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◆沖縄道州制論議1◆


仲地 博「沖縄は単独で州をめざす」
仲地 博「道州制論議はアイデンティティの確認か」
真久田正「沖縄単独州への提言―『復帰・反復帰運動』の轍を踏まぬ警鐘&『独立』への序曲として―」
沖縄道州制懇話会「沖縄の『特例型』道州制に関する第1次提言」

◆沖縄道州制論議2◆

◇沖縄の「特例型」道州制に関する提言(沖縄道州制懇話会2009年9月24日)

<道州制と「沖縄州」論

沖縄は単独で州をめざす


仲地 博


■ 盛り上がる道州制議論

 今春から夏にかけて、各団体や機関の構想する道州制のスケジュールが公表された。総務大臣の諮問機関である道州制ビジョン懇話会の中間報告(3月)は、2018年までに道州制に完全移行とし、日本経団連第2次提言(3月)は、15年道州制導入を求め、自由民主党道州制推進本部第3次中間報告(7月)は、15年から17年をめどに導入とした。
 しかし、世論は冷えている。ただ、一人沖縄だけは道州制論議で盛り上がっている。今年新年から地元の二つの新聞は申し合わせたように道州制の記事連載を開始した。5月、民間団体である沖縄道州制懇話会が沖縄単独特例州の提言を行った。これまでもシンポジウムを行う団体があったが、この夏から冬にかけては、8月に沖縄大学と県があいついでシンポを主催し、9月にはJCが、12月には内閣官房が主催する。県議会の議員連盟は昨年から活発に勉強会を重ねていた。

■ 沖縄道州制懇話会の発足

 全国の傾向と異なりなぜ沖縄で道州制論議が盛んなのか。その解明のためには、沖縄道州制懇話会とは何かを説明する方が早道である。
 沖縄道州制懇話会は、沖縄における道州制の検討機関として昨年8月スタートした。いわゆる学識経験者、経済同友会等経済三団体の役職者、市長、町長、NPO、県議会の議員連盟の会長(与党)・副会長(野党)、連合沖縄会長等13人のメンバーからなり、県知事の諮問機関かと誤解されそうであるが、完全な民間団体である(ただし県の企画部長にはオブザーバーでの出席をお願いしている)。委員はボランティアであり、事務局等の運営資金は、経済団体と連合からの寄付によっている。オール沖縄で、沖縄にふさわしい道州制のあり方について検討し、県民総意に基づく案の基盤を作ることを目指す。道州制の関するこのような組織は全国にもちろん前例がないし、また今後もできるとは思えない。地域の将来像を、民間が力を合わせ自主的に考える好例の一つとして評価されてよいのではないか。それからすると、道州制懇話会は沖縄の自治の力を示しているとも言えそうだ。
 このような組織がなぜ可能となったのか。道州制懇話会の第1次提言にその理由を垣間見ることができる。提言の中には、次のような文章が見られる(提言は同懇話会のHPから入手できる。なお、県の部長級で構成される道州制等研究会の中間報告も県HPの企画部からアクセスできる)。
「(州という広域自治体の創設は)沖縄を一まとまりとする自治機構の喪失を意味することになる。…手をこまねいていては、自らの意思ではなく他からの力によって沖縄の形がつくられてしまう。すなわち新たな琉球処分となる可能性があるのではなかろうか」「沖縄が単独で一つの州を形成しようとするならば、その単独州の可能性や実現性については、沖縄自らが理論を構築し、国に要求しなければならない。そのために残された時間は、もしかするときわめて短いかもしれない」
 琉球処分とは、明治国家が琉球王国を日本の版図に組み込む一連の過程をさす。日本からすれば沖縄は処分可能な辺境の島であった。第2次大戦後は、沖縄の意思を聞くことなくアメリカ占領下に放置したまま日本は独立した。第2の琉球処分であった。「新たな琉球処分」は拒否するというのが、道州制論議が盛り上がる直接の背景である。

■ 沖縄は特例型単独州をめざす

 道州制のわかりやすい関心事は、その区割りにある。ビジョン懇話会の江口克彦座長は、その著書「地域主権型道州制」に見られるように、沖縄単独州は厳しいということをしばしば発言していた。琉球新報は、「沖縄が九州道に組み込まれることへの危機感が逆バネとなり、単独州の要求が盛り上がった一面がある」と解説した。
 懇話会は、沖縄単独で州となる、その州は規模が小さく外海の離島という特色に応じた権限(国境管理の権限)を特例として付与された特例型単独州を提言したのである。
 沖縄道州制懇話会は、単独州を目指す理由を、四つあげている。@沖縄のビジョンの実現、A沖縄の可能性の活用・沖縄固有の問題の解決、B歴史的事情、C全国から見た沖縄単独州のメリットである。私なりに一言で要約すると、@は将来から見た沖縄社会のあり方、Aは現在から見た沖縄政治経済のあり方、Bは過去から見た沖縄歴史文化のあり方、Cは全国から見た沖縄の可能性ということになろうか。

■ 道州制論議はアイデンティティの確認か

「道州制は単なる政治的行政的な課題ではない。やがて来る選択は、自らのアイデンティティを確認するか、九州人か東京人に切り替えるかの選択である。未来に対して責任ある選択が迫られる」
 冒頭で触れた沖縄大学主催シンポの企画者による閉会挨拶の言葉である。シンポの通低音をなしたのは、まさにアイデンティティの問題であった。シンポは、民衆議会を標榜し、いわゆる学識経験者ではなく普通の市民の発言を募集した。事前にA4一枚の要旨を出し発言をしたもの13人。うち9人が単独州を支持した。東京と合併が1人、九州道を望む発言はなかった。
 独立を正面から議論した「議員」はいなかったが(焦点を「単独州」として発言したせいであろう)、反対論を含め、言及した「議員」が多かったことも留意すべきであり、このシンポの通低音がアイデンティティであることを示している。「道州制が『琉球独立』のステップになる可能性がある」、「琉球民族の自決を求める最大のチャンスである」、「琉球国再建については何ら問題ない」、「沖縄独立まで射程にいれた議論を」、「沖縄は独立する権利がある、しかし独立しなければならないということではない」等と語られたのである。
 道州制議論が、自治の範囲を超え「独立」論の一部として語られるのは日本広しといえど、沖縄しかない。道州制議論が、多くの県民の関心を呼んだ土壌がここにある。司会は、独立に賛成か反対か挙手を求めた。賛成およそ30名、反対およそ50名という結果であった。賛成者が予想以上に多いというのが、私を含め一般的見方であると思われる。おそらくシンポの参加者が独立論・自立論に日ごろから関心を持つものが多かったということであろう。林琉球大学准教授の意識調査では、独立支持は20〜25%という数字が出ており、沖縄の道州制論議は、他の地域以上に多様で豊かな内容を持って展開されるに違いない。
現代の理論・社会フォーラムNEWS LETTER 2008.9

