In situ observations of elementary growth processes of protein crystals;
タンパク質結晶の成長素過程のその場観察について

For the researchers in the fields of crystal growth and stractural biology: To what extent now we can approach the "elementary growth processes" of protein crystals
結晶成長,構造生物の分野の方々へ:タンパク質結晶の「
成長素過程」にどこまで迫ることができるか
Every kinds of your comments and suggestions are welcome. ご意見・サジェスチョンをいただければ幸いです.

走査型レーザー共焦点微分干渉顕微鏡でその場観察した,リゾチーム正方晶系結晶{110}面上のらせん成長丘.うずまき成長ステップの1本1本は高さ5.6nmの単位ステップです.逆向きの2本のうずまきが発生する様子がわかります.(トピックス1.のムービーをご覧ください)
これは原子間力顕微鏡で撮影したものではありません.光学顕微鏡写真です!

タンパク質結晶の成長プロセスを明らかにするためには,結晶が成長する過程を「その場観察」する必要があります.このページでは,「その場観察」のための手法としてどのようなものがこれまでに提案されているか,についてまとめるとともに,最近の私どものその場観察結果にて紹介させて頂きます.

タンパク質結晶に対してこれまで応用されているその場観察手法(これらのうち,赤字で示したものを徐々に紹介します)
・光学顕微法:位相差顕微法微分干渉法偏光顕微法,限外(暗視野)顕微法,共焦点顕微法
・光干渉法:二光束干渉法位相シフト干渉法(東北大,塚本研究室へのリンクです.「Research」ページなどをご覧ください)
・ 光散乱法:動的・静的光散乱法,光散乱トモグラフィー
原子間力顕微法(立命館大学,中田俊隆氏のページへのリンクです.「結晶の写真」ページをご覧ください):コンタクトモード,タッピングモード

トピックスのあらすじ
 最近,オリンパスと我々が共同で開発したレーザー共焦点顕微鏡と微分干渉顕微鏡を合体させた顕微鏡(個々の顕微鏡はどちらも以前からありました)を用いると,系に完全に非接触・非破壊の状態で,タンパク質結晶表面上の「単位成長ステップ」を十分なコントラストでその場観察することができます.
 また,二光束干渉計(マイケルソン型)を用いると,結晶近傍の溶液中の「濃度分布」をその場計測することができます.また,同じ技術を用いて,タンパク質結晶の溶解度1点を数時間以内に決定することができます.
 今後ぼちぼちと,これら以外の内容を充実させていきたいと思います.しばしご容赦くださいませ.

【トピックス】
1.In-situ observation of "elementary steps" by laser confocal microscopy combined with differencial interference contrast microscopy (LCM-DIM); レーザー共焦点微分干渉顕微法を用いた「単位成長ステップ」のその場観察

2.In-situ observation of "dislocations" and "inclusions" inside protein crystals during growth by advanced optical microscopy; 高分解光学系を用いた成長しているタンパク質結晶中の「転位」および「インクルージョン」のその場観察

3.Improvement of a laser confocal differencial interference contrast microscope; レーザー共焦点微分干渉顕微鏡の改良について(Super luminescent diodeの利用と検出限界について

4.Fluorescent-labeled lysozyme: correlation between impurity effects and intermolecular bondings inside crystals; 蛍光ラベル化リゾチーム:不純物効果と結晶中での分子間相互作用の相関について

5.Direct and noninvasive observation of two-dimensional nucleation behavior of protein crystals by advanced optical microscopy; 高分解光学顕微法によるタンパク質結晶表面上での2次元核形成過程の直接・非侵襲その場観察ようやく新たにアップしました.

6.Single-molecule visualization of diffusion at a solution-crystal interface; 溶液ー結晶界面における拡散現象の1分子観察 次回予告です.

7.Direct observation of surface diffusion of individual protein molecules on a protein crystal surface; タンパク質結晶上での個々のタンパク質分子の表面拡散過程の直接観察 今しばしお待ちくださいませ.なかなか手がまわりません...

