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コラム -職場のトラブル・職場のお悩み解決します-

勝手に賃下げできるの?   (H26.10.21更新)



賃下げ等の不利益変更は、事業主が勝手にできるのか・・・?

原則は、労働者の同意がなければ出来ません。

また、たとえ労働者の同意が得られたとしても、
その変更の内容自体、労働基準法や就業規則の規定よりも
下回ることは許されませんので、気をつけてください。


では、労働者の同意を得るためには、どのような事をすればいいのでしょう。
ここが、事業主の頭の痛いところになります。

賃金や退職金の不利益変更はこれからの生活に大きな影響を及ぼします。
ですから労働者側も、そう簡単に受入れるとは到底思えません。

「リストラされるよりはマシ」と応じてもらいやすいかもしれませんが、
それでも、大きな不利益を労働者に課す以上、会社側も、厳格な合理的理由を示す必要があります。


過去の会社で経験したことですが、

労働者には、賃金カットを課しながら、当の役員の報酬が据え置かれていたり、
交際費等を湯水のように使っていたのでは、到底、労働者の同意は得られないでしょう。

ですから、

・労働者が被ることになる不利益を考慮してもなお、この不利益変更を断行しなければならならいほどの
 高度な必要性・合理性があることを説明する。
 その際は、その根拠となる決算書や役員報酬等の情報開示も必要になってくるでしょう。

・労働者の不利益が少しでも小さくなるような代償措置を用意する

・この不利益変更は、たとえば向こう一年間のみとする、などの時限措置にする、

等々の会社の誠意を見せれば、労働者の同意が得られるかもしれません。
というより、後々のことを考えると、この段階で同意を得たいところです。


それでもダメな場合は、どうすればいいのでしょう・・・。

こんな事例があります。

たとえ明確な同意がなくても、不利益変更が有効となる例です。
それは、「黙示的な同意」が認められる場合です。

たとえば、

会社が、上述のような不利益変更に対する責任を果たし、労働者もそれを認識していた。 
そして、労働者は特に異議を唱えることもなく、また、変更後の減額された賃金を、そのまま受取っていた。

この場合、
たとえ書面での同意がなかったとしても、「黙示の同意」があったと認められ、
労働条件の変更が有効になった という例です。(エイバック事件 光和商事事件 ほか)

とは言っても、裁判所は黙示の同意の認定には慎重です。
それに、あくまで「認められる可能性がある」というだけの事なので、
やはり個別同意を得ることが、最も確実な方法だと思います。


ですから、会社側は、同意が得られようが得られまいが、
やるべき責任は果たしておく、という姿勢が、今後の展開において大事になってきます。

また、労働者側は、同意しないのであれば、なんらかのアクションを起しておくこと。

たとえば、
実際に減額された給与が振り込まれたら、その給与明細等を持って監督署に申告するとか、
会社に抗議し証拠を残しておく、などでしょうか。


昨今の会社の厳しい状況も十分理解できますが、
だからといって、誠意を尽くさず、努力をせず、
個別の同意を得られないまま賃下げを強行しても、
訴えられれば、会社が負ける可能性は高くなります。(東豊観光事件 H13.10.24 大阪地裁)

また、訴えられた時点で仕事どころではなくなり、さらに余計な出費や労力もかかります。

ですから、初期の段階でなんとか同意が得られるよう、
手続をミスなく行い、誠意を尽くしましょう。

イラスト:おちゃも


 

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