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道州制論議はアイデンティティの確認か

沖縄大学シンポ「道州制・自治州、あなたはどうする−沖縄の自治と自立」から

仲地 博




 「道州制は単なる政治的行政的な課題ではない。やがて来る選択は、自らのアイデンティティを確認するか、九州人か東京人に切り替えるかの選択である。未来に対して責任ある選択が迫られる」。シンポジウムを企画した真栄里泰山氏(沖縄大学常務理事)の閉会挨拶の言葉である。
 シンポの通低音をなしたのは、まさにアイデンティティの問題であった。以下は、私なりの総括的感想である。

予想以上の関心で発言通告者も多数

 沖縄大学の土曜教養講座の一環として「民衆議会」を標榜したシンポが開催された。参加者230名終了時でもおよそ100名の参加者は、主催者の予想以上であり、関心の高さを示した。いわゆる学識経験者ではない市民の声を求め、事前にビラ、ポスターなどで広く発言者を募った(発言者がいない場合を心配し、主催者が働きかけた方 −自治をテーマとするNPO等−も数人いる)。A4一枚の原稿を出し発言を通告した13名の「議員」が道州制や沖縄の未来を語った。この多さも主催者の予想を超えるものであった。企画当初段階では、90分と予定された第一部の基調講演は、第二部「民衆議会」の「議員」の発言時間確保のため30分に短縮されたほどであった。
 沖縄−鹿児島−高知−和歌山とつながる南海道の提案あり(栗野)、東京との合併を望む声あり(倉岡)で百家争鳴の感があったが、全体を覆う雰囲気はまさしくアイデンティティの問題であった。
 筆者は、シンポの第一部で基調講演を行い、第二部の「民衆議会」で最後の総括を行った。本稿は、その総括を基に整理したものであるが、あくまで個人的な感想の域を出ないことをお断りしておく。

単独州の支持が多数であるが東京併合論も

 シンポのテーマは「道州制・自治州、あなたはどうする−沖縄の自治と自立」であった。テーマ前半の道州制・自治州に重きを置いて発言した人、後半の自治と自立を関心として発言した人それぞれであったが、多くが沖縄の将来像として単独州を支持した(仲本、大村、座安、大場、賀川、真久田、浜里、与儀、屋良)。
 シンポの最後に、司会(小橋川)は、道州制下の沖縄のあり方について100名ほどの「出席議員」の挙手を求めた。「大多数」が単独州を求めたのは、予想通りであるが、九州州に含まれることを支持したのが2人であるのに対して東京と一緒になることを希望したのが7人であったことは興味深い。九州は、地理的に近いだけで、心理的に近いのは今や東京なのである。九州と一つの自治体を作ろうとするのは相当な困難−我々がいかにしたら九州人になれるか−があるといわざるをえなくなっている。東京と組みたい根拠として、安定しない世界情勢において緊急事態に対応できる協力者は東京であること、沖縄の基地問題は国家的課題であることがあげられた(倉岡)。広く潜在すると思われる率直な意見の表明である。
 この考え方を極端にすれば、米軍基地についてはすでに一国二制度の評もあり、地政学的理由をもとに国家直轄の特別州というのもあり得ないことではない。
 黒潮民族を主張し、南海道の建設により、周辺を中心に変える戦略を、とする主張(栗野)にも複数の支持があった。南海道という自治体が何を目指すか、説得性に欠けるうらみがあるが、このような斬新な発想をしたこと自体を評価したい。というのはおそらく沖縄単独州は、多様な日本社会の形成を目指す考えであり、それは我が内なる単独州においても、多様な発想を求め評価するものでなければならないであろうからである。

独立論とアイデンティティは隠れた焦点

 独立を正面から議論した「議員」はいなかったが(焦点を「単独州」として発言したせいであろう)、反対論(与儀)を含め、言及した「議員」が多かったことも留意すべきであり、このシンポの通低音がアイデンティティであることを示している。道州制が「琉球独立」のステップになる可能性(真久田)、琉球民族の自決を求める最大のチャンス(大村)、琉球国再建については何ら問題ない(座安)、沖縄独立まで射程に(大場)、沖縄は独立する権利がある、しかし独立しなければならないということではない(浜里)等と語られたのである。
 道州制論議が、自治の範囲を超え「独立」論の一部として語られるのは日本広しといえど、沖縄しかない。道州制論議が、多くの県民の関心を呼んだ土壌がここにある。司会(小橋川)は、独立に賛成か反対か挙手を求めた。賛成およそ30名、反対およそ50名と言う結果であった。賛成者が予想以上に多いというのが、私を含め一般的見方であると思われる。おそらくシンポの参加者が独立論自立論に日ごろから関心を持つものが多かったということであろう。林琉球大学准教授の意識調査でも、独立支持は20〜25%という数字が出ており、沖縄の道州制論議は、他の地域以上に多様で豊かな内容を持って展開されるに違いない。
 しかし、道州制は、独立論者の期待に応えるものなのか、それともそれを絡め取るものなのか、見通しは不明といわざるを得ない。
 沖縄の道州制論議の背景に独立論があることを述べたが、さらに独立論のその背景には、民族意識がありそうである。「民族自決なくして自治なし、民族の誇りと自信を取り戻す」(大村)、「州議会で独立宣言をし、国連へ先住民族の新独立国として加盟」(真久田)として論及されている。

