PEACE TOPICS

『平和新聞ながさき版』不定期掲載

【2011年4月15日】

「災害救助」にみる米軍の本質

■必要なのは災害救助の専門組織

 米軍は今回の東日本大震災で人道支援費約68億円を計上し、「トモダチ作戦」(Operation Tomodachi)を展開中です。最大で艦艇20隻、航空機140機、1万8千人の米兵が支援活動に参加しました。迅速で献身的な支援には感謝すべきですが、「だから米軍は必要」という誘導に陥ってはなりません。彼らが受け入れられているのは、自衛隊も同様ですが、軍事力や武器を全く必要としない活動だからです。軍隊ではなく、災害救助を専門とするハイパーレスキュー隊のような組織こそが求められているのです。

■米軍と自衛隊は戦時態勢をとった

 米軍・自衛隊の動きで見逃せない点は今回の震災を「有事に準ずる」として防衛省と米軍横田基地、陸自東北方面総監部(仙台市)に日米共同調整所を設けたことです。これは日本への武力攻撃や周辺事態の際に日米間の意思疎通を円滑にする目的で設けられる機関です。震災から3時間後に折木統合幕僚長が在日米軍司令と電話で会談し設置に合意したといいます(当日の防衛省会見及び読売新聞4月13日付)。これが首相や防衛大臣の指揮だったのか、シビリアンコントロールが機能したのか全く不明です。

 その後、横田基地の調整所は米軍「統合支援部隊」に格上げされました。陸海空と海兵隊の米4軍が一元的に指揮され、連携して作戦行動にあたるのは日本では初めてといいます(朝日新聞4月7日付)。自衛隊も災害派遣で初の「統合任務部隊」を編成して陸自東北方面総監が陸海空の自衛隊部隊を一元的に指揮しています。

■米軍の「災害救助」の目的

 米軍は世界戦略の一環として「人道支援・災害救助」に取り組んでいます。10年度版の「4年ごとの米国防見直し」では「協力関係の強化」の章に次のような記述しています。軍事作戦と災害救助を同列視していることがわかります。

 われわれは地域における抑止と迅速な対応能力を強化し、アジアの協力国が人道危機と自然災害を含めた不測事態にもっと効率的に対処できる能力を身に付けられる機会を追求する。
 合衆国は西太平洋での統合共同訓練を拡大する機会を追求している。それは特にその地域の人道支援や災害救助での統合作戦を実行するために合衆国の即応能力の維持が必要だからであり、太平洋地域で使用できる土地や施設が少ないからであり、そしてこの地域の国々の多国間安全保障と作戦能力を構築するために合衆国が同盟国及び協力国の軍隊に与える影響力を高めるためである。

 米軍の今回の支援活動について次の2つの報道は的を得たものといえます。

 「有事」において「日米同盟を有効に機能させることができるか」(国防総省筋)が試される意味合いもあった。自衛隊との連携も順調に進んだ。同盟国の安全を守るための「火力を使わない戦争だった」(国防総省筋)と位置付ける向きもある。(産経ニュース4月10日付)

 米軍は、今回の震災で援助活動に関する大量の広報文を発表している。兵士が起こす事件・事故の際の情報の乏しさとは正反対の広報活動を見せている。(琉球新報3月17日付)


【2011年3月15日】

新「防衛計画の大綱」を考える(2)

●動的防衛力構想

 新大綱が掲げた「動的防衛力」は、「平素から我が国及びその周辺において常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動による情報優越を確保するとともに、各種事態の展開に応じ迅速かつシームレスに対応する」というもの。そのために自衛隊は(1)即応態勢、(2)統合運用態勢、(3)国連平和協力活動の態勢を保持する。

 従来の「基盤的防衛力」を「攻め込まれないための抑止力」とするならば、「動的防衛力」は「危機を察知して攻撃する」ものといえます。しかし日本への「本格的な侵略事態が生起する可能性は低い」わけですから、「基盤的防衛力」で十分なはずです。

