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ブリューゲル親子競演

 

 

のカデンツ

 

ブリューゲル(親子) には  同じような絵が たくさん残されています。

子が 父の絵を模写したからです。  それも一枚だけでなく 複数枚だったりします。

なので しろうとには どちらがどちらの作品なのか さっぱりわからない というのが本音。

 ところが

森洋子著 『ブリューゲル探訪』 未来社を読んで 

そんな生易しい話ではないことが 分かりました。 

その箇所を 引用しますと

『ブリューゲル社』展 ー なぜ会社名になるのだろうか。

主催者側は ブリューゲルの長男ピーテル2世の工房活動の特色を意図したらしい。

彼は最低でも 9人の弟子を使って

推定されるだけでも1000点以上の作品を量産したからだ。

その約7割は 死後も人気の高かった父の作品のコピーだった。

ピーテル2世の工房は 

機械的な製作を行い 大量のストックを準備する 一種の会社経営に匹敵したという。

工房での複数の画家によるコピーに P.BRUEGHEL とサインしたから 

今でいうブランド名になっていた。

130点も知られる 『鳥罠のある冬景色』 のコピー群に 工房外作品も出現。

無名画家によるコピーのコピーは当時から無数に存在していた。

 

え〜〜?! 一作品に130点以上の模写 

というのですから びっくりです。

この展示室では コレクションできたものから順次アップして 

ピーテル・ブリューゲル父子の作品を見比べてみる という企画だったのですが

そ そんなにいっぱいあるなんて・・・どうしましょう・・・

と思いましたが

カードになっているのは ある程度 有名どころの限られた作品だけのようで

 心配するほど 集まってきてはいません(笑)

まずは 一番 有名どころから。

 

 

《農民の婚礼》

この作品を見分ける方法は 焼きあがったパイの色。 

ネ、はっきり違いが分かりますよね。

壁にかかった布の色も 目印です。

 

ウィーン美術史美術館 蔵

4826

4826   Pleter Bruegel d. A.T 1525/30-1569   Peasant Wedding  1568/69
Kunsthistorisches Museum mit MVK u. OTM   2008・1・2入手  
バグパイプ

 

 

 

↓ 子の作品

ベルギー・ゲント美術館 蔵

380

380   Pieter Brueghel Ule Jeune   1564-1638  Wedding Breakfast (after Pieter Brueghel the Older)
Huile sur panneau, 69.9 x 105.2 cm  Museum voor Schone Kunsten, Gent
1999・12・10入手  
バグパイプ

 

 


 

 

<追記>

2018年2月 上野動物園のパンダの赤ちゃんの一般公開が 抽選から先着順になった頃

東京都美術館で その名も

『ブリューゲル展 画家一族150年の系譜』

という展覧会が開催されました。

このページにアップできるカードの 期待大!

さっそくエクセルで コレクションしているブリューゲル一族のカードを抽出し

それぞれの所蔵先を確認 

それをコピーして 展覧会に臨んだのですが

なんと 展示作品は そのほとんどが 貴重なプライヴェート・コレクションとのこと。

安心しました。

楽器があれば すべて 買い! です。

公式ページから 引用します。

 

『ブリューゲル展 画家一族150年の系譜 見どころ』

16世紀のフランドル(現在のベルギーにほぼ相当する地域)を代表する画家 

ピーテル・ブリューゲル一世。

聖書の世界や農民の生活、風景を 時に皮肉も交えながら描き 

当時から 高い評価を得ました。

息子のピーテル二世 ヤン一世も 父と同じ道を歩みました。

長男のピーテル二世は 人気の高かった父の作品の忠実な模倣作(コピー)を描き

次男のヤン一世は 父の模倣にとどまらず 花など静物を積極的に描き

花のブリューゲルなどとよばれ 名声を得ました。

さらに ヤン一世の息子 ヤン二世も 父の工房で絵を学んで画家となり

ヤン二世の子供たちも また同じ道を歩み

ブリューゲル一族は 150年に渡り画家を輩出ひ続けたのです。

(ちなみに 農民の生活を多く描き 本展にも出品される ダーフィット・テニールス二世は

ヤン一世の娘の夫です)