奄美との連携を求めて

 道州制論議は奄美も射程距離に入れていることが明らかになった。琉球弧には奄美が含まれる(大村)、「北琉球も(沖縄単独州)に含めるべき」(真久田)というのである。しかしそれは、当然のことながら、「琉球州を選ぶか九州州を選ぶかは奄美が決める」(座安)のである。奄美から見れば、薩摩も琉球も支配者であった。沖縄島が、無意識の琉球中華思想に立てば奄美の共感は得られまい。文化的基盤の同一性があり、奄美に親近感を持っていることは伝え続ける必要がある。

経済自立は単独州の必須条件か

 当然ながら、経済的・財政的自立は多くの「議員」の関心事項であった(仲本、大村、座安、大場、賀川、真久田、浜里、与儀、屋良)。単独州を念頭において経済政策、例えばモノつくりの復活(大場)、農業戦略(賀川)、独自通貨の発行(屋良)が主張されたが、もとより詳細に持論を展開する時間は与えられていなかった。
 注目すべきは、「経済と財政の自立がかならずしも沖縄単独州の必須条件ではない。単独州として成り立つための理論武装こそ必要」とする発言(仲本)や、「日本の国と地方の財政は破綻状態に近く、単独州であろうが九州州であろうが財政的に苦しいのは同じ。より効率的地域経営と経済振興を実現するためにこそ単独州」(浜里)とする視点である。
 道州制論議が深まるにつれ、「望むらくは単独州であるが、経済的に不安である」という声が表面化しよう。分権から経済財政問題に焦点が移るのである。単独州を沖縄が志向するのであれば、この問題に本格的に取り組む必要がある。沖縄を挙げた知恵の結集が課題である。

民衆議会は住民パワーを蓄積する

 琉球新報社説は述べる。「沖縄県内の世論は単独州、と取られかねない。しかし、そう結論付けるのは早計だろう。何度もいうように、住民による下からの論議が十分とは言えないからだ。事は県民の生活全般にかかわってくるものだ」(二〇〇八年八月二十四日)。下からの議論が十分ではない、というのはその通りであろうが、「上から」の議論も十分ではないのである(ちなみに道州制懇話会は民間団体である)。むしろ、琉球自治州の会、21世紀の会(うるまねしあ)、先住民族の会など自立志向で草の根の議論をするNPOは他地域に見られない沖縄の特色である。本シンポも民衆議会というネーミングに相応しい内容を持って行われた。道州制が現実のものとなるかどうかまだ見通せる段階ではないが、沖縄はそれに備えた準備を「上」も「下」も行う必要がある。
 住民自治の議論が少ない(与那嶺)という指摘もなされた。地球をどうするかという視点をすえて道州制の議論を(倉岡)、という高い次元の提起もあった。今次の民衆議会を振り返ると、道州制は百家争鳴の議論を期待でき、その中に沖縄の将来を生み出す住民パワーが蓄積されるように思えたのである。
 (本稿中の「議員」の発言は、当日配布されてレジュメの部分もあれば、口頭での発言部分もあります。「議員」の本意に沿うように紹介したつもりですが、短縮したため舌足らずとなった部分や誤解もあるかもしれません。その場合はご寛容ください)。

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沖縄単独州への提言

―「復帰・反復帰運動」の轍を踏まぬ警鐘 &「独立」への序曲として―

うるまネシア編集委員会




1.道州制導入(沖縄単独州)の論議をめぐる現状認識
 @全国的に低調な道州制論議。沖縄のみ徐々に機運がもりあがりつつある状況(それには当然理由がある。最大は基地問題であろう)。
 A今日の状況は1960年代「祖国復帰運動」が盛り上がりつつあった時代に似ている気がする(当時小中学生、もちろん世界情勢、社会的状況は全然違う。が、何となく雰囲気として似ている)。

2.沖縄単独州について賛成である理由
 @県民(ウチナーンチュ)が心を一つにし、沖縄の未来について真剣に考える機会の到来。
 A「琉球独立」の一ステップになる可能性を秘めていると感じる。
 B独立否定派(右も左も)の存在感が薄くなっていきそうな予感がする?

3.沖縄単独州への提案
 @北琉球(奄美諸島)を含めるべきであろう(県域外合併)。
 A全国的には「連邦制」を提唱することも可とすべきであろう(消極的提案)。
 B経済的な問題については「独立州→独立国」を視野に入れた想定が必要(現行憲法・制度下における「自治州」程度では不十分)。

4.経済論議について
 @「貧困」の研究(平恒次)。GDPや移出入収支、地方交付税や県外受取りなどを議論の前提にすること―押しつけられた常識―に関する疑問(経済は法律を変えることにより変わるのだ)。
  例:基地経済の呪縛について、宮古、八重山、奄美には元々米軍基地はない。にもかかわらず「芋、裸足の経済」にはなっていない。
 A経済に関する基本的な考え方、思想の構築が必要
 (「上部構造と下部構造」、「戦争とは何か」「政治と経済」「自治と独立」等について)。
 B「経済」を変えるにはまず「政治」から(この場合の「政治」とは「法律」と同義。前後述参照)。
 C官僚主義の徹底的排除(日本を駄目にした諸悪の根源は官僚、沖縄を駄目にした諸悪の根源は県庁職員である)。

5.独立への序曲としての沖縄単独州への提案
 @今後の運動への警鐘(復帰、反復帰運動の轍を踏まぬこと)。
 ・熱狂的にならないこと。大和人(本土出身者)への警戒と配慮。壮大な0への配慮
 A当面のスケジュール(アイデア)
 ・独立派の議員を増やし徹底した発想の転換、経済を変えるための法律・システムの研究。
 ・道州制導入10年後、州議会で「独立宣言」。国連へ「先住民族」の新独立国として加盟。
 ・基地問題は独立後に後回ししてもよい(地中海マルタ共和国の事例)。
 B新法・システムの研究事例(アイデア)
 ・本土資本のっとり大作戦(リゾートホテル、航空会社、海運会社、エネルギー関連、保険金融会社、日本国有財産(首里城、海洋博公園、北部訓練場、ダム等)等の琉球国有化(「国有化は駄目」とする意見への反論)。
 C「道州制から独立へ」の世論の喚起
 ・独立は簡単である(佐藤優氏の海外の事例話から。知事が大統領になりたいか、県議が大臣になりたいかどうかにかかっている。ちなみにわたしは琉球沿岸警備隊司令長官になりたい)。
 ・「居酒屋独立論」の勧め。大学生への期待(選挙運動への参加奨励)。独立研究の推進。
 ・地域づくり、まちづくりからの発想(ロハススタイル等を含む)。
 ・「指定管理者制度」、「基地跡地利用制度」、「尖閣油田の日中共同開発」等の逆手利活用。


