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コラム -職場のトラブル・職場のお悩み解決します-

新卒の採用内定取消   (H26.10.12更新)



採用内定取消を法的に捉えると、どうなるのでしょう。

採用内定というのは、内定しただけで、まだ働いていない状態です。
この状態で、果たして労働契約が成立しているのでしょうか?

もし契約が成立していると認められるのならば、
その契約を途中で解除した企業側に、何らかのペナルティや、
何らかの民事的な補償をしてもらえそうな気がしますが、果たしてどうなのでしょう?


ここで裁判例を見てみましょう。

<大日本印刷事件(S54.7.20)>
<電電公社近畿電通局事件(S55.5.30)> によれば、

会社の募集に学生が応募することは、労働契約の「申込」となり、
その申込に対して会社が、採用日、配置先、採用職種等を記載した
内定通知を出すことは 「承諾」 となる。 そして、実際に働くのは学校卒業後。

しかも会社側は、卒業出来なかったらこの契約を解除する
等の誓約書を学生に提出させている。

以上のことから、会社と学生との間に、「始期付解約権留保付」
の労働契約が成立したといえる、としています。

つまり、採用内定時に労働契約は成立する(原則)、ということです。
 

学生はここまでくれば、その会社を信用し、また信義に反するとも思い、
以後、就職活動はしませんよね。

つまり、会社の内定が、その人の求職活動の自由を放棄させる形になる。
未だ働いていない会社に、事実上、拘束されるということです。

それなのに、卒業間際になって一方的に内定を取消すという企業の裏切り行為は、
やはり責めるに値するものだと思います。


また法的にも、 
内定=労働契約成立 であれば、
内定取消=解雇 という見方が出来ます。

ただ、通常の労働契約と違う点は、この段階でまだ働いていないということです。

上述したように、働き出すのは学校卒業後であり、
もし、卒業できなければ、もし、解約事由に該当するようなことがあれば、
会社はこの契約を解約できるという、始期付解約権留保付労働契約なので、
通常の解雇よりも、解雇事由は広くなります。

そういう意味では、通常の解雇よりも内定取消は、
安易に考えられやすくなってしまうのかもしれませんね。

始期つき、解約権留保つきとはいえ、採用内定時に労働契約は成立する。

この「始期」とは、学校卒業後の入社日。
そして「解約権留保付」とは、
入社日までの間に、不測の事態等で一定事由に該当したら、
この労働契約が解約されることもある、ということです。

その「一定事由」を記した誓約書等を学生側に提出させる企業は多いようです。


そこで厚生労働省は
「公正な採用選考をめざして」P27で、このように記しています。
http://www.pref.kagawa.jp/rosei/koyou/pdf/6-36P.pdf

「採用についての承諾書に、会社側の一方的な考え方による取消、留保条件をつけていませんか」
「せっかく採用になって喜んでいる時に、一方的にこのような条件をつけることは
 ぜひやめてください」と。


では、内定取消が有効となりそうな理由とは、
・卒業できなかった。または、一定の資格を取ることが条件だった場合に、
 その資格が取れなかった、など。
・提出書類に虚偽の申告をしていた。
・(程度によるが)健康状態が悪くなり、将来の勤務に支障が出るようになった。
・その他、犯罪を犯す、など。

しかし、これらに該当すれば、即解約できるということではありません。


大日本印刷事件(S54.7.20)で、 採用内定取消の正当性は、

 ・会社が内定当時知ることができない事実 または、
 ・知ることが期待できないような事実を理由に採用内定を取消すことが、
  客観的に合理的であり、社会通念上も相当として是認することができるものに限られる、 
 としています。

ということは、今回の内定取消が裁判になった場合に、
「経営悪化」という企業の論理が、上述の基準に該当するか否かが争点となるのでしょう。


では、過去の裁判例をみてみます。
中途採用のケース。 インフォミックス事件です。(東京地裁H9.10.31)

 この事件は、ヘッドハンティングした人に内定を出したが、
 経営が悪化したため 採用内定を取消したというものです。

 中途採用者も新卒同様、内定をもらえば、その会社を信用し、
 以後就職活動はしないでしょう。 
 つまり、内定により、その会社に拘束されます。
 そして、今の会社に退職届を出し、もう後戻りできない状況になる。
 
 それを承知してもなお、内定を取消すというのであれば、企業側もそれなりの努力が必要だ!
 ということで、整理解雇の4要件に則って、内定取消が有効か無効かを判断すべきとなりました。
 
 判決。

 この会社の対応は不誠実であり、内定者がその取消によって著しい不利益を被った。
 よって、この採用内定取消は無効。 つまり、会社の負け。


以上のことから、採用内定取消を考えている企業は、過去の判例も踏まえ、

・採用内定通知に記載した取消事由に該当するのか否か、
・採用内定を取消すことが客観的に合理的か否か
 等を慎重に検討する必要があるでしょう。



では、行政はどう考えているのでしょう。(指針)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/jakunensha05/pdf/pamphlet.pdf

企業に対し、
しっかりとした人員計画を策定し、入職後の雇用管理もきちんとやってほしい、
と述べています。

新卒者にとって就職とは、社会という 未知の世界への第一歩であり、
それなりに影響も大きいからです。

今回のように、企業が内定取消という裏切り行為を安易にすると、
今度は学生側が自衛策で内定を何社もとり、結果、会社を裏切ることになるかもしれません。
そうなると、就職環境は無秩序になってしまう危険性があります。

そうならないためにも企業は、学生のお手本となるよう、信義に則り、
かつ法律を守って募集採用活動をしてください。

また内定取消は、社会全体に対しても大きな不安を与えます。
敢行するのであれば、せめて就職先を斡旋する、生活の補償をするなど、
誠心誠意で対応してください、と結んでいます。

また、内定を取消す場合は、ハローワークに連絡してください。
そのときに、行政指導を受けるかもしれませんが。
悪質な場合は企業名が公表されるそうです。

イラスト:おちゃも

 

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