本展では このブリューゲル一族の作品を中心に

16、17世紀のフランドルの絵画を紹介します。

・・・・・・・・・・・

本展には 工房作や共作が 多数出品されています。

工房作とは 画家が自身の弟子たちに指示して描かせた作品です。

師匠である画家の監督の下 弟子たちは 師匠の下絵にもとづいて描いていきます。

人物の表情などの 重要な部分を 最後に師匠自身が描くこともあります。

たとえ画家本人が直接描いていなくとも

弟子たちは師匠の指示通りに描いているため

作品には その画家の創意や構想が表されている とみなされました。

一方 複数の画家が共同して 一つの作品を描くこともあり

それは共作と呼ばれます。

物語画や寓意的な主題において

人物を描く画家と 風景や静物の専門家が分担して描く作例などが

多くみられます。

共作は 画家自身が別の画家に依頼する場合もあれば

注文主が複数の画家に共作での制作を 依頼することもありました。

 

 

 コレクションのエクセル資料も きちんと準備し

 さらに同行者は このHPの特別顧問の 友人YT ですから

万全の布陣です。

会場で たくさんの 楽器のある絵や版画作品を 楽しみましたが

カードになっていたのは たったの5枚。

私一人だったら4枚 のはずでしたが

YTが  ピーテル・ブリューゲル一世下絵の版画 『春』 に

楽器を奏でている人を みつけてくれました。

スコップをもって庭園の整備をしている人たちの遠くに 小さく。

ありがとう!!

そして 今回の一番のお目当ては

↓こちらの作品の 別ヴァージョン。

 

 

 

『婚礼の踊り』

 

↓父の作品 はこちら。

アントワープ王立美術館 蔵

382

382 Pieter Bruegel d. Ae.(ca. 1525-1569) (alte Kopie nach)
The Bride's Dane 1 Holz, 115/166cm  Koninklijk Museum voor Schone Kunsten, Antwerpen
VD 3670 (C)by Vontobel,CH-8706 Feldmeilen-Printed in Switzerland 1999・12・10入手   
バグパイプ

 

 

 

↓ 子の作品 その1

ベルギー王立美術館 蔵

 

 4142

4142  ピーテル・ブリューゲル(子) 婚礼の踊り 1607年 油彩・板 38.5x51.5cm
ベルギー王立美術館蔵  2006・9・26入手    
バグパイプ

 

 

 

↓ 子の作品 その2  

上の絵と似てますが よく見ると 左端スカートのひだや お皿の中身などが違います。 

ミュンヘンアルテピナコテーク 蔵

 

5061

5061 Pieter Brueghel d. J. (1564-1637/38)   Coubtry Wedding Holz 40.7 x 55.6 cm
Bayerische Staatsgemaldesammlungen. Munchen  Alte Pinakothek  2008・5・3入手   
バグパイプ

 

 

 

 

↓そして 今回の 『ブリューゲル一族150年の系譜展』 の

子の作品 その3

二世の描いた  プライベート・コレクションもの。

4つの中では 父一世の絵のサイズが 115/166cm  と一番大きく

二世の作品 その1 その2 は ほぼ半分のサイズ 38.5x51.5cm  40.7 x 55.6 cm

3つのなかでは 今回の このプライベートコレクションが 

74.2 x 94 cm  と 大きめです。 

 

 9459

9459 ピーテル・ブリューゲル2世  野外での婚礼の踊り  1610年頃 油彩/板  74.2 x 94 cm  
2018・2・8入手   
バグパイプ

 

 

2週間後 BS日テレ 『ぶらぶら美術・博物館』  という番組の

 『ブリューゲル一族150年の系譜展』 で

このピーテル2世の 野外での婚礼の踊り を 取り上げてくれました。

父ピーテル一世の絵は  花嫁が ダンスをしています。

TV画像から

 

しかし 子ピーテル二世の絵では 花嫁は奥のほうに座っています。

なんでも お皿に入っているご祝儀を勘定しているところだとか(笑)

 

 TV画像から

 

なぜ花嫁と解るのか というと

この時代 女性は人前で髪を見せてはいけないとされ 頭巾を被る習慣があったそうですが

唯一 結婚式の花嫁だけは 髪を見せてよい とされていたのだそうです。

 

そして 子ピーテル二世の 『野外での婚礼の踊り』 は

父ピーテル一世の絵画 382の 『「婚礼の踊り』 のコピーではなく

↓ こちらの 父ピーテル一世の版画を絵画化したもの との説明も ありました。

 版画だから 左右逆になったのでしょうか。

 TV画像から

 