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沖縄の「特例型」道州制に関する第1次提言
2008年5月13日

沖縄道州制懇話会



まえがき

 沖縄道州制懇話会は、2007年8月にオール沖縄的な道州制の検討機関として発足した。当会の活動の目的は、沖縄県の地理的、歴史的、文化的諸条件を踏まえ、沖縄のことは沖縄自らが責任をもって決めるという原点に立脚し、自治と自立の課題について県民各界各層の立場から幅広い視点で議論を行い、沖縄にふさわしい道州制のあり方について、県民の関心を高め沖縄の総意に基づく提案の基盤づくりに資することである。
 発足以来、当会では道州制をめぐる政府や全国の動向、沖縄の自立構想の歴史的展開、沖縄振興体制の問題等について議論を重ねた。そして、沖縄の自治と自立の視点に立脚した場合、当会としては、道州制の是非論は別に道州制の導入がありうることを前提として議論する必要があることを確認した。
 更に、2008年1月、沖縄単独州を目指すことを全会一致で確認した上で、以下の諸点について検討をすることにした。
 @沖縄単独州を目指す理由(理念・目的)
 A沖縄単独州の事務(国と沖縄単独州の役割分担)
 B道州制への移行方法
 C沖縄単独州の機構−特に、道州議会のあり方−
 D沖縄単独州と市町村のあり方
 E税財政制度
 F振興体制
 G提案の方法

 今回の第1次提言は、そう遠くない将来、道州制の導入がありうるという前提の下で全国の道州制の導入に関する議論と沖縄の立場について確認した後、@沖縄単独州を目指す理由(理念・目的)、及びA沖縄単独州の事務(国と沖縄単独州の役割分担)に関する議論を取りまとめたものである。
 第1次提言の後、B以降の項目については、今後、順次提言することとしたい。最終報告は、今後1年を目途に行う予定である。


1.はじめに

 現在、国際社会におけるグローバル化の進展や人口減少・超高齢化社会の到来などの時代の潮流に適切に対応するため、明治以来の「国の統治のかたち」であった中央集権体制そのものの抜本的な改革を目指して、道州制の導入に向けた動きが加速している。道州制の導入は、明治政府によって断行された「廃藩置県」に匹敵する大改革であり、沖縄にとっては1609年の薩摩の琉球侵攻、1879年の琉球処分、1952年の講和条約第3条による沖縄の分離、1972年の日本復帰に相当する「世替り」となる可能性を有している。
 道州制は活力ある多様な地域社会からなる日本、そして、近隣のアジア諸国からも信頼される日本をつくる有効な手段とすべきである。そのためには、国全体として地域社会とアジア諸国との歴史認識の共有と地方政府の迅速な決定による経済交流、平和外交等が必要不可欠である。更に、地域に関わる国の意思決定は国と道州や市町村が協議する仕組みを設ける必要がある。
 復帰後35年、沖縄は中央集権体制の中に組み込まれ、霞ヶ関への陳情活動などの現実的な対応に追われてきた。しかし、グローバル化への対応、地域の自己責任・自己決定を促す地方分権改革、急迫する国と地方の財政改革への認識を県民全体で共有し、気概をもってアジア全体の平和と繁栄の実現に向けた今後の100年を見据えたビジョンを策定しなければ、自立し発展する沖縄にふさわしい道州制のあり方を描くことはできない。
 沖縄道州制懇話会では、地域の構成員はもとより地域社会とアジア諸国との信頼と信用のネットワークを築くことを前提として外海離島に位置する沖縄が単独州となり、変革に果敢にチャレンジすることを通じて地域を活性化し、結果として沖縄単独州の経済・財政基盤が確立すると共に、道州制導入によるこの「新しい国のかたち」もつくることができる、との認識で一致した。
 道州制は、道州制ビジョン懇談会や自由民主党、日本経団連などを中心に急速に政治課題として浮上している。北海道、九州、関西などにおいては、地域に即した独自の構想が練られている。道州制は、日本の国のかたちの変革として近い将来、現実に導入される可能性を否定できない。沖縄が、どのような将来構想を持つか、仮に九州と共に歩むとするならば、全国あるいは九州と歩調をそろえて議論するだけでも良い。しかし、沖縄が単独で一つの州を形成しようとするならば、その単独州の可能性や実現性については、沖縄自らが理論を構築し、国に要求しなければならない。そのために残された時間は、もしかするときわめて短いかもしれず、少なくとも十分にあるとは断定できない。
 道州制の時代に、沖縄はいかにあるべきかを考え、世論を喚起するため当懇話会は結集した。本来であるならば、当事者である沖縄県が沖縄の道州制導入の時代を見据えて自らの将来像を構築しなければならない。ここに第1 次提言を作成するにあたって当懇話会は沖縄県の行政の積極的な取り組みを期待したい。
 また、市町村、県、国レベルの各議員や首長などの政治の衝にある方々には、長期的展望に立った沖縄の将来像を構想し、住民とともに議論を深める姿勢を要請したい。
 更に、われわれ住民は住民自治こそが自治の中核であることに思いをいたし、自らとその子孫のためにあるべき地域像、あるべき沖縄像を目指し、広く議論をすることを確認したい。
 当懇話会は、道州制下の沖縄は単独州が望ましいという結論に達した。ここに県民や県庁、県や市町村の議会、国に広く当会の基本的な考え方を提起したい。


2.道州制の導入について(全国の議論と沖縄の立場)

 沖縄道州制懇話会では、道州制ビジョン懇談会等の議論の方向等を見ると、道州制の導入がそう遠くない将来にありうるとの共通認識に達し、道州制の是非論は別に道州制の導入がありうることを前提として議論する必要があることを確認した。
 ここではまず、第28 次地方制度調査会の「道州制のあり方に関する答申」や道州制ビジョン懇談会中間報告等から、道州制の必要性についての全国的議論や導入時期に関する考え方を確認し、次に当会としての考え方を述べたい。