付記

世界で最初に観察された(!!)結晶上の渦巻成長ステップ高さ1.5nm:S. Amelinckx, Nature, 167 (1951) 939).美しいですねー!見事ですねー!この像が得られたときの観察者の驚嘆と感動は,察するにあまりあります.結晶表面に銀を蒸着して,反射率をほぼ100%に高めて,反射型の位相差顕微鏡で観察されています.
それに比べて,本ページ最初の図に示したように,反射率が約1%程度の透明な結晶(例えばタンパク質結晶)の表面で同じ観察ができるようになったのが,その後の50年間の光学顕微鏡の進歩です.うーん,50年ですか.速い様な遅い様な...

 無機結晶が成長する過程のその場観察は大変古くから研究されてきました.1949年にF.C. Frankがらせん成長メカニズムの機構を提唱しましたが(Burton, Cabrera, Frank, Nature, 164 (1949) 398; Frank, Farad. Soc. Discuss., 5 (1949)),その直後の1950年にはL.J. Griffinがベリル結晶の(10-10)面について,多光束干渉法を用いてそのステップが34A(4ユニットセル高さ)以下であることを報告しています(L.J. Griffin, Phil. Mag., 41 (1950) 196).さらに翌年の1951年には,S. Amelinckxがカーボランダム結晶(0001)表面上で,位相差顕微鏡と多光束干渉計を用いて単位格子高さ(1.51 nm)の見事ならせん成長ステップ(右図)を観察し,Frankが提唱したメカニズムが正しいことを証明していますS. Amelinckx, Nature, 167 (1951) 939).GriffinやAmelinckxの観察では,結晶表面の反射率を上げるために結晶表面上に銀を薄く蒸着してステップを観ていますが,その時代を考えると驚嘆に値する仕事だと思います.また,これらの仕事で使用されています多光束干渉法は,Tolanskyによって発明されました(S. Tolansky, "Multiple-beam Interferometry of Surfaces and Films", Oxford Univ. Press, 1948).1枚のミラーと1枚のハーフミラーを組み合わせただけの極めてシンプルな干渉計ですが(費用も10円以下),その威力は上記の通りです.
 現在では,当時と比べて光学技術は飛躍的な発展を見せています.例えば,対物レンズも20年ほど前と比べると極めて明るくなっていますし,レーザー共焦点顕微法,全反射蛍光顕微法など全く新たな顕微法も登場してきました.光学顕微鏡は古くて新しい技術です.光学顕微鏡は中学や高校の理科の時間でも使われることからローテクであると考えられがちですが,決してそんなことはありません.ちゃんと原理を理解してちゃんと顕微鏡を調整し,ちゃんと用いると絶大な威力を発揮します(注1).本ページでは,「光学顕微鏡は最先端を行くハイテクなんだ」ということ,および「タンパク質(に限りませんが)結晶の成長過程を調べるのに光学顕微鏡は極めて威力を発揮するのだ」ということを紹介させていただきます.
 なお, 本ページで紹介する研究の大部分は,佐浮ニオリンパス,樋口研究室(東北大先端医工学研究機構),旧・小松研究室(東北大金研)および塚本研究室(東北大理)のメンバーで行った共同研究の成果であります.

(注1)実は,この「ちゃんと原理を理解してちゃんと顕微鏡を調整し,ちゃんと用いる」ことが非常に重要です.その辺りの「ノウハウ」を知っていると,市販の光学顕微鏡のコントラストは10倍上がります.また,そのようなノウハウは,残念ながら教科書には書かれていないことが多く,わざと教科書的ではないくずした使い方をしたときに良いコントラストが得られる場合もあります.私も小松先生や塚本さんをはじめ,多くの方に学びました.何かの機会にまとめてみたいですねー(注2).

(注2)また,当然ながら,観察したい結晶の表面は「このようになっているはずだ!」という信念も,ノウハウと同じくらい大切です.私もレーザー共焦点微分干渉顕微鏡に行き着くのに3年ほどかかりました.その手のことで特に印象に残っているのは,私が小松研に来た最初の時に,宮下さんに見せていただいたSiC結晶表面の渦巻成長ステップです(反射の微分干渉と位相差).宮下さんには見えているステップが私には全然見えません.私の脳みその中でステップが結像するまで10分くらいかかりました.「そこにある」と思わなければ見えないものですね.まあ,このような体験は,顕微鏡屋さんは皆さんお持ちだと思いますが.

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