わたくしが踏切ならば遮断機を下ろしわすれるほどの夕焼け
そのひとの鼻のかたちの残りたるマスクの白が目立つ屑籠
憂鬱のuかもしれぬビオレuもて月曜の身体洗へり
しんしんと雪ふるなかをゆくわれに雪は纏はる死者のごとくに
さびしくて覗くちくわの空洞のやうな三月雨ばかり降る
この世のちくわすべてに穴が空いてゐてときどき死者がこちらを覗く
いつぽんのマッチ擦るとき手のひらの小鳥を放つやうなさみしさ
死者の手を夢にて握りゐしやうに醒めてしばらく透きとほるゆび
真二つにちくわ切るときゆがみをり時空を超えてだれかの喉が
うすがみに切りたる指に滲む血のあふれたきいのちをもてあます
はりぎりの葉のはらはらと降るゆふべひとひ言葉の不在を過ごす
さつくりとしやもじに米を切るときに脳のやはらかさを思ひたり
まなかひをかすめてツバメ去りゆけばこの世にて逢ふおほかたは影
梨ひとつ机上に置けばかすかなる水辺とおもひ寄りゆくこころ
鳴ることのないままに張り詰めてゐる弦楽器あり冬の空には
月はただひとつの月として浮かぶはじめから孤独ならよかつたな
『あるはなく』(2022年刊)に次ぐ第二歌集。さみしさや孤独が、ちくわやマッチや月などに様々なかたちで現れる。大きなアップダウンはなく、常に水平線のすこし下あたりをゆく感じ。現代を生きる若者のうちなる声が聞こえる。