●南西海域の軍事力強化

 新大綱と同時に策定された「中期防衛力整備計画」では新大綱にもとづき、特に南西海域を中心とする即応態勢強化を行うとしています。  具体的には(1)陸自沿岸監視部隊の新編配備(与那国島に100人)、緊急展開部隊の新編計画着手、(2)潜水艦の増勢(16隻→22隻)、(3)空自那覇基地の戦闘機部隊を2飛行隊に増強(20機→30機)、(4)移動警戒レーダーの展開、(5)迅速な部隊展開に向けた訓練の実施など。()は報道されている防衛省の計画。

●グローバル安保の下で

 「南西海域防衛」は昨年の「尖閣事件」で急浮上したものではなく、米戦略の中で出てきたものです。05年の「日米同盟:未来のための変革と再編」で安保条約は地球規模に変えられ、自衛隊の主任務に周辺事態への対応と海外での活動が加わりました。その周辺事態対処の一環として「島嶼部への侵略といった、新たな脅威や多様な事態への対処」があげられたのです。

 06年から島嶼防衛を専門とする佐世保の西部方面普通科連隊が渡米して米海兵隊から直接、強襲揚陸の手ほどきを受け続けています。鹿児島の第12普通科連隊、沖縄の第1混成団(現在は第15旅団に格上げ)も参加しています。日本版海兵隊の育成です。

 また空自は05年に宮古島に「地上電波測定装置」の建設着工。主に中国の航空機や地上の通信施設が発するあらゆる通信や電波を傍受するスパイアンテナで、09年度から稼働しています。これを五島福江島に建設するといいます。

●ねらいは中国封じ込め

 一方、米軍は07年に与那国島に佐世保配備の掃海艦の寄港・港湾調査を強行しました。沖縄本島以外への米艦寄港は復帰後初めてのことです。09年には石垣島、10年には宮古島に寄港、と有事使用の地ならしを始めています。

 現在、米軍は「ジョイント・エア・シー・バトル(統合空海戦闘)構想」を検討しています。「4年ごとの米国防見直し」では「この構想は、米国の行動の自由に対して増大する挑戦に対抗し、すべての作戦領域で空軍と海軍の能力を一体化させるもの」としています。まさに中国を牽制し東シナ海に封じ込めようというもので、この戦略に自衛隊が加担することになります。

 「尖閣事件」は中国漁船が引き起こしたもので中国海軍ではありません。自衛隊増強という一方的な対決姿勢は緊張を高めるだけです。


【2011年2月25日】

新「防衛計画の大綱」を考える(1)

 昨年12月17日、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」と、それに伴う今後5年間の「中期防衛力整備計画」が閣議決定されました。  「防衛計画の大綱」は日本の防衛力のあり方を示す方針書で、過去3回制定されています。ここでは開始西暦年度の数字をとって「77大綱」「96大綱」「05大綱」と呼ぶことにします。

 今回の「11大綱」は米国の軍事戦略に限りなく追随するものです。その特徴は、(1)核・非核の統合された拡大抑止に依存、(2)中国の軍備拡大への懸念、(3)「基盤的防衛力」から「動的防衛力」への転換、(4)そのための自衛隊の運用配備態勢変更、(5)武器輸出三原則の見直し検討に言及、などがあげられます。

 表には主要項目の記述の変遷と現在の米戦略を対比させてあります。「動的防衛力」構想は、すでに05大綱にその萌芽が現れ、1年後の「日米同盟:未来のための変革と再編」の基本概念となっています。日米一体化という「米軍再編」の本質そのものなのです。

