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コラム -職場のトラブル・職場のお悩み解決します-

会社を辞めてくれないか  (H26.10.12更新)



遅刻や欠勤、タバコ休憩が多い。配慮のない言動で職場の和を乱す、など。
このような問題社員はどこの会社にもいます。
そして、出来たら辞めてもらいたいと思っていることでしょう。

でも、このような理由で解雇は出来ません。


解雇の有効性は、
 ・客観的に合理的な理由があるか、
 ・それは社会通念上も相当か
という厳格な基準で、個別に判断されます。

そして、解雇権の濫用となれば解雇は無効。
それまでの未払い賃金や慰謝料等の支払いが命じられるでしょう。
その法的リスクが高いので、安易な解雇はしない方が無難です。

実際、そのことを知らずに、安易に「クビだ!」と即日解雇し、
個人加盟のユニオンに乗り込まれ、数百万円の示談金を支払った経営者もいます。


では、どうすれば穏便に退職してもらえるのか。

それは 『退職勧奨』 です。


退職勧奨とは、事業主が特定の人に退職を申込むこと。
単なる「申込」なので、労働者は嫌なら断ればいいだけです。

よくある誤解ですが、突然会社から「退職してほしい」などとと言われると、
「え、解雇!?」と思い込みがちです。

しかし、退職勧奨かもしれません。
解雇と退職勧奨では法的な取扱も違ってきます。

ですから、会社から退職の働きかけがあったら、
「これって解雇ですか? 退職勧奨ですか?」と、まずは確認してください。
それが退職勧奨であれば、応じなければいいだけです。


しかし、そうはいっても、会社側はそう簡単には引き下がりません。
本来なら、そんな問題社員は有無を言わさず解雇したいのですから。
あらゆる手段を使って合意退職に持ち込もうと画策します。

たとえば

●優遇措置
 ・未消化の年次有給休暇を買い上げる、
 ・退職金を上乗せする、
 ・再就職をあっせんする、など。

 この段階で退職の合意が得られれば、円満退職ということで会社都合の退職になります。
 お互いの話し合いによるところが大きいですが、出来たらここで穏便に解決したいところです。

 ただし、注意する点があります。 
 本人が同意すれば、必ず退職が有効となるわけではありません。 

 退職勧奨というのは、退職する気のない人に、理由をつけて
 合意により、退職してもらうことです。
 そのときの精神状況は、もしかして普通ではないかもしれません。

 退職後に人から聞いたり、調べたりして、
 「会社に騙された」 「辞める理由なんてなかったじゃないか」 と、
 退職取消しの訴えを起こされることもありえます。

 ですから会社は、退職を勧奨する理由、業務上の必要性を対象者に正直に話し、 
 理解し、納得してもらった上で退職に応じてもらうのが一番いいと思います。

 それでダメなら、次のステップに備えて客観的な証拠を収集するとか、
 配置転換をするなど、別の方法で対処するしかありません。

 無理強いはダメです。
 
 また、退職勧奨者が数人いる場合、後で揉めないように、
 その優遇措置も公平にしてください。


次は、
●退職強要

 たとえば、
 ・何回も呼び出し、長時間、執拗に退職を強要する。
 ・退職に応じないと懲戒解雇だ! 飛ばすぞ! との脅迫等々。

◇このような退職強要は許されるのでしょうか?

◇退職強要による退職の合意は、有効に成立するのでしょうか。


繰り返しになりますが、退職勧奨自体、
本人の自由意思が保障されている限りにおいて、適法です。

ですから、勧奨が多数回、長期にわたって執拗に行われることは、
不当に退職を強要することにつながり、違法な権利侵害となる。

したがって、その精神的苦痛に対する慰謝料を求められ、
その退職自体も、強迫行為により行なわれたものとして取消されます。
                 (下関商業高校事件 S49.9.28 山口地裁)

つまり、勧奨対象者の自由意思が妨げられる状況であったか否かが争われます。
そして、先の裁判例は、その退職強要を違法としました。


とはいっても、
そもそも退職勧奨自体に法的強制力はなく、
退職に応じる応じないの決定権が労働者にある以上、
よほどのことがない限り、退職の合意は、有効になってしまう傾向にあります。

ですから、退職したくないのであれば、安易に退職に合意せず、
違う法的手段に訴えるか、あるいは、猛省して許しを請い、やり直すしかありません・・・。


以上、退職勧奨のお話でした。



できるだけ中立を意識して書いたつもりですが、なかなかうまくいきません。
事業主、労働者双方の立場に立つことが多いので、こういうテーマは難しいですね。


しかし実際、仕事をなめて、人間をなめて、義務を果たさず、
権利ばかりを主張する従業員にほとほと困っている、という嘆きはよく聞きます。

退職勧奨に至るまでには、会社側も相当、注意・指導・教育を繰り返してきたことでしょう。
それでも反省しない、自分は変わらない、とうそぶく人も過去にいました。

会社から突然「辞めてくれないか」と言われたら、「なんてひどい会社だ!」と思うかもしれません。
しかしその前に、今までの自分の言動や仕事振りを真摯に反省し、
前向きに冷静に、会社と再度話し合ってほしいと思います。
そうすれば、退職勧奨自体、撤回されるかもしれません。

さらに、労働者にも、労働契約に基づく、債務の本旨を履行する義務があることを
自覚してほしいと思います。


最後に、
退職勧奨は人員整理を目的とする場合にも使われます。
理由をよく確認し、納得した上で悔いのないように判断してください。

イラスト:おちゃも


 

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