(1)道州制の必要性についての全国的議論
 道州制の必要性について、今まで上記の調査会、懇談会等において議論されている主な内容は、次の通りである。

@地方分権の推進
 ・現在の中央集権体制では、地域の課題に関して必要以上に国が法令や補助金、出先機関を通じて関与し、住民ニーズに合わない画一的な施策や二重行政の弊害が生じている。
 ・道州制を導入する場合、住民参画の下、地域のことは地域で決めることができるようにする。補完性の原理に基づき、住民にとって身近な市町村に優先的に権限を移譲し、それでも担えない事務は道州、国の順番で役割を分担する。そして同時に、市町村や道州の財政基盤も強化し、地域のニーズに適った施策を地域自らが迅速に決定し、自立的な発展ができるようにする。
 ・そのため、これまでの国の仕事の大半を自ら実施できる規模の広域中間団体への再編、すなわち都道府県制の再編と、これまでの都道府県の仕事の大半を引き受けることのできる基礎自治体の広域的再編、すなわち市町村合併のさらなる推進が図られるべきとする。

A地域の活性化
 ・現在の中央集権体制では、政治や経済、文化情報発信機能等が東京に集中しているため、各県を広域的にまとめるブロック単位の活力が低下している。また、最近、高速道路や新幹線の整備等によって、この地域単位で一体的に取組む広域行政の課題が増えているが、地域のニーズに適った効果的で迅速な決定ができない。
 ・道州制を導入する場合、国と地方の事務配分(役割分担)を抜本的に見直すことを通じてブロック単位の中核都市機能を強化して繁栄の拠点をつくり、この地域単位の様々な課題を迅速に決定できるようにする。そうすることで東京一極集中が是正されると共に、多様な国際競争力のある地域を創出することによって結果として各道州の経済・財政基盤が確立し、日本全体の活力も維持・発展することができる。

B効率的な行政システム
 ・現在の中央集権体制では、国が必要以上に地方に関与しているため、住民や企業が事業の許可申請などをした時に、事務手続が煩雑になると共に、国や県、市町村の部署をたらい回しにされることがある。また二重行政と批判されるような国と都道府県、都道府県と市町村の所轄の重複も多く、責任の所在の不明や非効率を生んでいるとされる。
 ・道州制を導入する場合、補完性の原理に基づいて国と地方の役割分担を見直すと共に、国政事務の大胆な地方への移譲により二重行政の除去と地方の役割とされる事務への国の関与を徹底的に排除する。そうすることで、企画立案から管理執行までを一貫して道州及び市町村が担うこととなり、住民や企業の事務手続が容易になる。また、この事務の簡素化に伴う中央省庁のスリム化や都道府県、市町村の合併によって、国と地方を通じた組織や職員、行政経費の削減ができる。

(2)道州制の導入時期に関する考え方
 ・道州制ビジョン懇談会: 2008年3月に中間報告をまとめ、「おおむね10年後、2018年までに道州制に完全移行すべきであると考える。このため、道州制基本法は、本懇談会の最終報告が行なわれる2010 年には原案を作成し、翌年の通常国会に提出する必要がある。」との考え方を明記している。
 ・自由民主党道州制推進本部: 2008年3月、自由民主党の道州制推進本部は、「2015年から2017年を目途に道州制の導入を目指す」(「道州制に関する第3次中間報告に向けて(たたき台)」)との考え方を提起している。
 ・(社)日本経済団体連合会: 2008年3月の「道州制の導入に向けた第2 次提言−中間とりまとめ−」において、日本経団連が提案する改革として2010年に「道州制推進基本法」(仮称)の制定、2015年以降に道州制導入とのロードマップを提起している。

 なお、地方制度調査会は2006年2月に「道州制のあり方に関する答申」を提出した後、現在は、地方自治の一層の推進を図る観点から、市町村合併を含めた基礎自治体のあり方等について調査審議を行っている。また、地方分権改革推進委員会は国と地方の役割分担や国の関与のあり方等について検討を行い、2007年11月に「中間的な取りまとめ」を提起している。

(3)沖縄道州制懇話会の道州制の導入に関する考え方
 道州制についての議論が高まる中、他方において、なぜ都道府県制ではダメなのかという疑問も提示されている。これは、十分に検討しなければならない課題である。分権、財政再建に向けた他の選択肢も模索する必要がある。道州制についての国民世論もまだ成熟しているとは言いがたい。
 しかし、増田道州制担当大臣は、道州制の導入の時期について「10年以内に成し遂げないといけない」と述べ、遅くとも2017年ごろには実現させる考え方を表明している。更に「2015年から2017年を目途に道州制の導入を目指す」との政権政党の考え方などから、道州制の導入が政治課題となっており、そう遠くない将来にありうると言えよう。早急に沖縄自らが沖縄の将来像を準備しなければ、国から他地域との合併を押し付けられることになるであろう。
 道州制の導入を考えるにあたって、沖縄の自治と自立に立脚した場合、次の諸点を前提とする必要がある。

@道州制の基盤
 ・主権を有する住民は、主権を住民のために代行する新たな政府を作り出す自己決定権を有する。その権利に基づいて、沖縄に新たな政府を設置する。
 ・1963年の最高裁判所判決では、憲法上の「地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱っているということだけでは足りず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在」する必要が指摘されているが、このことは道州にも妥当しよう。
 ・地域社会内部の住民や企業、政府等と共に、国内外の様々な人々・団体の間の全ての関係において、信頼と信用のネットワークの構築が必要である。
 ・新たな沖縄の政府は、主権を有する住民の生活共同体により支えられ、社会の多様な組織・団体の信頼と信用のネットワークによって支えられる。それは、沖縄住民の主体的な社会参加及び政治参加によって成り立つ。したがって主体性を育成するひとづくりが最も基礎的な基盤である。

A道州制の目的と課題
 ・道州制は活力ある多様な地域社会からなる日本、そして、近隣のアジア諸国からも信頼される日本をつくる有効な手段とすべきである。そのためには、国全体として地域社会とアジア諸国との歴史認識の共有と地方政府の迅速な決定による経済交流、平和外交等が必要不可欠である。更に、地域に関わる国の意思決定は国と道州や市町村が協議する仕組みを設ける必要がある。

