignity)
監督 すずきじゅんいち

 日米合作のほぼ全編が英語で語られ、日本人の登場しないドキュメンタリー作品を観ながら、日本という東洋の敗戦国が、三流とすら言われるその政治状況にも関わらず、欧米を中心とした先進国のなかにおいて戦後もそれなりの扱いを受け、経済復興を果たすことができたのは何故かということの一端が窺えたような気がする。

 米国陸軍第442連隊のことは、全く知らなかったわけではないが、米軍のみならず欧州各地で今尚かほどの賞賛と栄誉を与えられ続けているとは知らずにいたので、驚いた。編集による部分もかなりあろうとは思うものの、軍人や歴史家、日系部隊によって解放を受けたフランス、イタリアの地の人々、ドイツ軍に包囲されたテキサス大隊の救出やドイツのダッハウ強制収容所にまつわる人々ばかりか、第442連隊兵士のメンタリティを考察した医師の証言も加え、彼ら日系部隊が軍隊として如何に偉大なる功績を残しているかを讃える賛辞が、彼らの負っていた苦境の具体と共に、明快に重ねられていた。そして、それとは対照的に、今なお生存している80代後半から90代になる生き残り兵士の証言の慎ましさが、とても鮮烈な印象を残していたように思う。

 まさしく原題としてクレジットされていた“442 Live With Honor, Die With Dignity(名誉と共に生き、威厳と共に死した、第442連隊兵士)”というわけだが、ウィンター・ソルジャー/ベトナム帰還兵の告白['72]や日本鬼子 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白['00]での兵士の証言と同じく、当事者なればこその証言の説得力は重く、強い感銘を受けた。とりわけ、高齢のジョージ・T・サカトが「たくさんの人を殺したことで貰った名誉勲章を、自分が今なお常に身に付け続けているのは、死んでいった者たちのためなんだ。」と万感の想いで涙とともに語り、他の誰一人として武勲を誇るものなど一人もなく、家族にさえ戦争当時のことはずっと語らずに来ていたばかりか、悪夢にうなされることが生涯続いていることを明かしていたのが、印象深かった。それでも、求められて当時のことを証言をするようになって、うなされることが少なくなったという点では、それが武功ではなく残虐行為についてだった『日本鬼子 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』での兵士の言葉とも全く同じである点が、とても重要だと思う。

 それにしても、自分たち日系二世は日系ではあっても、決して日本人ではなく、あくまでアメリカ人として、その務めを全うしたのだと語り、アメリカは素晴らしい国だと語るとともに、あれだけの偉業を成し得たのはなぜかとの問いに対しては、一世から教えられた日本の心だと語り、口々に、武士道や誇り、恥、我慢、辛抱などといった言葉を日本語で挙げていたのが痛烈だった。明治の文豪、夏目漱石が理想の境地として残した言葉「則天去私」の精神の本旨は「天」にあって「国」ではないが、ふと想起させるものがあったのは、「去私」なる部分はまさしく彼の言葉通りのものを体現していたように感じたからだろう。

 アメリカ軍における最高栄誉との“名誉勲章”を受賞した最初の日系部隊兵士として紹介されていたサダオ・ムネモリ上等兵の功績は、投げ込まれた手榴弾の上に自らの体を投げ出して部下の命を救い戦死した勇敢さと自己犠牲にあったとのことだが、このことがあたかも日本の心の象徴のように受け取られかねない構成が少々気になった。確かに世間一般的には、戦後、著しくアメリカナイズされ、自己利益に敏感になった日本社会では失われる一方のようになったことだとも言われている。

 だが、先の東日本大震災の津波災害時にも、自身の避難をさておいて町民への避難勧告を放送し続けて犠牲者となった女子職員がいたように、或いはワールド・トレード・センター['06]に描かれたグランドゼロで命懸けの救出活動に携わった人たちのように、古今東西、必ずそういった人たちはいるのだ。ただ彼らがそれに見合った顕彰と栄誉を授けられているかは、必ずしも世の東西を問わず、極めて政治的であるからこそ、国民栄誉賞の検討対象になるのが、かの町職員ではなく“なでしこジャパン”なのだろうし、アメリカでもグランドゼロでの救出活動に携わった人々がシッコ['07]で捉えられていたような悲劇に見舞われ、キューバの社会保障を羨んだりしなくてはならなくなるのだろう。国家とは所詮そういうものだ。間違っても「則国去私」などを称揚してはならないと僕は思う。そういう意味では、なでしこジャパンよりもかの女子職員のほうを授賞対象として国が検討するようになってはいないことは悪いことではないとも思える。本来は、顕彰されることのほうが真っ当なのだが、国ゆえの危うさという点では、そのほうが遥かに大きいような気がするので、そうはなっていないことに安堵している。



推薦テクスト:「眺めのいい部屋」より
http://blog.goo.ne.jp/muma_may/e/561b3f42e2e3c8f41ae796e43368befc
by ヤマ

'11. 7.30. 民権ホール



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