PEACE TOPICS

『平和新聞ながさき版』不定期掲載

【2011年6月25日】

武器輸出緩和への風穴広がる

日米共同開発の迎撃ミサイルを第三国に輸出へ

■打ち出された日米同盟深化の方向

 6月21日、日米安全保障協議委員会が開かれ、日米軍事同盟をいっそう強化・拡大する方向を打ち出しました。発表された共同文書は、日米間の軍事協力の向上で「変化する地域及び世界の安全保障環境に対処する」と明記。普天間基地の「辺野古移設」の再確認や、鹿児島県馬毛島の米空母艦載機の離着陸訓練基地化などを盛り込みました。また東日本大震災で米軍と自衛隊がとった共同作戦を「将来のあらゆる事態への対応のモデル」とするとしました。

■米国経由のミサイル輸出にゴーサイン

 さらに見逃せない点は、日米で共同開発中の迎撃ミサイルSM-3ブロックIIAの第三国への輸出を日本が容認したことです。

 オバマ政権は迎撃ミサイルSM-3を海上/陸上配備することで欧州版「ミサイル防衛」を行うことを決定しました。2018年にはポーランドに陸上型SM-3IIAを配備する計画です。当面は米軍による運用ですが、将来的には売却することを日米で合意したことになります。

■「ミサイル防衛」参加が巧妙な陥穽だった

 日本は三木内閣以来、事実上の武器輸出全面禁止を貫いてきました。しかし米国との「ミサイル防衛」に踏み出し、SM-3IIAの共同研究から共同開発へ移行する段階で、04年に「ミサイル防衛」に限って関連部品の対米輸出を認めるという風穴が空けられました。

 06年には「事前同意のない第三国への供与を禁じる」交換公文が締結され、「事前同意」さえあれば、日本の技術で製造されたミサイルを、例外扱いの米国経由で第三国へ輸出できる余地がつくられ、今回それが現実になったのです。

■許すな!“死の商人”国家への道

 日本は武器輸出していないことで国連小型武器会議で議長を務めるなど「名誉ある地位」を占めてきました。軍需産業の依存率も10%程度に留まっています。迎撃ミサイルの「第三国輸出」を認めることは、国際紛争を助長することになります。戦争放棄の憲法をもつ日本を、武器を売りつけ他国民を殺傷して儲ける“死の商人”国家に変えさせてはなりません。


【2011年6月15日】

日本の原発はいま

●営業運転は17基のみ

 海外の原発データベースではすでに福島第一原発の1~4号炉は閉鎖(Shutdown)扱いになっています。当然といえば当然です。

 日本の原発はいま50基です。現在、営業運転中は17基(表の○)、定期点検最終段階の調整運転が2基(△)で、いまのところ電力需要は十分賄えています。老朽原発、地震や津波、トラブルなどで停止した原発は再稼働することなく閉鎖にすべきでしょう。余計な費用と不安が増していくだけです。

会社 発電所名 所在地 炉型 運転 備考
日本原電 東海第二 茨城県東海村 BWR 32 定期検査
敦賀1号 福井県敦賀市 BWR 41 定期検査
敦賀2号 PWR 24 放射能漏れ
北海道電力 泊1号 北海道泊村 PWR 21 定期検査
泊2号 PWR 20
泊3号 PWR 1 調整運転中
東北電力 女川1号 宮城県女川町・石巻市 BWR 27 東日本大震災
女川2号 BWR 15 東日本大震災
女川3号 BWR 9 東日本大震災
東京電力 東通1号 青森県東通村 BWR 5 定期検査
福島第一5号 福島県大熊町・双葉町 BWR 33 東日本大震災
福島第一6号 BWR 31 東日本大震災
福島第二1号 福島県富岡町・楢葉町 BWR 29 東日本大震災
福島第二2号 BWR 27 東日本大震災
福島第二3号 BWR 25 東日本大震災
福島第二4号 BWR 23 東日本大震災
柏崎刈羽1号 新潟県柏崎市・刈羽村 BWR 25
柏崎刈羽2号 BWR 20 中越沖地震
柏崎刈羽3号 BWR 17 中越沖地震
柏崎刈羽4号 BWR 16 中越沖地震
柏崎刈羽5号 BWR 21
柏崎刈羽6号 ABWR 14
柏崎刈羽7号 ABWR 13
中部電力 浜岡3号 静岡県御前崎市 BWR 23 「停止命令」
浜岡4号 BWR 17 「停止命令」
浜岡5号 ABWR 5 「停止命令」
北陸電力 志賀1号 石川県志賀町 BWR 17 トラブル
志賀2号 ABWR 5 定期検査
関西電力 美浜1号 福井県美浜町 PWR 40 定期検査
美浜2号 PWR 38
美浜3号 PWR 34 定期検査
高浜1号 福井県高浜町 PWR 36 定期検査
高浜2号 PWR 35
高浜3号 PWR 26
高浜4号 PWR 26
大飯1号 福井県おおい町 PWR 32 調整運転中
大飯2号 PWR 31
大飯3号 PWR 19 定期検査
大飯4号 PWR 18
中国電力 島根1号 島根県松江市 BWR 37 定期検査
島根2号 BWR 22
四国電力 伊方1号 愛媛県伊方町 PWR 33
伊方2号 PWR 29
伊方3号 PWR 16 定期検査
九州電力 玄海1号 佐賀県玄海町 PWR 35
玄海2号 PWR 30 定期検査
玄海3号 PWR 17 定期検査
玄海4号 PWR 13
川内1号 鹿児島県薩摩川内市 PWR 26 定期検査
川内2号 PWR 25

