『不良少年』['61]
『非行少女』['63]
監督・脚本 羽仁進
監督 浦山桐郎

 '50年代が終わりを告げる、映画館に『黒いオルフェ』や『ポンペイ最後の日』『赤い夕陽の渡り鳥』が掛かっていた時分の作品だ。オープニングでこの映画は記録的手法によっているが、すべては作者の創作と構成の責任であるとクレジットされる本作のスタイルは、いわゆるドキュメンタリータッチというのとも違ったドキュメント感が、さぞかし当時は鮮烈だったろうことを思わせはするものの、ドラマ的深みに乏しく、演者の個性というかキャラクターに少々寄り掛かり過ぎた作品のように感じた。

 バカヤローこそあまり出て来なかったが、やたらと繰り出されるコノヤローの口汚さがいかにも染み付いた少年たちの口ぶりに、僕の好まないビートたけしを連想し、些か辟易としたということもあるかもしれない。

 アサイヒロシ少年(山田幸男)が、いわゆる札付きになった背景には貧困がありそうだと思ったが、今また、そういう時代を迎えている気がする。だが、アサイ少年が十代に至らないと思しき時分に出会ったような、眼鏡の押し売りに応じるばかりか少年を憐れんで、家に連れ帰って風呂にまで入れてくれる女性は、当時のようにはいなくなっている気がしてならない。元オンリーと思しき風情がいかにも当時を表しているように感じた。また、監督補に土本典昭の名がクレジットされていたことが目を惹いた。


 二年後の作となる『非行少女』は、羽仁監督の『不良少年』とのカップリングで合評会の課題作となったことから、十二年ぶりに再見したものだが、いま観ると、ついつい三郎(浜田光夫)の兄(小池朝雄)が精出している田舎の選挙活動に目が向く。そして、内灘闘争によって分断されたことから生じている格差のなかで、若者が犠牲になるような社会的図式が、今また見事に“取り戻されている”ことに暗澹たる気分が湧いてきた。

 マリリン・モンローのヌードポスターが映っていたオープニングのタイトルバックにて若枝(和泉雅子)が盗んだハイヒールを最後に大阪行きの列車の窓から投げ捨て、新たなる生へと歩みを始めるエンディングを観ながら、そう言えば、オープニングでは、酒のがぶ飲みをしていた若枝と、三郎に再会した最後の駅の場面では、嗚咽しながら持ったカップに手が震えてコーヒーを啜ることも出来なくなっている若枝が対照されていることに気づいた。

 前回観たときの日誌にも綴ってあるように、この最後の駅の場面は、とてもいい。折からぶどうのなみだ['14]を観て、建前が蔑ろにされ、本音のほうが大事だとされるようになるや、いかなる本音であれ、本音でありさえすれば、それは建前に優るといった本末転倒した考え方が一般化してきていると記しているのと同じことを十一年前の日誌にも綴っていて、苦笑した。


 合評会では、珍しくも四人のメンバーが全員一致して『非行少女』のほうを支持した。『不良少年』に至っては、課題作になってなければ途中で観るのを止めたとまで言うメンバーもいたが、僕は、六十年以上前の当時の実景が映っているだけでもなかなか興味深く観た。ドキュメンタリーとも劇映画とも異なるスタイルによって、羽仁進なりの“映画の真実”というか、いわゆるシネマ・ヴェリテを探求した意欲が窺えたとも擁護したが、あまり賛同は得られなかった。『非行少女』の和泉雅子は、メンバー全員から至って好評だった。そして、彼女の陰に隠れていたが、今回再見して思いのほか浜田光夫が良かったという意見も出た。

 また、この一年間の合評会の課題作となった日本映画、狼&鉄輪他人の顔&あなた買います湖の琴&五番町夕霧楼ひとごろし&初笑い びっくり武士道ニッポン無責任時代&君も出世ができる晩春&浮草山椒大夫&雨月物語青葉繁れる&青春残酷物語兎の眼&私は二歳青幻記&日本の悲劇螢川&道頓堀川暗殺&乾いた花という24作品から各メンバーが選定したベストテンの集計結果も披露された。第一位は『日本の悲劇』。以下『青春残酷物語』『雨月物語』『浮草』『五番町夕霧楼』『道頓堀川』『他人の顔』『山椒大夫』『青葉繁れる』『君も出世ができる』だった。課題作としてのベストカップリングは、各自の推すものがバラバラで該当なし。ちなみに僕が推したのは、「このカップリングでの観賞ならではの触発が得られたことに対して」という理由から『青春残酷物語』&『青葉繁れる』“映画に映し出された青春の放埓”だった。

by ヤマ

'24. 3. 5. DVD観賞
'24. 3. 2. DVD観賞



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>