96大綱 05大綱 11大綱 現在の米戦略
核兵器の脅威に対して 核兵器のない世界を目指した現実的かつ着実な核軍縮の国際的努力の中で積極的な役割を果たしつつ、米国の核抑止力に依存するものとする。 米国の核抑止力に依存する。同時に核兵器のない世界を目指した現実的・漸進的な核軍縮・不拡散の取組において積極的な役割を果たすものとする。 長期的課題である核兵器のない世界の実現へ向けて、核軍縮・不拡散のための取組に積極的・能動的な役割を果たしていく。同時に、現実に核兵器が存在する間は、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために米国と緊密に協力していく。 合衆国は核兵器が存在する限り、効果的な核戦力を維持し、潜在的な敵を抑止し、同盟諸国の安心を保証する。非核即応型グローバル・ストライク能力(通常弾頭を装備したICBM やSLBM)を追加できるように、必要とされる最小限の核戦力構造に余裕を残しておく。(2010核態勢の見直し)
中国に対する記述 多数の国が、経済発展等を背景に、軍事力の拡充ないし近代化に力を注いでいる。 中国は、核・ミサイル戦力や海・空軍力の近代化を推進するとともに、海洋における活動範囲の拡大などを図っており、このような動向には今後も注目していく必要がある。 中国は国防費を継続的に増加し、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力の広範かつ急速な近代化を進め、戦力を遠方に投射する能力の強化に取り組んでいるほか、周辺海域において活動を拡大・活発化させており、…軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、地域・国際社会の懸念事項となっている。 中国は長期的で包括的な軍事近代化の一環として、大量の新型中距離弾道ミサイルや巡航ミサイル、進んだ武器を備えた新型の攻撃型潜水艦などを開発し、配備しつつある。中国の軍事開発と意思決定機構の不透明さや特質からアジア内外での将来の振る舞いや意図について疑問が上がっている。(2010四年ごとの国防見直し)
防衛力のめざす方向 軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺海域における不安定要因にならないよう、独立国としの必要最小限の基盤的な防衛力を保有する。 「基盤的防衛力構想」の有効な部分は継承しつつ、新たな脅威や多様な事態に実効的に対応し得るものとする。このような観点から、即応性、機動性、柔軟性及び多目的性を備え、…多機能で弾力的な実効性のあるものとする。 従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし、…即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する。 共通の戦略目標を達成するため、日本及び米国は、実効的な態勢を確立するための必要な措置をとる。迅速かつ実効的な対応のためには柔軟な能力が必要である。加えて、双方がそれぞれの防衛力を向上し、かつ、技術革新の成果を最大限に活用することが求められていることを強調した。(日米同盟:未来のための変革と再編)

【2011年2月5日】

大きな問題点はらむ米ロ新核軍縮条約

 2月5日、米ロ間の「新・戦略核兵器削減条約」が発効しました。一歩前進と歓迎すべきものですが、2021年まで米ロで3100発の戦略核の配備を認めるものともいえます。オバマは「ブッシュの金持ち減税」継続と840億ドル以上の核兵器近代化予算を担保に上院を説得しました。

米ロ間で発効した戦略核兵器削減条約
戦略核兵器削減条約 戦略攻撃能力削減条約 新・戦略核兵器削減条約
配備弾頭
数の上限
6,000
4,900(ICBM+SLBM)
1,700~2,200 1,550
配備運搬
手段の上限
1,600 規制なし 700
発射機の
上限
1,600 規制なし 800(非配備含む)
完了期限 7年間 10年間 7年間
検証制度 有り なし 有り
調印日 1991.7.1 2002.5.24 2010.4.8
有効期間 1994.12.5~2009.12.5 2003.6.1~2011.2.5 2011.2.5~2021.2.5

●配備中の核兵器はあまり減らない

 米ロの核弾頭配備数推定はそれぞれ1968発,2504発です。新条約は1機の戦略爆撃機を1弾頭に等価と数え方を変更したため爆撃機搭載の核爆弾はそれぞれ316→60,838→75に。
 新条約適用だけで256発,760発減るため、理論上、削減実数は162発,191発で済みます。