B日本そして沖縄の地理的特性
 ・日本の国土は南北に長いため、亜寒帯から亜熱帯まで地域によって気候が大きく異なる。また、列島の中央を縦走する山岳地帯を境に太平洋に面している地域と日本海に面している地域で気候が大きく異なる。特に、東西1,000キロ、南北400キロにおよぶ沖縄県域を含めた日本の領海・排他的経済水域面積は447万Km2(世界第6位)となり、この広大な海域に点在する数多くの外海離島を抱えている。そのため、国際的協調の下、海洋立国の実現を目指す日本において、自治体は自然的社会的条件に応じた施策を策定し実施する責務を有しており、多様な地域特性に応じた活力ある国づくりを行う必要がある。


3.沖縄単独州を目指す理由(理念・目的)

 中央政府主導で審議会が設けられ、道州制実現に向けて着々と議論が進んでいる現状である。その方向性は、数都道府県を合わせた広域的自治体を創設することにある。
 この原則が沖縄に適用されるとするならば、沖縄を一まとまりとする自治機構の喪失を意味することになる。沖縄から独自の自治構想が提案されないならば、国の審議会等では九州州の一部とする答申が提出される可能性を否定できない。手をこまねいていては、自らの意思ではなく他からの力によって沖縄の形がつくられてしまう。すなわち新たな琉球処分となる可能性があるのではなかろうか。
国政において道州制の導入が公式に議題とされ審議が進む中では、県合併を伴う「標準型」の道州制とは異なる沖縄の自治と自立にとって望ましい「特例型」の道州制のあり方を早急に提起する必要がある。
 琉球王国時代、沖縄はアジアでも最も活力に満ち溢れる海洋交易国家の一つであった。かつての「万国津梁の精神」を現代に取り戻し、アジア・太平洋新時代にふさわしい明確なビジョンを、今後、県民全体で策定し共有化する必要があろう。
 ここでは、沖縄のビジョンを実現し、固有の問題を解決するためには、迅速に地域のことは地域で決めることができる沖縄単独州が必要不可欠であるとの観点を中心に、沖縄道州制懇話会の考え方を取りまとめた。

(1) 沖縄のビジョンの実現

@100 年後の平和と繁栄の実現
 道州制は、活力ある多様な地域社会からなる日本、そして、アジア諸国からも信頼される日本をつくる有効な手段とすべきであり、それは同時に、アジアの中における沖縄という視点から、日本を含めたアジア全体の100年後の平和と繁栄を構想することでもある。沖縄のアジア ・太平洋クロスロードとしての観光や健康産業等のポテンシャルを活かし、交流型社会のフロントランナーとして知の交流・集積地となり、外海離島である沖縄が国内外の企業・人にとっても魅力的な世界に開かれた活力ある地域をつくるために、沖縄単独州を目指す。

A新しい信頼関係に基づく地域活性化
 人口や経済規模が小さい沖縄単独州は、「数都道府県を合わせた広域的な単位を基本とする」道州の区域と異なっており、仮に、道州制の導入によって財政調整機能が弱まった場合、沖縄単独州は財政面で大きな困難を抱える可能性がある。
 現行の中央集権体制の下では、各省庁がそれぞれの立場から、例えば市町村の道路に至るまで事細かに個別の補助金のメニューを示して関与を行い、必ずしも十分に地域のニーズが事業に反映されなかった。
 その改善のため、住民自治による財政規律と市場的な規律を強化するとともに一般財源となる用途を限定しない一括補助金の導入と自治体の政策開発能力の向上による資金・資源の有効活用によって地域のニーズに適った施策を実施できれば、最小の費用で最大の社会的な効果や経済的波及効果が生じるものとなり地域の活性化を実現することができる。
 これらを実現するための有効な資本はソーシャル・キャピタル(社会関係資本)であり、住民自治に不可欠な社会資本として注目されている。この新しい資本の構築には、新たな関係づくりが求められている。すなわち、「市民、NPO・事業者・行政」がそれぞれの分野の性格を尊重しながらも、地域公益向上にそれぞれの役割を発揮し、その過程で人々の信頼関係、規範、効率性を高め機能することのできる「新しい関係づくりによる地域活性化」である。
 この新たな信頼関係に基づく地域活性化を実現するために、沖縄単独州を目指す。

B共同体意識に基づく地方公共団体の設置
 前述した最高裁判所判決にもある通り、自治にとって共同生活・共同体意識という社会的基盤の存在が重要である。沖縄の地理的特性や歴史的事情、県内世論等を踏まえれば、沖縄においては奄美地域を除いて他の都道府県と共同体意識を持てる状況ではないと言えるのではなかろうか。また、国際的にも、韓国の済州道やフィンランドのオーランド、スペインのカタロニアとバスクなどで共同体意識に基づいて特別な自治州が設立されており、沖縄単独州の設立は多様な地域社会からなる一国多制度の日本社会を創出することに寄与することから、沖縄単独州を目指す。

(2)沖縄の可能性の活用や沖縄固有の問題の解決
 沖縄は亜熱帯地域における海洋性離島であり、また歴史的に特有な問題を抱えている。そこから生じるポテンシャルの活用や諸問題の解決は、沖縄が主体的に主張することによってのみ実現可能であり、あるいは解決できる。そのために沖縄単独州を目指す。

@地理的特性に起因する交通や物流、国境離島の問題
 人口137万人を有する沖縄県は、九州・本土から大きく海を隔てて、広大な海域に大小160、有人49(沖縄本島と橋でつながれた島を除いたら39)の島々が散在する島嶼県であり、他の九州7県の主要都市との交流・物流は空路・海路に限られている。
 その地理的特性により、道州制導入の根本原理である「補完性の原理」及び「近接性の原理」に則れば、沖縄が九州と同じ道州の区域になった場合、道州政府は住民にとって所要時間や移動コストの面から非常に遠い。そして、陸続きでないために九州に新幹線や高速道路等の社会基盤整備をおこなっても沖縄にメリットがなく、逆に沖縄での空港、港湾等の社会基盤整備は九州のメリットにならない。
 更に、九州の観光施策において、沖縄のリーディング産業である観光業は競合関係にあると見なされている。
 また、沖縄が全国第2位の有人離島を有していることは、日本全体の海域保全に貢献している事の証明になる。
 このような沖縄の地理的特性に起因する交通や物流、国境離島の問題を解決するために、沖縄単独州を目指す。