 

 

 

 

これは また ちょっと違うタイプの 村の結婚式での農民の踊り

子の作品

 1040

1040 Pieter Brueghel, The Younger (1564-1638) Peasants dancing at a village wedding
Collection Christie's , London (C)Mercurius Art Publishing 1993  2000・12・5入手   
バグパイプ

 

 


 

 

こちらは結婚式ではない 『農民の踊り』

 

↓ 父の作品

ウィーン美術史美術館 蔵

 104

104 Pieter Bruegel d. A. 1525/30-1569  Peasant Dance; C. 1568/69  
Kunsthistorisches Museum Wien, 1992/1051 1999・9・9ファイル   
バグパイプ

 

森洋子著 『ブリューゲルの世界』 トンボの本 新潮社 から

バグパイプは 村の縁日を祝う版画(ホボケンの縁日)や

油彩画(農民の踊り)で活躍する吹奏楽器ですが

とても大きな音が出るので 広場や大きな納屋など

大勢の人が集まる空間に ふさわしいものです。

当時の楽師のギルドでは

原則的に二人一組での演奏が義務づけられていたので

二人の楽師がいます。

従って奏者が一人の場合 (↑104のカード)

地元の素人楽師の演奏と推定できます。

 

この本は 2017年発行で 

今まで バグパイプの楽師が二人組になっているなんて

気づきもしませんでした。

一人だけの この人は しろうとさん なんですね(笑)

 

子の作品は 目下 ウォンテッド!

 


 

 

《謝肉祭と四旬節との喧嘩》

 

↓父の作品

ウィーン美術史美術館 蔵

4827

4827  Pieter Bruegel  d。AT 1525/30-1569   Kampf zwischen Fasching und Fasten 1559
The Fight between Carnival and Lent  Kunsthistorisches Museum mit MVK u.OTM
2008・1・2入手   
宴祭り踊り

 

 

 

↓子の作品

ベルギー王立美術館 蔵

5387

5387  BRUEGHEL Pieter de Jonge (1564-1638)  Le Combat de Carnaval et Careme
Het gevecht tusseb Carnaval en Vasten  
Musees royaux des Beaux-Arts de Belgique, Bruxelles
2008・9・21入手   
宴祭り踊り

 

 


 

 

《芝居小屋や行列のある 村祭り》

 

↓子の作品 その1

ベルギー王立美術館 蔵

5389

5389 BRUEGHEL Pieter U(ou atelier de-of atelier van)  Kemesse avec theatre et procession
Musees royaux des Beaux-Arts de Belgique, Bruxelles  
2008・9・21入手   宴祭り踊り

 

 

 

↓子の作品 その2

5456

5456  Entourage de Pieter BRUEGEL le Jeune (Bruxelles vers 1564-1637/38)
La Kermesse villageoise avec un theatre et une procession
Collection du baron de Montfaucon, Achat, 1842   
アヴィニョン Musee Calve  2008・10・10入手 
宴祭り踊り

 

 


 

 

 

《ネーデルランドの諺》

 

↓ 父の作品

ベルリン絵画館 蔵

5678   TV画像から

5678   Pieter Bruegel D.A.  (um 1525/30-1569)  Die NiederLandischen Sprichworter 1559
Eichenholz 117 x 163 cm   Gemaldegalerie Staatliche Museem zu Berlin
2009・1・30入手   
ヴァイオリン

 

 

 

↓ 子の作品

アントワープ王立美術館 蔵

1243

1243  ピーテル・ブリューゲル(子)ネーデルランドの諺 120×170cm 油彩・板 アントワープ王立美術館蔵 
Masterpieces of Flanders' Golden Age   2001・5・7入手    ヴァイオリン  

 

 

この作品は ネーデルランド地方に伝わる諺を たくさん盛り込んで描かれているのですが

そこに暮らす人々を面白おかしく描きながら、16世紀ネーデルランドの社会、たとえば

神の教えをゆがめる教会、不平等、他国の支配、貧富の差、利己的な金持ち などを

鋭く批判しているのだそうです。

 カシュ・ヤ-ノシュ編 『ブリューゲル・さかさまの世界』 大月書店 

小学館発行 『世界美術大全集 15 マニエリスム』 

 を参考にしながら 

この絵に登場するネーデルランドの諺を 少しご紹介しましょう。

 

