3月5日、長崎大学核兵器廃絶研究センターの研究会があり、全米科学者連盟のハンス・クリステンセン氏が世界の核兵器の現状と、その監視のための情報入手について報告した。クリステンセン氏の核弾頭数推定値は世界で最も信頼のおけるものと定評がある。最新の数値はロシア7,500発、米7,100発、9カ国で15,685発。
冷戦後、確かに米ロの弾頭数は減ってきた。しかし最近はそのペースが落ちている。04~08年の削減数が米ロそれぞれ3300、2500だったのに対して09~13年は300、1000だった。米ロは今後を見据えた長期戦略に入ってきたとクリステンセン氏は分析し、削減のための新しいイニシアチブが必要だと主張する。
いずれの核保有国も近代化計画が進められているが状況はそれぞれ異なる。増強/軍拡が進むわけではないが機能向上が図られている。
ロシアは旧ソ連時代の戦略核兵器システムを20年代半ばまでにすべて新しいものに置き換える近代化計画を進めている。3種類のICBMを2種類(6バージョン)に、2種類のSLBMを1種類に、2種類の戦略爆撃機を1種類にする。また戦術核の位置づけはNATOに比べて劣っている通常戦力の補完という。
米国は今後10年間に35兆円をつぎ込んで近代化を進める。これは核実験を行うことなく核態勢を維持・向上させるもの。弾頭は従来のものを再利用した「改良」によって現在の12種類を5種類に集約(3種類のICBM/SLBM共用弾頭、巡航ミサイル弾頭と核爆弾)する。結果として総数は半減できるとしている。また戦略原潜、爆撃機の代替計画も同時に進められている。
しかし財政難の中で計画通り進むか不明で、軍部は現状で十分とし、「新型」弾頭の信頼性に懸念を示しているという。
保有核兵器の詳細は大部分が秘密であるが米国だけが一部公表している。クリステンセン氏は、市民目線で核兵器を「監視する」ことは将来に関する質の高い社会的議論に不可欠だと指摘。しかし「何百ものピースからなる巨大なパズル」を解くような困難さがあると述べる。
彼が重視するのは先人たちの蓄積、政府の公式報道、図書館の資料、機密解除文書の請求、関係者との対話、そして人工衛星画像—いまはGoogleEarthで自由に見ることができる。旅行者たちはiPhoneで撮影した現場写真をネットに投稿している。すべての情報を精査して少しでも真実に迫っていくことが必要と結んだ。
政府が決定した15年度の軍事予算案は過去最高の4兆9801億円となった。社会保障費を除く費目は、前年度から軒並み減にもかかわらず軍事費だけは2.0%のプラスだ。予算案全体の5.17%を占めるが、23兆円余りの国債費(借金の返済)を除くと、実予算の6.83%にあたる。
実は軍事費はそれだけではない。2月3日に成立した「14年度補正予算(消費増税への緊急経済対策が柱)」に防衛省分2582億円が盛り込まれている。内容はヘリや装甲車などの装備品、活動拠点となる駐屯地・基地等の整備、米軍再編の着実な実施のための経費、PKOや海賊対処行動への派遣期間延長に係る経費等だ。
名目は経済対策(災害復旧・復興加速化など災害・危機等への対応)と追加財政需要(自衛隊の活動経費等)だが経済効果とは無縁だ。
さらにひどいのが「東日本大震災復興特別会計」。航空機と武器車両等の購入・整備維持費として15年度予算に329億円が計上された。しかもこのうち2/3以上が復興庁の「防衛復興政策費」-我田引水もいいところ。
さらに、防衛省以外で計上されている「隠れた軍事費」がある。
防衛省の4兆9801億円の軍事費のうち、2兆1121億円が自衛隊員(約25万人)の人件・食糧費、これまでの後年度負担(ツケ)の15年度支払い分が1兆8260億円。
15年度の活動経費は残りの1兆420億円だけ。4367億円が維持費(油購入、修理、光熱水料等)、4043億円が基地対策費。米軍再編経費等502億円、研究開発費305億円。実は武器など装備品の購入費は269億円しかない
つまり頭金の支払い分がほとんどで、後年度負担は2兆5623億円。14年度までのツケが3兆6304億円なので、15年度は4兆3667億円に。安倍政権になって45%も増えた!