A基地問題
 米軍基地が本島面積の約19%を占有、在日米軍専用施設の75%が集中し、「日本の安全保障の要」とされるなど、沖縄固有の問題として「基地問題」を抱えている。沖縄県議会本会議での質問中、基地から派生する事件、事故、返還跡地利用、地位協定の改定、安全保障などの米軍基地に関係するものは約3割を占めるとも言われている。
 議会での審議とともに知事も基地問題に対しては最重要課題として取り組みを行ってきた。沖縄が九州に統合された場合、九州州の議会や首長においては全九州の案件が重視され、沖縄に特有な基地問題に対して重点的な取り組みを期待することはできない。
 このような沖縄固有の問題を解決するために、沖縄単独州を目指す。

(3)王国の歴史・戦後の米軍統治下・移民等の歴史的事情
 沖縄はかつて琉球王国の時代、「舟揖を以って万国の津梁となし」と刻んだように荒波を越え、東アジアを股にかけて栄華を誇った歴史がある。明治には最も遅く日本に編入され、太平洋戦争においては、住民を巻き込んだ国内唯一の地上戦の戦場とされ、教科書検定問題で明らかとなったように悲惨な戦争の実態が人々の歴史として共有されている。
 また戦後の米軍統治下の琉球政府時代、米国型の三権分立の制度の下、立法院の議員に立法案と予算の提出権が専属し、また、琉球政府は関税や出入国管理、司法等を担っていた。当初、米国民政府の任命制であった琉球政府主席は、度重なる住民の自治権拡大の運動によって、1968年には住民の直接公選を勝ち取った。
 このように九州・本土の他の都道府県とは異なる歴史を持つと共に、1972年の施政権返還後、沖縄振興開発特別措置法に基づく各種事業の実施を図るため、沖縄開発庁(現在、内閣府沖縄振興局)、沖縄総合事務局が設置されている。現行制度においても、沖縄は九州とは異なる政治行政区画となっている。
 このような沖縄の歴史的事情や現行法令行政機関の現状を考慮して、沖縄単独州を目指す。
 また、沖縄は日本有数の移民県と言われ、ウチナーンチュはハワイや南米など世界各国に雄飛し、その地域に深く根付くと共に母県との間に強い絆を保っている。現在、沖縄県は国際交流拠点の形成を図るために「世界のウチナーンチュ大会」を開催しているが、そのネットワークを活かした独自の文化・経済交流が考えられる。
 なお、奄美地域については当事者である奄美の人々が区域問題を判断することが前提であるが、沖縄としては沖縄と奄美の歴史的な経緯や共通の自然的社会的条件等を踏まえ、奄美地域への親近感を持っている。

(4)全国から見た沖縄単独州のメリット
 九州・本土から大きく海を隔てて、中国と国境を接し、台湾と海洋境界を接する島嶼県である沖縄が単独州になることは、様々な先進的な変革に対して、小さいからこそ迅速にチャレンジでき、全国のパイロット的な役割を担うことが可能である。そうすることで活力ある多様な地域社会からなる日本をつくることに貢献できると考える。
 また、沖縄戦の体験、琉球政府の経験に基づいた沖縄単独州の視点から、地域社会とアジア諸国との歴史認識の共有や経済交流、平和外交等を積極的に担い、その必要性を日本全国に提起することは、近隣のアジア諸国からも信頼される日本をつくることに、沖縄から貢献することになろう。


4.沖縄単独州の事務(権限)

(1)中央政府と道州政府(沖縄単独州)の役割分担(事務配分)の基本原則

@地域の視点から、「補完性の原理」に基づき、道州政府優先で中央政府と道州政府の役割を区分する。
 ・道州政府及び議会は道州住民の福祉の向上に必要と思われるすべての事務について自らの役割とする。道州政府が担うことができない事務について中央政府の役割とし、中央政府と道州政府の役割分担を明確に区分する。道州政府の役割とされた事項については、道州が責任を持って担い、中央政府の関与を受けないことを基本とする。ただし、国は、国民の最低限の生活条件整備(教育、福祉、医療、食品安全等)については、財源保障を行い支援する責務を負う。
 ・道州の長は、その議会の議決を経て、中央政府に対し、その権限に属する事務の一部を当該道州政府が担うこととするよう要請することができる。
 ・また、道州自治に影響を及ぼす法律または政令その他の事項に関し、内閣に対し、意見を申し出ることができる。
 ・もっぱら中央政府の役割とされた事項についても、地域に関わる中央政府の意思決定は国と道州や市町村が協議する仕組みを設ける。

A中央政府の役割については、限定的に列挙する。
 ・中央政府の役割については、可能な限り法律で限定的に列挙する。中央政府の役割は、地方自治法において(1)「国においては国際社会における国家としての存立に関わる事務」、(2)「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動、もしくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務」、(3)「全国的な規模で、もしくは全国的な視点で行わなければならない施策及び事業の実施」と規定されている。この考えを徹底する。地域住民の生活に影響を与える内政等に関する事項については、原則として道州政府の役割とすることを基本とすることを法律で規定する。

B沖縄単独州の区域を越える広域事務は道州政府が連携して行う。
 ・単に、規模が大きい、道州の区域を越えるなどの理由で、内政に関する事項を中央政府の役割とはせず、できる限り道州政府間の連携によって事務を遂行することを基本とする。

C企画立案から管理執行までを一貫して行う。
 ・道州政府の役割とされたものについては、道州政府が直接企画立案、執行することを基本とする。
 ・地域に関わる中央政府の意思決定は国と道州や市町村が協議する仕組みを設けることを前提として、中央政府の役割とされたものについては、中央政府が直接企画立案、執行することを基本とする。

D中央政府の関与は基本的事項や標準を示すにとどめる。
 ・道州政府の役割とされた事項について、中央政府が国会に法案を提出する場合は、その内容は基本的事項や標準を示すにとどめ、具体的な内容については道州議会が制定する条例に委ねることを基本とすることを法律で規定する。

