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コラム -職場のトラブル・職場のお悩み解決します-

勝手に賃下できるの? その2   (H26.10.21更新)


前号の続きです。

前号は、賃下げなどの労働条件を、
会社が勝手に変えることができるのかどうかのお話でした。

今号は、

どんなに会社が誠意を尽くしても、
労働者の同意が得られない場合の最終手段のお話です。

それは、「就業規則による不利益変更」です。


まずは、法律の条文をみてみます。

●労働契約法第9条
 使用者は、労働者と合意することなく就業規則を変更することにより、
 労働者の不利益に、労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

これが原則です。


しかし、

●労働契約法第10条
◇変更後の就業規則を労働者に周知させ、 かつ、

◇就業規則を変更することによって、
 ・労働者が受ける不利益がどの程度か、
 ・不利益変更するほどの必要性が、本当にあるのか、
 ・変更後の就業規則の内容自体に、相当性はあるのか、
 ・労働組合等に、誠実に説明するなどの努力を尽くしたか、

その他の事情を総合的に判断した結果、不利益変更が合理的ということであれば、
労働条件は、変更後の就業規則の定めによる。
 
とされています。


つまり、
就業規則の変更に必要性と合理性があれば、
反対している者も含めて、従業員全員が変更後の就業規則に従う。

言い換えれば、
会社が危機的状況にあり、上記の条件をすべてクリアしていれば、
就業規則の不利益変更が認められてしまう、ということです。


第四銀行事件(H9.2 最高裁)では、
55歳以上の賃金を見直す際に、
 ・その賃金自体、世間相場に比べてかなり高く、
 ・見直しをしたとしても、不利益は小さく、
 ・また、その代償として定年を60歳に延長しているし、
 ・労働組合ともちゃんと交渉し、合意も得ている

ということで、就業規則の変更に合理性がある、とされました。


逆に言えば、
会社がそんなに危機的な状況でもないのに、
また、たとえ危機的な状況であったとしても、
・労働者が被る不利益が大きい、
・何の代償措置もとっていない、
・さらに、従業員への説明責任すら果たしていない、
ということであれば、合理性があるとは認められにくい、ということにもなります。


池添産業事件(H11.1大阪地裁)では、
 地域手当を85千円から50千円に、かつ、残業単価を1割カットした賃金改定は、
 ・社員が被る不利益が大きく、 
 ・そのような不利益を社員に負わせても許されるほどの
  高度な必要性に基づく合理性はない、

と判断されました。


このように、就業規則による不利益変更は、
従業員に一律に適用され、かつ、労働者の生活にも大きな影響を及ぼすので、
その必要性や合理性は、かなり厳格に問われるというリスクを伴います。

また、その立証責任は会社にあります。


ですから、やむを得ず強行するのであれば、
ここはミス無く、手を抜かず、きっちりやっておきましょう。

また、そうすることで、
労働者から同意を得られる可能性もありますし。


あくまで、就業規則による不利益変更は、
最後の最後の手段と覚えておいてください。



さらに、労働契約法第10条には、続きがあります。

労働者と使用者が、労働契約上で個別に、 
『「この部分」は、就業規則が変更しても変わらない』と合意していた部分は、
法令等に違反していない限り、就業規則の変更の影響を受けない、

つまり、「この部分」は、就業規則の不利益変更よりも優先される、ということです。

ですから、採用の際に交わした安易な契約が、その後、
会社および労働者のクビを締めることも十分考えられます。

労働契約をする際は、労使とも慎重に取り交わしてください。

イラスト:おちゃも

 

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