年金受給資格期間を10年に短縮するのは間違っている

平成24年8月に成立した「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」(年金機能強化法)により、今後数年間に渡り国民年金法、厚生年金保険法等の幾つかの改正が実施されます。大きなものでは短時間労働者への厚生年金保険・健康保険の適用基準拡大等あります。そのほとんどが妥当であり改良と思えるものです。ところが、「受給資格期間を25年から10年に短縮する」という変更については利点がまるでなく、かえって問題がある改悪と考えます。

  1. 年金の受給資格期間はどうなっているか
  2. 受給資格期間はどのように変更されるのか
  3. 何故受給資格期間が短縮されたのか
  4. 受給資格期間の短縮が間違っている理由
  5. おわりに

 

補足1:受給資格期間短縮は延期へ

補足2:受給資格期間短縮の改正法成立


※ご質問の回答はこちらをどうぞ

1.年金の受給資格期間はどうなっているか

(基礎的事柄ですので知っている方はこの節とばしてください。)

最初に、年金の「受給資格期間」、すなわち年金を受給するために必要な期間について説明します。

”すなわち”以降が変な書き方です。”年金を受給するために保険料を納付しなければならない期間”とかの方が日本語らしいですが、そうは書けないのです。受給資格期間を理解するだけでも結構ややこしく、10年短縮論は、一部はそれを理解していない人たちから出てきているのではないかとも思えます。

老齢基礎年金の受給資格には、保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間(カラ期間)の合計が25年以上あることが必要と定められています(国民年金法26条、附則7条等)。これが現在の受給資格期間です。老齢厚生年金は老齢基礎年金の受給資格期間を満たした上で、(例え1ヶ月でも)厚生年金保険の被保険者期間があれば受給できます(厚生年金保険法42条)。

65歳前に受給できるいわゆる特別支給の老齢厚生年金は1年以上の厚生年金の被保険者期間が必要です。特別支給の老齢厚生年金まで含めると説明が煩雑になりますので本稿では以降全て65歳からの本来の老齢厚生年金のみを範囲とします。昭和36年4月1日以前生まれの男性、昭和41年4月1日以前生まれの女性は注意お願いします。

この受給資格を決める期間の長さは年金受給額とは直接関係無いことに注意が必要です。例えばちょうど受給資格期間25年を満たしているという場合、全期間保険料納付済み期間であれば”老齢基礎年金の満額×25/40”が受給額になり、もし一部あるいは全部が保険料免除期間であればそれに応じて減額された額になります。また合算対象期間がある場合その期間については給付額に反映されません。カラ期間と呼ばれる理由です。もし全期間合算対象期間であれば老齢基礎年金は全く給付されません。

厳密には、振替加算のみの老齢基礎年金が支給される場合があります(説明省略)。なお老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたものの死亡という場合は遺族基礎年金の対象となりますが、全期間カラ期間である場合は対象になりません(国民年金法附則9条)。このように全期間カラ期間の場合は受給資格期間を満たしているというのと扱いが異なります。

保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間とはそれぞれ具体的にどういう期間かを説明します。

保険料納付済期間は文字通り第一号被保険者として保険料を納付した期間だけではなく、第2号被保険者の20歳以上60歳未満の期間、第3号被保険者の期間も含みます(国民年金法5条2項、昭60附則8条4項)。基礎年金制度に変更される昭和61年3月前については国民年金保険料を納付した期間、厚生年金保険等の被保険者だった期間も保険料納付済期間に入ります。任意加入被保険者として保険料を納付した期間も納付済期間となります。

後で説明する合算対象期間もそうですが、ケースを全て数え上げること、また条件を厳密に記述することは大変煩雑になります。主なもののみ記述し、また条件もおおよそしか記述しません。厳密な定義を必要とされる方は別途法令等を参照ください。

保険料免除期間は法定により、また申請により免除が認められた期間であり、概要については別稿「国民年金保険料の未納」等を参照ください。

合算対象期間には、任意加入ができるが加入しなかった20歳以上60歳未満の期間があります。現在では国外に居住している日本人等が相当しますが、第3号被保険者制度ができる昭和61年3月までのサラリーマンの妻等であった期間、強制加入になる平成3年3月以前の学生であった期間等も該当します。また第2号被保険者の20歳未満の期間、60歳以上の期間も合算対象期間になります。その他今では強制加入である国会議員や日本居住外国人における、過去の適用除外だった期間、勤めていたが結婚等で若いうちに退職しその時厚生年金の脱退手当金をもらったという場合の脱退手当金の対象期間等あります。