(1) 有名なところでは 夫に青衣を着せる女。

青は、神学中心だった時代には神聖な色だったのですが

宗教改革の嵐で 価値観がすべて覆ったこの時代では、不実、背信、裏切りの印です。

夫を欺いている若い妻。欺瞞をあらわしています。

 

 

(2) その右後ろの黒服男、豚に薔薇をまく、というのは、価値のわからない人間に施す行為。

つまり無駄な行為をしていることをあざけっています。

これは、豚に真珠(ラテン語・マルガリータ)というマタイの福音書の誤訳で、

フランドルでは、マーガレット(野の花)→薔薇 とされたのだとか。

 

 

(3) その後ろで、おしゃべりしているふたりの女。つむぎ車のように舌がまわっているようです。

一人がつむいだ糸で、もう一人がはたを織るともいい、

女二人の内緒話はどんどん広がる、という意味。

あるいは、一人が悪事を企て、もう一人が実行するという。

 

 

 

(4) 屋根の上にはパイ(お菓子・ヴライ)がたくさんたくさんのっています。

お菓子で葺かれているのは、豊富で あり余っているということです。

(5) そこに矢を無駄に放っている男。獲物もないのに矢継ぎ早に射っています。

何の足しにもならないことをし続ければ、つまり浪費をし続ければ 

やがて無一文になるといっているのです。

 

これらは ほんの序の口・・・なにしろ諺は この絵の中に全部で85以上あるそうですから。

 

さて

肝心の ヴァイオリンの男は どういう諺でしょう。 

 『さかさまの世界』 の解説では

 

柱の上にたてられた小さな見張り台のようなところで楽器を弾いている人がいます。

これは 見せしめのためのさらし台で 

中世の頃 酔っ払いなどを おしおき として立たせました。

ところがフランドルには さらし台でひく という表現があり

意味が定かではありません。

 

かせをはめられた人が ヴァイオリンではなく

笛を持っている古い版画を引き合いに出し

それがこの絵の下敷きになっているとされてきました。

本当に 見せしめのため 大衆の面前で 

笛を吹いたり踊ったり しなければならなかったのかもしれません。

いずれにしても かわいそうな笛ふきは

みじめなやつであることには、ちがいありません。

 

『世界美術大全集 15 マニエリスム』 の解説では

さらし台の上で弾くというのは、あるものを不当に私有化すること」 

とありましす。

うーん もひとつ よくわかりません。

そんなある日 図書館で 

森洋子著 「ブリューゲル 諺の世界」 白鳳社を見つけました。

分厚い本 丸ごと一冊 諺の考察です。 この 「晒し台の上で弾く」 について。

 

情けない顔をした罪人が 青い屋根つきの晒し台の上で

ヴァイオリンの類のフィドルを弾いている。

柱には切断された罪人の耳や手がぶら下がり

晒し台の不気味さを物語っている。

 

TV画像から

 

 

この諺は

「あるものを不当に所有する」 「私物化する」 「隠しておく」 を意味している。

オランダ語の Kaak は、晒し台とあご骨の同音異義語をもつ。

この言葉の動詞 Kaechen は、ちょろまかす、すりのような行動をする 

ブリューゲルの版画にも

動物のあご骨で作ったヴァイオリンを弾く収税吏が表現されていて

16世紀の人々は、晒し台の上で弾く という諺から

不当に所有するという暗喩を理解していたのだ。

 

そして 「金持ちの音楽は心地よい たとえ動物のあご骨で演奏されても」 という

ブリューゲルの「十二のネーデルランドの諺」 シリーズの版画が紹介されています。

その円形の淵に沿って仏語で 

金儲けの手段を持つものはあご骨を上手に弾く 

と書かれているそうです。

 

あご骨で弾く収税吏とは

税金の一部を私物化した汚職役人で、彼は晒し台の上で罪人として

ラッパを鳴らし、自分の罪を公衆に晒しているのである。

ブリューゲルの絵や版画以外

この諺を表した作例は非常に少ない。

息子ピーテル2世に帰属のコピーでは、父の人物のような悪人風情は消え

むしろ若者が楽しそうに両足を晒し台の小屋から出してフィドルを弾いている。

 

 

 


ブリューゲルの作品は こちらの展示室にもあります →  ブリューゲル 子供の遊戯   版の摺り違い


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