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版の摺り違い

 

その1 ドーミエのカリカチュア

 

986 2727

 

986 (カリカチュラーナ81/金はいらんか、銀がいいか、・・・・・ええい持ってけどろぼう・・・・どおん!どおん!・・・・)
caricaturana 81/Would you like gold, Would you like silver, ,,,Come, help yourself,,,Baoud! Baoud!,,,
HONORE DAOUMIER CARICATURES U  シャリヴァリ、1838年5月20日   25.4x23.3cm 東武美術館蔵
2000・11・3入手    
太鼓

2727    オノレ・ドーミエ 「金や銀やダイヤモンドが欲しいって?・・・」 25.0x22.9cm
静岡県立美術館蔵   2003・7・31入手   
太鼓

 

 

のカデンツ

 

↑ 986と2727は 同じ版による 別摺の例だと思います。 

2727は 友人YT が見つけて 

ファイル済みかどうか 問い合わせがありました。

 構図の説明では 

すでにファイルしているカードと同じもの のようでしたが 

下に文字も書いてある とのことでしたので 

念のため入手してもらいました。

受け取って初めて それがカラー刷りだったので びっくり。 

初めて こんなカードを入手しました!

ユルク・アルブレヒト著 『ドーミエ』 パルコ美術新書 によると

シャリヴァリとは

シャルル・フィリポンによって1832年12月1日創刊された初の絵入り日刊紙。

ドーミエは 40年にわたって同紙に貢献しました。

リトグラフ(石版印刷術) が開発され

直接石に線描きする手法で スピーディに 

作品を仕上げることが出来るようになったのだそうです。

しかし当時の厳しい検閲が 

風刺画家であるドーミエに 政治カリカチュアを禁じたため

やむなく 風俗描写(中道体制の人間喜劇)へと ドーミエを向かわせました。

ルイ・フィリップ王制下での 平穏な暮らしに満足している中産階級ブルジョワたちを

誇張した描写 対照的な人間類型のコントラストなどで

笑いのタネにしたのです。

 このカードは 株を売っているところだそうで

右下の男の顔はドーミエ自身ということです。

『金はいかが? 銀、ダイアモンド、数百万ほど いかがかね?

さあ株を買った買った! 早いもの勝ちだよ!』

 

 


 

 

 

その2 竹久夢二の宝船

 

 

1341   図録-描かれた音楽より 

1341 竹久夢二画 宝船  夢二郷土美術館   2001・8・9入手  三味線 

図録-描かれた音楽より    竹下夢二 柳や 宝船 一枚 1920年(大正9年) 木版・紙  58・5 x 38・4 個人蔵 

 

↑ 微妙な色の違いはあるものの 

さすがの  も これは同じもの としか思えませんでした。

が ある日 展示室 描かれた音楽ー神戸市立博物館 を 読み返していたとき 

エントリーしている 1341 のカードと 

この図録にのっているものとは 別物 という発見をしました。

なんといっても 所蔵先が 違うのです。

夢二郷土美術館蔵 と 個人蔵。

よ〜〜く見比べてみたところ

1341は 富士山の太陽か月の部分に 黒い色がかかっていますが 

図録には それがありません。

右下部分の波の色具合いも 違います。

 ということは 

これも ドーミエと同じ 版の摺り違いではないでしょうか。

じつは もう一枚 図録と同じような 

太陽か月の部分に黒い色がかかっていないカードを 持っているのです。

湯布院を訪れた友人 YTの 旅先からの絵葉書でした。

その時は 1341 のカードをファイル済みだったので 

エントリーは出来ないけれど いちおう ファイルに挟んでありました。 

しかし 摺り違いとなれば これも 晴れてエントリーできるのでは!

入手日は スタンプがはっきりしないので 正確な 年月日は読み取れませんが 

問い合わせたところ その旅行は 2003年3月だったとのこと。

こういう場合は 入手した日ではなく 発見した日で良いわけですから

十数年の歳月を飛び越しての エントリーとなりました(笑)

 

 

7708

7708  竹久夢二画 <宝船>  木版画  彫・摺/ 松永安生  2014・6・12 ファイル 三味線

 

 

7708のカードには 彫と摺師の名前が明記されています。

そうすると こういう摺り違いというのは まだまだ たくさん ありそうです。

摺りものカード って 結構 奥が深いかも。

 ウキウキ!