●弾頭解体の義務づけなし

 制限は配備される核弾頭に限られ、非配備弾頭の解体は義務づけられていません。使用可能で非配備の弾頭には予備,不活性(増強剤のトリチウムを抜いた状態)があり、米は戦術核も含めて約3000発を保有。新条約による削減達成後も総弾頭数は減らない可能性があります。

●通常弾頭も搭載可能

 新条約ではICMBとSLBMに搭載する弾頭を核弾頭に限定していません。「米核態勢の見直し2010」では「非核即応型グローバル・ストライク能力を追加できるように、核戦力構造に余裕を残す」と記されています。つまりICBMやSLBMに積んだ通常弾頭で地球上のどこでも1時間以内で攻撃可能ににするというものです。

 核軍縮を推進する一方で、核兵器と通常兵器の近代化による軍事的優位と抑止力維持を図る戦略は強化されていくでしょう。

●核兵器全面禁止条約こそ喫緊の課題に

 オバマは次のステップとして年内に「戦術核」削減交渉を開始するとしていますが、「核の傘」を求めるNATO諸国と、それに隣接するロシアは前向きではありません。核兵器によらない安全保障、核兵器全面禁止条約の交渉開始こそがいま求められています。


【2010年11月25日】

シリーズ佐世保基地はいま8

増強される崎辺地区の自衛隊

 西海市で建設が進められているLCAC新駐機場は12年3月に完成予定です。しかし現在、駐機場のある崎辺海軍補助施設(約12.9ha)の返還については何も決まっていません。

 09年7月、佐世保市議会はLCAC移転後の跡地に自衛隊施設を整備することを要請する決議を上げました。決議では、海自大型桟橋の建設計画が20年、手つかずだと指摘しています。

●950mの巨大桟橋計画

 この大型桟橋計画は2haの埋め立てを伴う巨大岸壁の建設で、浚渫を行なって建造する水深11mの係留施設の総延長は950mになります。

 これは平瀬の米軍基地に突き出た海自立神桟橋(総延長760m)に係留する大型艦艇を集約するものです。現在、立神桟橋へ行くには米軍基地内を通らざるを得ないため、崎辺集約は海自にとって非常に大きなメリットです。さらに崎辺にはイージス艦のミサイルの性能維持等のための佐世保弾薬整備補給所があり、イージス艦3隻の機能的な運用が可能となります。まさに日米共同作戦基地としての機能強化にほかなりません。

●軍・軍すみわけで濡れ手に粟の米軍

 立神桟橋は米軍に提供されることは自明で(代わりに立神岸壁1~3岸を日本へ返還しても)、米軍は使い勝手のよい桟橋が転がり込んできます。高機能のLCAC駐機場も無償で手に入れ、米軍は濡れ手に粟といった状況です。

●海自施設が米軍との共同利用に

 10年3月、崎辺の海自佐世保磁気測定所(米軍との共同利用施設)の脇に防火実習場などが完成(写真)。米軍はこれら3棟を防災消防訓練施設として共同利用施設に組み入れました。


▲崎辺地区に新設された海自防火実習場

●再浮上した潜水艦部隊誘致

 防衛省は中国海軍の「脅威」を口実に保有潜水艦の6隻増を「防衛計画の大綱」に盛り込む方針です。10年11月、佐世保市長は大綱の決定を前に防衛省と接触、崎辺を新たな潜水艦拠点として誘致に乗り出しました。潜水艦基地誘致は、佐世保商工会議所が空母の母港化などとあわせて打ち出したことがありました。それは軍事施設の増強によって地域経済の振興を図ろうとするものです。

●民間・公共施設としての活用が筋

 もともと崎辺地区はSSK用地として市民をあげた運動の結果、米軍から返還されたものです。それが米艦船の母港化にともなう住宅建設地の代替として米軍に東側を再提供されていました。再返還となれば当然、民間・公共施設として活用が図られるべきものです。港の一等地を米軍・自衛隊が占有し、国際貿易港としての発展を阻んでいるのですから。