(2)沖縄単独州の事務(権限)の基本的な考え方

@沖縄単独州は、他の道州制においては、もっぱら国が実施する事務事業であっても、外海離島である沖縄単独州に即して、国と道州の役割を見直し、沖縄州に相応しい権限を有する「特例型」道州とする。
 ・海洋境界に接する外海離島の沖縄においては、他の道州に認められる以上の権限を特例的に移譲されることにより、その持続的な経済・財政基盤を確立することが可能となる。
 ・例えば、国境に位置する沖縄単独州は世界に開かれた活力ある道州をつくるために、関税や出入国管理権等の国の国境管理に関する権限移譲を求めると共に、それに伴う責任ある対応を行う。
 ・例えば、基地所在地域の負担軽減策や基地返還跡地利用対策については、歴史的な経緯を踏まえた国の責務に鑑み、地域と国が直接協議し、地域の立場を踏まえた仕組みや国から地方への権限の付与、国の支援などが必要不可欠である。

A国(あるいは中央政府)の出先機関の事務は、国の事務とされたものについて直接執行する分野を残し、道州政府の事務と規定された事務については道州政府に企画立案から管理執行まで一貫して移譲するものとし、そのための組織改編を行う。

B補完性の原理を基礎としつつ沖縄独自の共同体を基盤として道州―市町村間の役割分担を今後検討していく。都道府県の事務を大幅に移譲していくため市町村を「基礎自治体」として広域化する施策がとられている。しかし、沖縄においては、広域化に適しない外海離島町村を多く抱え、また、現在の市町村の区域は王国時代の行政区割りである「間切り」の歴史を踏まえるものが多く、このような地理的歴史的状況を考慮した上で市町村合併は行われるべきである。

5.おわりに

 かつて中山吉一氏(当時、沖縄経済同友会代表幹事)は、「21 世紀への模索」という沖縄タイムスの連載に「道州制の導入」について寄稿し、「近代日本史にレイト・カマーとして登場した悲哀を味わって来た県民にとって、沖縄州の確立はその気概を試されるはじめての機会となるかも知れない」と総括した。レイト・カマーという言葉には、「遅参者」と「新参者」という二つの意味がある。遅れて日本に入ったが故に「周回遅れのラストランナー」として現実的な対応に追われてきたが、その一方では、固定観念にとらわれずにチャレンジする「交流型社会のフロントランナー」として「新しい国のかたち」をつくる可能性を大いに有していると言えよう。県民が気概をもって、活力ある多様な地域社会からなる日本、そして、近隣のアジア諸国からも信頼される日本をつくる有効な手段としての道州制の導入を沖縄から実現する必要がある。
 沖縄は繰り返し自立を議論してきた。道州制の時代に、今こそ広く沖縄の将来像を語る時である。この提言がその素材となることを祈念している。
 今後、当懇話会は第2 次提言に向けて、道州制への移行方法や沖縄単独州の機構、沖縄単独州と市町村のあり方、税財政制度、振興体制、提案の方法等について、沖縄県及び市町村等の行政の協力を得ながらより具体的に検討したいと考えている。


6.活動状況
・事前調整会議(2007 年8月8日)
 議題:沖縄道州制研究会(仮称)規約(案)について
・第1回 沖縄道州制懇話会(2007年9月12日)
 報告:沖縄自立構想の歴史的展開(仲地博座長)

・沖縄道州制懇話会は、沖縄経済同友会主催「道州制について考えるシンポジウム」(2007年10月15日)の共催団体となった。仲地博座長と吉元政矩委員がパネリストとして登壇し、島袋純委員がコーディネーターを勤めた。太田守明委員は沖縄経済同友会の副代表幹事として閉会挨拶を行った。

・第2回 沖縄道州制懇話会(2007年11月12日)
 報告:沖縄開発庁廃止、その時沖縄は(吉元政矩委員)
 報告:シンポジウムの報告概要について(太田守明委員)
・第3回 沖縄道州制懇話会(2007年12月17日)
 報告:道州制をめぐる政府や全国の動向について(太田守明委員)
・第4回 沖縄道州制懇話会(2008年1月21日)
 報告:道州制における沖縄の位置づけと単独州案及び統合案のメリット・デメリットについて(島袋純委員)
・第5回 沖縄道州制懇話会(2008年2月8日)
 報告:「沖縄振興(開発)体制のメリット・デメリットと単独州が経営破綻しない目標と仕組み」(島袋純委員)
 検討課題:沖縄単独州の区域(理念・目的)について
・第6回 沖縄道州制懇話会(2008年3月10日)
 検討課題:沖縄単独州の事務について
・第7回 沖縄道州制懇話会(2008年4月14日)
 検討課題:第1次提言(事務局案)について
・第8回 沖縄道州制懇話会(2008年4月28日)
 検討課題:第1次提言(案)について
・第1次提言 最終確認会議(2008年5月8日)
 検討課題:第1次提言(最終案)について


7.委員名簿

(座長)仲地 博 琉球大学法文学部教授
(委員)島袋 純 琉球大学教育学部教授
(委員)吉元政矩 学識経験者(元沖縄県副知事)
(委員)太田守明 内閣府道州制ビジョン懇談会 道州制協議会メンバー
(委員)石原絹子 NPO 法人コミュニティおきなわ
(委員)國場幸之助 沖縄県議会議員(道州制検討議員連盟 会長)
(委員)平良長政 沖縄県議会議員(道州制検討議員連盟 副会長)
(委員)古謝景春 南城市長(沖縄県市長会)
(委員)儀武 剛 金武町長(沖縄県町村会 副会長)
(委員)宮城宏光 那覇商工会議所 前副会頭
(委員)石川正一 沖縄県経営者協会 副会長
(委員)仲本 豊 沖縄経済同友会(道州制委員会委員長)
(委員)仲村信正 連合沖縄 会長
(オブザーバー)上原良幸 沖縄県企画部長
(事務局)上江洲由実 沖縄経済同友会 事務局長/又吉章元 沖縄経済同友会 前事務局長/藤中寛之 研究員
(協力)(財)南西地域産業活性化センター


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