 

PS 個人蔵の柳やの 青い波ヴァージョンもカードになっていたら いいな。

 


 

 

 

その3 河鍋暁斎 多色摺版本

 

これは 暁斎楽画 という多色摺り木版本のカードです。

河鍋暁斎記念美術館蔵の本から カードにしたものと

ロンドンの イスラエル・ゴールドマン氏所蔵の本からのものを カードにしたもの。

え? それも エントリーできるのかですって?

はい♪ 摺違いですから。

 

8300    9057

8300 河鍋暁斎 暁斎楽画 第九号 地獄太夫 がいこつの遊戯ヲゆめに見る図 明治7年
公益財団法人 河鍋暁斎記念美術館蔵  2015・8・5入手  楽器

9057  河鍋暁斎 暁斎楽画 第九号 地獄太夫 がいこつの遊戯ヲゆめに見る図 明治7年
イスラエル・ゴールドマン コレクション  ロンドン  2017・2・26入手 楽器

 

 

河鍋暁斎は こちらでも ご紹介しています。 → 地獄太夫

 


 

 

 

その4 ブリューゲルの版画

 

 

 6286

6286  ピーテル・ブリューゲル  聖アントニススの誘惑  1556年 ベルギー王立図書館蔵
2010・8・24入手  楽器

 

 

9079

9079 ピーテル・ブリューゲルT世  彫版 ピーテル・ファン・デル・ヘイデン  聖アントニウスの誘惑 1556年 
ボイマンス美術館蔵   2017・4・20入手  楽器

 

9263

9263  ピーテル・ブリューゲル父(原画) ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(刻版)ヒエロニムス・コック(発行)
聖アントニウスの誘惑  1556年 プランタン・モレトゥス博物館蔵  2017・8・3入手  楽器

 

 

 

 ヨーロッパでは 15世紀になると銅版画が広く普及し 

ブリューゲルの時代には 銅板に直接 線刻して制作する

彫刻凹版技法(エングレーヴィング)が盛んになります。

この時代の版画は @ 版元(出版社) A図案作家 B彫板作家 の分業でした。

ブリューゲルは まず 版画下絵作家として頭角をあらわし

後に ネーデルランド絵画の巨匠となりますが

油彩画は希少で 真作は わずか40点ほどだとか。

同時代のボスは ほとんど版画は 手がけなかったそうですが

ブリューゲルは デビューが版画下絵作家ということで

図案の段階から 積極的に係わった ということです。

 

2017年 バベルの塔展 と ベルギー奇想の系譜展 で

ブリューゲルの版画を たくさん観て

やっと 当時 大人気だった版画作品にも 思いを巡らすことができました。

 

では この三枚を 検証してみましょう。

 

ボイマンス美術館蔵の 9079 には 

原画 ピーテル・ブリューゲル 

刻板は ピーテル・ファン・デル・ヘイデンとあります。 

9263の ベルギーアントウェルペンにあるプランタン・モレトゥス博物館のものも

 同じです。

 

ベルギー王立図書館の 6286 は 明記されていませんが

これは 版の摺違いではなく

彫版が別物 ということが判ります。

リュート奏者の 掲げた手 左後方のトンボの羽のような模様  全体的な線の粗さ

 

6286

9079

  9263

 

↓ 屋根やカーテンの布 ボートの陰影 馬が立つ地面 の彫り

6286

9079

9263

 

 

↓水面の彫り

6286

 

9079

 

9263

 

 

ブリューゲルの絵画は こちら → ブリューゲル親子競演  

 


 

 

 

その5 横浜どんたく図

 

所蔵先が違う 版の摺違い。

↓ この横浜錦絵は 展示室→  どんたく 横浜鈍宅之図  で詳しく 取り上げていますが

 このどんたく図にも 摺違いがある ということに 気づきました。

 

 

 

3025

3025 五雲亭貞秀 横浜鈍宅之図  1861年  神戸市立博物館 
2003・12・29入手  
パレード

 

   