●二分された独占体制

 戦後、米原潜建造を独占したウエスチング・ハウス(WH)社は急きょ加圧水型原発PWRを開発。また原爆産業を独占したジェネラル・エレクトリック(GE)社も沸騰水型原発BWRを開発しました。

 日本でGEと組んだのが東芝・日立グループと東北・東京・中部・北陸・中国の電力会社。WHと組んだのが三菱グループと北海道・関西・四国・九州の電力会社。それで会社ごとに炉型が決まっています。また日本原電は9電力が共同出資のため、敦賀原発は1号と2号で炉型が異なる事態に。

●原発事故もビジネスに

 世界的な原発業界再編の中で東芝がWHを買収・子会社化してPWRも手がけることに。日立はGEとの提携を維持し、三菱は新たにフランスのアレバ社と提携を結
びました。アレバ社は福島震災後、汚染水の浄化装置を日本に売り込み、東芝-WHと日立-GEは廃炉処理を売り込もうとしています。


【2011年5月25日】

世界の原発はこんなにたくさん!

 5月16日、(社)日本原子力産業協会は「世界の原子力発電開発の現状」を公表しました。(表)

世界の原子力発電開発の現状 2011年1月1日現在
地域 順位 国名 運転中 建設中 計画中
万kW 基数 万kW 基数 万kW 基数
北アメリカ 1 合衆国 10,524.4 104 120.0 1 940.0 8
8 カナダ 1,323.1 18
西ヨーロッパ 2 フランス 6,588.0 58 163.0 1
5 ドイツ 2,151.7 17
9 イギリス 1,195.2 19
11 スウェーデン 939.4 10
12 スペイン 772.7 8
13 ベルギー 619.4 7
17 スイス 340.5 5
18 フィンランド 282.0 4 172.0 1
28 オランダ 51.0 1
アジア 3 日本 4,884.7 54 442.1 4 1,516.7 11
6 韓国 1,771.6 20 680.0 6 280.0 2
10 中国 1,084.8 13 3,324.2 30 2,566.2 23
14 台湾 519.7 6 270.0 2
15 インド 456.0 19 552.0 8 530.0 4
29 パキスタン 46.2 2 32.5 1 68.0 2
インドネシア 400.0 4
ベトナム 400.0 4
旧ソ連 4 ロシア 2,419.4 28 1,002.8 11 1,544.4 13
7 ウクライナ 1,381.8 15 200.0 2
30 アルメニア 40.8 1
カザフスタン N/A 1
リトアニア N/A 1
東ヨーロッパ 16 チェコ 396.6 6 200.0 2
20 ブルガリア 200.0 2 200.0 2
21 ハンガリー 200.0 4
22 スロバキア 192.0 4 88.0 2
24 ルーマニア 141.0 2 211.8 3
27 スロベニア 72.7 1
アフリカ 23 南アフリカ 188.0 2 N/A 1
エジプト 187.2 2
南アメリカ 19 ブラジル 200.7 2 140.5 1
25 メキシコ 136.4 2
26 アルゼンチン 100.5 2 74.5 1
中東 イラン 100.0 1 36.0 1
UAE 560.0 4
トルコ 480.0 4
イスラエル 66.4 1
ヨルダン N/A 1
合計 39,220.3 436 7,573.4 75 9,974.9 91

●偽りの「運転中」

 運転中は436基としていますが、実際は発電を行ったことがあり、閉鎖になっていない原子炉数で、長期停止を含んだ偽りの数です。07年の新潟県中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発では今でも3つが停止中ですが、54の中に入っています。

●相次ぐ原子炉閉鎖

 この10年の変化は、運転中:432→436 建設中:43→75 計画中:35→91
であり、幻の「原子力ルネッサンス」をよく表しています。
「運転中」が増えていないのは老朽化で毎年数基が閉鎖となるからです。

●アジア/新興国の台頭

 合衆国以外の原子力先進国は計画すらなく、退潮が見て取れます。それに比べると日・韓・中・印・ロの開発状況は異常です。幸運にして事故が起こらなくても大量の「死の灰」を抱え込むのは必至というのに。
 しかし先進国が廃棄物問題を先送りし、原発輸出に走るとは言語道断の犯罪!