※金額は15年度予算案
ステルス揚陸艦の配備へ
沿海域戦闘艦が掃海艦の交代配備へ
前畑弾薬庫の針尾島弾薬庫の統合近代化 土質調査費約5000万円
相浦駐屯地に団司令部設置;庁舎や隊舎の建設費等50億円
崎辺西側地区の用地取得費等 23億円
水陸両用強襲車30台の取得 203億円
崎辺東側地区岸壁整備調査費 2億円
おおすみ型輸送艦の改修費 6億円
「強襲揚陸艦」調査費 500万円
「地上電波測定装置」が完成。通信機器等の情報を横田基地へ
「地上電波測定装置」が稼働中
陸自オスプレイ配備計画
オスプレイ5機の取得 516億円
部隊の拠点整備費 106億円
その他関連経費 95億円
新型のC2大型輸送機の配備へ:海外展開用
迅速に海外展開できる機動師団に編成替えへ。大矢野原演習場でオスプレイを使った日米演習。
米海兵隊の定期的な実弾砲撃訓練
オスプレイが飛ぶことになるが、実際にはこれ以外の所でも訓練が目撃されている。
米軍と自衛隊の訓練強化
「敵基地攻撃」態勢の研究を行う航空戦術教導団(横田基地)の飛行教導群を設置。
「ミサイル防衛」用レーダー稼働中。
普天間基地から岩国基地へ移駐した米軍の空中給油機のローテーション配備・訓練計画。
空母艦載機のタッチアンドゴー訓練場をねらう動き
陸海空自衛隊による強襲揚陸演習を実施
陸自警備部隊設置計画;駐屯地取得等32億円
1964年11月12日、日本で初めて米海軍の原子力潜水艦が佐世保に寄港した。それから今月でちょうど50年になる。この間の原潜の寄港回数は349回。他に原子力空母が15回、同巡洋艦が7回を数える。
同盟国の戦力強化と海外の米軍基地の縮小を謳うニクソン・ドクトリン(1969)をうけて佐世保も基地返還が進み、76年には基地名が「弾薬廠」に格下げされる。通常型潜水艦の母港化を機に80年に「佐世保基地」が復活するが、前後の8年間、原子力艦の寄港はゼロであった。しかし復活後に急増し、特に原潜への電力・蒸気供給施設が完成(96年)後は大幅に増加。冷戦終結後の25年間に全体の85%が集中。
68年にソードフィッシュが放射性物質を排出した疑いが濃厚となったが日米政府はそれを隠ぺい。また08年にはヒューストンが2年以上にわたり、日本への寄港時も含めて放射能漏れを起こしていたことも発覚。さらに04年には寄港中のラ・ホーヤが電力ケーブル火災事故を起こし、原因究明もせずに出港してしまった。
佐世保市は02年から原潜の放射能漏れを想定した防災訓練を実施しているが米軍は「起こりえない」として参加を拒否している。
原潜の入出港に際しては24時間以前の通報が義務付けされているが、過去に4回の違反(2回は無通告入港!)があった。
01年の「同時多発テロ」以降、米軍は入出港情報の事前非公表を佐世保市に要求し、現在も続いている。市民が知らないままでの「動く原子炉」の寄港は177回、全体の半数を超えた。米軍基地自体が警戒レベルを下げる中、解除に応じないのは、放射能チェックもされない自由な入出港を狙っているのではないだろうか。
NPT準備委員会に5ヶ国が初の核軍縮報告書
米軍の作戦配備中の核弾頭数(公表値)
5月9日、来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第3回準備委員会が終了しました。中央アジア非核兵器地帯条約の議定書に核保有5ヶ国が署名するという進展はあったものの、来年の再検討会議の合意文書のたたき台となる「勧告案」は採択には至りませんでした。
核保有国は「核軍縮」がNPT条約で義務づけられています。2000年の再検討会議では「自国核兵器の完全廃絶」を誓約しました。しかしその方向性は見えません。今回の準備委員会では10年の再検討会議での合意に従い、5ヶ国が初めて核軍縮に関する報告書を提出しました。
米国は13年9月末の保有核弾頭数(退役・解体待ちを含まず、以下同じ)を4,804発と公表。冷戦時のピークよりも85%減らしたことなどを強調しますが、オバマ政権の4年間では309発の削減でしかありません。80年代以降、核弾頭を大幅に減らしたのは共和党のブッシュ親子の政権でした(図を参照)。またこの報告で攻撃型原潜に搭載していたトマホークの核弾頭をすべて解体したことを明らかにしました。
フランスの保有数は300発以下。退役分はすべて解体し、未配備もないことを明らかにしました。しかし08年以降の削減はありません。
イギリスは保有数が225発以下であるとし、20年代半ばに180発以下に(配備数は120発以下)にする見通しだと報告しました。
一方、ロシアと中国は保有数には言及しませんでした。中国は自衛のための保有であり、「核の傘」は提供しないし、非核国や非核地帯には使用しないと明言した唯一の国だと強調。
全体として核兵器の削減のテンポはひじょうにゆっくりです。全米科学者連盟のハンス・クリステンセンはNPT未加盟国も含め、すべての核保有国で、今後20年間にわたる核兵器近代化計画があると指摘します。その種類は少なくても弾道ミサイル27、艦船8、爆撃機5、巡航ミサイル9、核弾頭8に及びます。核兵器近代化は核軍縮・廃絶への取り組みを遅らせ、妨害するもの。これを許さない世論構築も重要です。