 ↑ このカードを入手して かれこれ 14年経った ある日 

 横浜在住の協力者の方から 

もう持っていても かまわないから

それより 私のカードを探す楽しみを奪わないでね

との 言葉を添えて 

横浜開港資料館のカードを 何枚か頂戴しました。

 にとって また このコレクションにとっても 

大切な存在だった カードコレクターの先輩 A が亡くなって 

ちょうど ひと月 経った頃でした。

実は この協力者とは  パリ帰国後 

カードコレクターの先輩 A から紹介され

それ以来  ともに楽しく過ごしてきた仲間です。

私たちの カードコレクションにも 

とても興味を持ってくれ 応援してくれていました。 

読書の女 のテーマを失った今 

せめて楽器ものだけでも と

先日は霧の中 わざわざ箱根まで車を飛ばし 

岡田美術館から 話題の喜多川歌麿の 三部作 『雪月花』 のカードを 

ゲットしてきてくれたりしました。

その やさしい気持ちに励まされ  

また カードコレクションの先輩 A の志も 受け継ぎ 

これからも このコレクションを続けていこう と 改めて決意したところです。

 

さて 

いただいた横浜開港資料館のカードの中に 

↓このカードも あったのですが

   これは残念ながら  どんたく 横浜鈍宅之図 にも載せた ダブりもの。

せっかくなので 久しぶりに カードを取り出してみたところ

な なんと! 表題(横濱鈍宅之図)のある左側の濃い海の色が 違うではありませんか!

あわてて 裏面の所蔵美術館をチェックしたところ 

ファイルしていたのは 神戸市立博物館蔵 でした。

やったぁ〜〜〜! これは 別摺です!!

 

9322

9322 五雲亭貞秀 横浜鈍宅(どんたく)之図  文久元年  1861年  横浜開港資料館 
2017・9・30入手  
パレード  

 

 

横浜錦絵って 多色摺り版画。

それなら 初摺り と その後何度かの摺違いも あるので

ここでも 所蔵美術館が 問題になります。

 

展示室→  どんたく 横浜鈍宅之図   で紹介している

三枚に分割されたカードは 神奈川県立歴史博物館蔵 なのですが

 304430453046


3044−3046  横浜浮世絵  横浜鈍宅之図  五雲亭貞秀 文久元年 1861年 大判錦絵三枚続 
日曜日に港周辺に集まったアメリカ、イギリス、ロシアなど5カ国の人々が手に手に楽器を吹き鳴らし行進するありさまを表す。
なお表題の鈍宅(どんたく)はオランダ語の日曜日に由来している。     神奈川県立歴史博物館  2004・1・22入手  パレード 

 

あれれ 

左側の海の色は 神戸市立博物館と同じく 薄い。

では三枚を 比べてみましょう。

三枚とも別摺です!

 

 横浜開港資料館蔵

     神奈川県立歴史博物館蔵

 神戸市立博物館蔵

 

 

この 版の摺違い というテーマ

  昨今の浮世絵ブームもあいまって 

これからも どんどん 発展していきそうな予感です。

 

 


 

 

 

その6 中原淳一

 

 

2019年春 NHK番組  日曜美術館 アートシーン で

 千葉市美術館で開催された 

オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵

メアリー・エインズワース 浮世絵エコレクション展 を取り上げ

  が 知りたかった

浮世絵の摺りについての 詳しい解説が ありました。

彼女が収集している膨大な版画の中にも 

いろいろな 摺違いの事例があることを 紹介してくれ

初摺 後摺 という用語も 学びました。

色合いだけでなく 版木を増やして 雰囲気を変えてみたり

 

 

 

こちらは

 

 

 雲を消したり

 

人を増やしたり

 

 

 は 多色摺版画って 

こんなことも出来るんだ!と 改めて学びました。

それらを 徹底的にコレクションする 収集力!

これぞ コレクターの神髄です。 

ただただ メアリー・エインズワースさんには

尊敬と畏敬の念で いっぱいです。

 

 

そして手持ちの ↓ 中原淳一の このカードたち。

 ず〜っと この二枚の着物の柄の違いが 不思議で仕方なかったのですが

その謎も解けました。

上半身の着物の柄のところは 模様の違う版木を使ったのですね。

三味線や着物の色を変えるだけでなく

違うヴァージョンの版木を使って

こんなことも可能なんです。

題名の文字も 別摺。

こうしてみると 多色摺版画カードは あなどれません!

みすみす ヴァージョン違いを逃さないよう

でも くれぐれも ダブり買いは しないよう

 気合を入れて臨まないと!

 

6432

6432 娘十二か月 四月・三味線  1940年  JYUNICHI NAKAHARA/ひまわりや
2011・2・7入手  三味線

 

 

9184

9184  絵葉書資料館  大正ロマン 2017・5・23入手  三味線

 

 


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