【vol.251】淀美佑子『ツガイムスビ』笠間書院

正解を赤鉛筆で書きこんで傷跡つけるきみのノートに

わざと手をつないだままの地下鉄で夜へと向かう接続を待つ

学校をサボって行ったキュビスム展もっと壊れた絵を観たかった

スフレよりタルトの重さでセフレより濃いめのチーズのようなきみだね

スタヂオのドアの重さを肩で押す海から陸にあがる心地で

狂い咲き水面で魚(うお)に恋すれどさだめのままに散る 花として

感情に流されまいとしていたらすべての色が消えた鏡台

愛あらば暴かずにいて永久に行方知れずのヴィーナスの腕

はじめての金継ぎをしたカレー皿のわずかなずれにひっかかる匙(さじ)

つぶすつぶす歪(いびつ)なポテトとわだかまりがサラダになるまで なってもつぶす

辛酸をまろやかにしてマヨネーズ腹がへっては優しくなれぬ

やさぐれて欠けた心をうめるようホットケーキの満月を食む

富裕層をパフェのてっぺんだとすればコーンフレークのあたりに暮らす

パッケージされた精肉見るようにニュースに死刑執行を聞く

誰かしら傷つけながら生きていて善意で豆腐を賽(さい)の目に切る

タレントの訃報(ふほう)の記事に添えられたいのちの電話の数字十桁


 

あとがきに、「性」を軸に「食」や「命」へと思いを馳せた、とある。作為的なところも見えるが、挑戦的かつ挑発的な歌集である。呉服販売業に従事されていた作者は、お会いする時いつも着物だ。従来の古風な着かたではなく、自由にアレンジされた新しい着こなし。短歌に通じるところがある。東京生まれ東京育ち、中部短歌会。

2026年06月06日