風の記憶

   風が呼ぶ記憶は 水色

   いぬのふぐりの 淡い色

   春ですよ 春が来ましたよ

   日溜まりの中 片寄せあい

  そっとそっと 話し掛けてくる

  首筋 撫でる風がまだ


    冷たい 早春の色

 


風は目には見えないけれど

心臓の鼓動に 届くリズム


風が呼ぶ記憶は 緑色

狂おしいほど 繁る色

連獅子が 毛振りたてるよう

病院の窓辺 揺れていた

力強い 梢のダンス 

病が 飛んでいきそうな

すこやかな 真夏の色

 

風は優雅に時に激しく

樹の美しさを 引き出すもの

 

風が呼ぶ記憶は 無色

今吹かれてる この色は

何色に 染まるのだろう 

分からないから 生きていける

せめて今は 今だけの風 

子犬に 掛け声をかけて

走った 晩秋の色

 

風はどこからともなく生まれ

どこからともなく立ち去っていく