「コメ自由化への試案」を考えるとき「農協をどうするか?」は避けて通れない大きな問題だ。購買事業を取り上げたが、もう一度「農協とはなにか?」の原点にかえって、その事業内容を再確認してみよう。
信用事業 JAバンクだ。銀行や信用金庫・信用組合などと同じと思えばいい。預金残高約36兆円。問題点は状況の変化にどう対応するか?ということだ。 (1)金融ビッグバンで競争が激しくなる。これに勝ち残れるか? (2)低金利時代資金運用をどうするか? (3)農家の資金需要が伸びない。どこに貸し出すか?
農家が農作機械などを積極的に購入していた時代は農家に資金需要があった。しかし農業がこれから拡大する産業とは考えられない、とすると農業での資金需要は伸びないだろう。電化製品や乗用車の普及もこれからは伸びないだろう。ではJAバンクはどこに貸し出すのだろうか?かつて住専に集中的に貸し込み大きな失敗をした。あれは「リスクを分散する」という基本姿勢を怠っていたからだ。この体質は今でも変わらないかも知れない。食糧の安定供給のために「供給地と流通ルートを多くし、リスクを分散させる」という姿勢を理解してないかも知れない。リスクを分散させるのではなく、「統制経済、社会主義経済のように一カ所で集中管理するのがいい」と考えているのかも知れない。
新たな融資先を開発しなければならない。かと言ってデリバティブは理解できないだろう。と言うより理解したがらないだろう。「あれはアメリカのグローバル戦略の一環で、金融も農産物もアメリカの多国籍企業の支配下に置こうとする戦略だ」と拒否するのだろう。
低金利なのでコール市場での運用も期待できない。都市銀行など資金の取り手が農協・信託銀行などの出し手に期待しなくなっている。
金融商品の多様化により農協でもリスクの高い商品を扱えるようになった。その「リスク」という概念を農家=お客=神様に理解させられるだろうか?いやそれよりも農協職員自身が十分理解できるのだろうか?多くのリスクを抱えたこの市場経済が社会主義経済・政府による管理保護経済と違うことを。それでありながら農協はこの「信用事業」と「共済事業」によって他の事業を支えている。現在これが農協の屋台骨になっているのだ。
共済事業 1950(昭和25)年、全国共済農業協同組合連合会(全共連)が設立された。この事業は、まず組合員と農協(JA)とが契約を結び、組合はこれを県共済連に再共済する。そして県共済はJA全共連に再々共済をして、共済責任を保証する仕組みになっている。
信用事業と並ぶ農協の屋台骨。信用事業と同じように資金の運用方法が今後の問題だろう。この業界での金融ビッグバンの影響はどうだろうか?信用事業に比べればあまり悲観的ではない。共済と言う保険商品の販売は、自動販売機やセルフ・サービス販売ではない。フェイス・トゥー・フェイス販売、縁故、人脈販売が中心だから農協での販売は安泰だろう。ただそれだから「農協は共済などを押し売りする。断ると日常の扱いで不利になるので断れない」との不満が出るかも知れない。それが農協離れに結び付かなければいいのだが・・・
それでも農協職員の多くが、信用事業と共済事業を手がけるようになるといい。そうすれば「リスク管理とはどういうことか?」を考え理解するようになるだろうからだ。
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販売事業 農協組合員が生産した農産物を協同販売して、組合員個々で対応するより有利な価格を実現しようとするのが農協の販売事業。また生産物を一定期間貯蔵・保管したり加工するのも販売事業の一部だ。問題は (1)無条件委託方式は今のままでいいのか? (2)コメの流通が自由化され、集荷業者としての特権がなくなり、扱い量が減ること。
「リスクを分散させる」と言うことは流通部門にも当てはまる。農産物を農協を通して消費者のもとに届ける。その流通ルートは農協だけでなない。各地方の卸売市場も積極的に農家へ働き掛けている。ネット上でも野菜の流通ルートを作ろうとの動きがあり、何かのきっかけにこれが大きく発展する可能性がある。また産地直売はこれからも少しづつではあるが市場を大きくするに違いない。それは日本国民が豊かになって食品に対する価値観が変わって来ているからだ。未だに食糧を飢餓から救う物、「食べ物がなければ死んでしまう」との捉え方をする人がいるが、日本人の多くは飢餓も栄養失調もあまり意識の中にはない。むしろグルメとして捉えることが多くなっている。「飽食の時代」との表現で贅沢を批判する人も、日本にいる限り飢餓の心配はない。むしろ飢餓の心配がないから「飢餓」「人口爆発による食糧危機」を論じられるのかもしれない。(この話を進めていくと「縄暖簾の経済学」になりそうなのでここで話題を変えます)
いずれ農協以外の集荷業者が参入し、農家に対して農協ではできない各種サービスを始めるだろう。そしてその集荷業者にとって農家はお客様=神様だ。神様にはどのように礼を尽くし、どのような我が儘に答えてくれるか?農家の皆さんは楽しみにしていていいだろう。
流通の中心には取引所がなるだろう。江戸時代大阪堂島の商人の知恵が生かされるに違いない。すでに活動している「東京穀物商品取引所」も各地の中央卸売市場も、刺激を受けさらに活動を広げるだろう。
「=6=現代に行かそう大阪堂島の米帳合い取引」で次のように書いた。 東京にでき、大阪にでき、その他の地方にコメ取引所ができる。それぞれ銘柄とか取引条件などで、特徴を出す。それぞれが競い合って、そのうちに勝ち組・負け組がでて提携・合併されるかもしれない。考えてみれば日本のコメ需要量からしてそれほど大きな市場にはならないだろう。では株式会社としてのコメ取引所が発展するにはどうしたらいいのか?それはコメに限らず商品を取りそろえることだ。クレジットデリバティブや天候デリバティブなども扱うことになるだろうし、不動産や債権を利用し、証券化した資産担保証券も扱うことになる。そしてコメで言えば、日本の備蓄米もオプション取引で扱われることになる。そうなってこそ現代版米帳合取引所の存在意義が認められることになるのだからだ。
この文を書いてから天候デリバティブについてはNHKテレビで紹介されていたし、資産担保証券は東証で売買されるようになった。さらに面白いのは2001年11月18日、朝日新聞に「のどあめ販売に新デリバティブ 湿度53%超えたら、補償金払います」との記事があった。「天候デリバティブ」に「湿度デリバティブ」という新顔が登場したわけだ。
さてこのデリバティブの世界、農協職員の皆さん、この早い動きについていけますか?