【2011年5月15日】

核兵器複合施設の近代化・改造計画

 米オバマ政権は10年間で920億ドルもの核兵器複合施設の近代化・改造予算を投入することで「新・戦略核兵器削減条約」の批准にこぎつけました。これは「地下核実験に依拠することなく強力な核抑止力を維持する」ものです。

 米ネルギー省の国家核安全保障局は将来の核弾頭備蓄数をコストやインフラ規模から3000~3500と割り出しています。これ以下にしても、近代化された核弾頭の維持・整備の総費用はさほど変わらず、逆にコスト単価が上昇するというのです。結局、対抗すべき「脅威」は存在せず、インフラ維持が目的でしょうか。

○増強される8つの複合施設:核兵器業務は約24,000人

  3国立研究所(ロスアラモス、ローレンス・リバモア、サンディア),1実験施設(ネバダ)
  4生産施設(パンテックス、Yー12、カンザスシティ、サバンナ・リバー)

○プルトニウム・ピット:水爆を点火させる原爆の核物質

  2022年までにロスアラモス冶金工場の建て替え:費用は37億~58億ドル
  プルトニウム・ピット生産:10個/年→80個/年に

○高濃縮ウラン組立品:水爆によってさらに引き起こされる核分裂の材料

  オークリッジのYー12に新型ウラン濃縮工場建設:費用は42億~65億ドル
  濃縮ウランの生産:40個/年→80個/年に

○核弾頭/ミサイル等の寿命延長・更新ロードマップ


【2011年04月25日】

米ロ核戦力削減の行方は?

ー「ミサイル防衛」と戦略射程通常兵器をめぐる駆け引きー

 米ロ間の「新・戦略核兵器削減条約」が発効して既に2ヵ月が過ぎました。計画通りに進んでいれば双方が査察官や戦略核のデータベースの交換を行い、査察活動が始まったはずです。

 しかし「核兵器のない世界」に程遠い「2018年までに米ロの配備戦略核を各1550 発に削減」でさえ、順調に履行されていくかどうか大きな懸念があります。障害は核兵器そのものではなく、「ミサイル防衛」や長射程の通常兵器への思惑です。これらは米ロ議会が批准条件として可決した決議や法律に盛り込まれています。

●ミサイル防衛の除外をめぐって

 条約は、ICBM 用及びSLBM 用発射機のミサイル防衛への転用、またその逆の行為を禁止しています(調印前の改造は除外)。米上院の批准承認決議は「これ以外にミサイル防衛の配備に何ら制限はない」と解釈するとしています。

 これに対してロシアの批准法は「戦略攻撃兵器と戦略防衛兵器は相互に関連している。一方の当事国の戦略防衛兵器(の増強)で他の当事国の戦略攻撃兵器の有効性が弱められることがあってはならない」と述べています。これは条約前文にある記述で、米決議は「前文には法的拘束力はないと解釈する」と明記しています。

●ミサイル防衛関連情報の提供制限

 飛行中のミサイルなどから発信される加速度や切り離し時間、搭載重量などの技術情報をテレメトリ情報といいます。これらからミサイルの特性がわかり、識別にも使われます。条約では「新種の戦略攻撃兵器」は二国間の協議対象とされ、公開性と透明性の確保から飛行テストのテレメトリ情報交換が盛り込まれていますが、その総量は交渉に委ねられました。

 米上院決議では「ミサイル防衛」に関連した迎撃体、人工衛星、センサー及び標的などを打ち上げるミサイルに関するテレメトリ情報の提供禁止を求めています。

 一方、ロシアの批准法は提供するテレメトリ情報を「搭載物を放出する時点より以前のもの」に限定、さらに新型ミサイルに関しては提供しないと決めています。これらは米「ミサイル防衛」への対抗手段である「軌道可変弾頭」の情報流出を避けるためと思われます。

●戦略射程通常兵器の除外をめぐって

 条約は「戦略攻撃兵器」配備を制限するもので、ICMB 及びSLBM への搭載は核弾頭に限定していません。

 米は通常弾頭で地球上のどこでも1 時間以内で攻撃可能な「グローバル・ストライク」開発を批准の条件にしました。決議は「これらの戦略射程通常兵器システムは新種に該当せず、条約の対象外であり、研究・開発・実験・配備をなんら制限しない」と解釈すると明記。

 一方、グローバル・ストライクを規制したいロシアは批准法で「新種の戦略射程攻撃兵器に限らず、あらゆる戦略攻撃兵器は条約の適用を受け、新種かどうかの疑義は協議で解決する」としています。

●核兵器全面禁止の国際世論で包囲を

 条約は前文で「核戦力の制限と削減の段階的プロセスの追求を加速する」とあるように「さらなる削減」を念頭においたものです。米決議は「条約発効後1年以内の非戦略核削減交渉開始」を求めています。しかしロシア批准法は「米や第三国による核兵器の現状(NATO 配備の非戦略核)、ロシアの安全保障上の課題(米ミサイル防衛への対抗)解決」が「さらなる削減」交渉の前提だとしています。

 米ロの核戦力削減を促すためにも核兵器全面禁止という国際世論の構築が急がれます。