「ハイテク金融商品」「多国籍企業のグローバル戦略」「アメリカのスタンダードをグローバル・スタンダードと押しつけている」等という問題ではなく、江戸時代の大阪堂島の商人や、江戸を初めとする全国の株仲間の知恵、言い換えれば日本人が昔から持っていた、「経済に対するセンスと知恵」これが生かされたと考えるべきだろう。むしろ多くの社会主義幻想者の批判がある中でも、このように市場経済に対する優れたセンスと知恵を守り育ててきた先人を誇りにしたいと思う。
購買事業 肥料・農薬・飼料・農業機械など組合員の営農活動に必要な品目の供給を行うのが生産(資材)購買であり、食品・日曜雑貨洋品・耐久消費財など組合員の生活に必要な品目の供給を内容とする生活(資材)購買だ。組合員が個々に交渉するより、組合として大量購入を前提として価格交渉をした方が有利だろうとの趣旨だ。しかしこれは供給側の態度の変化により、共同購入のメリットがなくなりつつある。
「価格破壊」「流通革命」「消費者のニーズの多様化」等に対応できるのだろうか?「組合員=農家=お客様=神様」と言う意識はあるのだろうか?神様=農家=組合員はJAコープに限らず気に入ったお店で買い物をすればいい。それによって農協離れが起こると心配するなら、その時農協は慌てて対策を考えるだろう。どうしたら神様に気に入られるか?を。そして農協改革が起こるか、あるいは破綻の道を歩み始めるか?
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営農指導 農協事業の中で一番重要な事業かも知れない。そのポイントは「個々の農家に対する、作目別技術及び経営の指導・相談」となるだろう。これに対する営農指導員は、一農協あたり 5.3人、一営農指導員のカバーする正会員は平均 296人。農協職員に占める営農指導員の割合は 6.2%とけっして多くはない。「農協は営農指導をおろそかにしている」との批判が出るのも無理からぬことかも知れない。
営農指導は受益者負担になっていない。おおまかに年間一組合員いくら、という形で徴収した原資(賦課金)や事業からの利益で賄っている。つまり赤字事業なのでこのままで営農指導を充実させるのは難しい。思い切った発想の転換=例えば組合員から「一時間いくら」といった対価を取る方式などを検討すべきだろう。とは言えこれは難しい。農協の精神は「受益者負担」ではないだろう。「助け合いの精神」ならば強者も弱者も平等に受益者として負担するということは受け入れられないはずだ。
ここに業者が参入したらどうなるか?十分料金に見合ったサービスを提供するだろう。数社が参入しサービス競争が始まる。ここでも農家は業者にとってのお客様=神様だ。
厚生事業 1947(昭和22)年、農協が発足するとともに、厚生農業協同組合連合会(JA厚生連)が発足して病院経営に取り組むことになった。医療・保険事業は主に都道府県の連合会によって行われ、単位組合がこれを利用する仕組みになっている。
JA厚生連に限らず保険事業は厳しいはずだ。もしそうでないと言うなら状況を性格に理解していないか、何かを隠しているかだ。 (1)低金利時代にあって資金運用が厳しい。つまり集まった保険料から運用益が出せない。 (2)高年齢化に伴い医療費が大きく伸びている。これらに対する対策はどうなのか?大手企業の健保や国民健保でも有効な方針が定まらない。農協で独自の将来像は描けないだろう。
観光・リゾート事業 観光事業としては、1967(昭和42)年に社団法人全国農協観光協会を設立、1990(平成2)年、株式会社全国農協観光に事業を引き継ぐ。これは旅行代理店。リゾート事業としては都市住民の農村・農業とのふれあいを目的とした「農村型リゾート整備」を進めている。
1980年代のバブルが膨らんでいる時代ならともかく、大型テーマパークでさえ経営危機にある今日、どのようなリゾート計画を進めると言うのだろうか?旅行代理店は米国多発テロの影響で売り上げが減っている。社会的意義はともかくとして、経営はやっていけるのか?不良債権にならなければいいが。