以上で分かりますとおり、保険料を納付しなければならない時に納付をせず、保険料免除の手続きもとらなかった場合を除けば、ほとんどすべての場合20歳以上60歳未満の全期間が受給資格期間の計算に算入されます。例外となるのは昭和36年3月以前に脱退手当金をもらって厚生年金を脱退した場合等ごく限られます。

2.受給資格期間はどのように変更されるのか

平成27年10月1日から受給資格期間に関る制度が次のように変更になります。

ここで平成27年10月1日とは消費税10%が施行される日であり、それと同期することになっています(国民年金法平成24年法62附則第1条)。従って10%施行が遅れると遅れる事になります。

3.何故受給資格期間が短縮されたのか

どういう目的で受給資格期間を短縮するということになったのでしょうか。
参議院の調査室が参議院議員向けに発行している「立法と調査」の平成24年5月1日号に「社会保障・税一体改革における年金制度改正 −国民年金法改正案・年金機能強化法案−」という記事があります。これによると平成18年に開始された社会保障審議会年金部会で低年金者に対する「最低保障年金」と共に無年金者対策として期間短縮が議論に取り上げられたとのことです。そして平成23年に菅総理を議長とする"社会保障改革に関する集中検討会議"の「社会保障改革案」、それを踏まえた政府・与党の「社会保障・税一体改革成案」、平成23年の社会保障審議会年金部会における検討等を経たようです。平成24年2月17日の「社会保障・税一体改革大綱」では次のようになっています。

(2)最低保障機能の強化
○ 年金制度の最低保障機能の強化を図り、高齢者等の生活の安定を図るため、
以下の改革を行う。
・・・・・
B 受給資格期間の短縮
無年金となっている者に対して、納付した保険料に応じた年金を受給で
きるようにし、また、将来の無年金者の発生を抑制していく観点から、受
給資格期間を、現在の25 年から10 年に短縮する。

どうも目的は無年金者対策であるようです。しかしあとから述べるようにその効果は疑問としか思えません。果たして以上の検討の過程の中で耳を傾けるべき議論があったのか見てみたいと思います。

まず平成18年12月から平成20年11月に行われた社会保障審議会です。平成19年11月第6回に経済財政諮問会議における資料が提出され、それに受給資格期間の短縮が言及されています。このあたりが最初の出所ではないかということで紹介します。まず有識者議員提出資料の中に未納問題への対策として次のように書かれています。

@未納問題
i)「最低加入期間の短縮」・・・25年間という長期間の最低加入期間を短縮すれば、現在の未納者も年金加入しやすくなる。 ・・・・

当時厚労大臣だった舛添氏の資料年金制度をめぐる課題のなかでは、この提案に対してなのか次のように言及されています。

*国民年金には、免除や65歳以降も任意加入制度が設けられており、25年の資格期間を満たすことは、それ程難しいことではない。資格期間の短縮は、低年金につながるおそれがある。

年金部会における議論は平成20年6月19日の第9回に行われます。厚労省の「老齢基礎年金の受給資格期間(25年)の見直しについて」という資料をもとに各委員が意見を述べ合っています。短縮賛成が多いですが、いちいちあげて反論するような重要な意見は少ないのでここでは要旨だけまとめます。

これらの人々は25年の期間を満たすのが大変であるという前提で話しているように見えますが、前々節で述べたとおり全く大変ではないのです。免除制度の周知、徴収の徹底、納付手続きの改良等の必要はあるかも分かりませんが、大変ということを前提に短縮に賛成するのは全くおかしい。また、任意加入で納付期間のみ計算する外国の例と比較するのは不適当です。職権免除適用(免除申請が無くても徴収側の職権で免除すること)を提案した上で、次のように発言している委員がいらっしやいます。

低所得者に対して職権適用をする、そういう状況の下で10年しか納付していない人がいた。低所得者は職権適用されているわけですから、彼らは低所得者ではないはずです。では、10年しか払っていないのは誰なんだというと、ただの不届き者ではないかと思うんです。その不届き者のために、こういう制度をつくっていって、どうするんだというのがある。(権丈委員)

職権免除適用によるかどうかはともかくとして、免除制度の適用を徹底すれば、25年という受給資格期間を満たさない人は悪質な滞納者「不届き者」と言えるのは全くその通りと思います。

次に、平成23年2月から7月まで開催された「社会保障改革に関する集中検討会議」を観てみます。第2回に関係団体に対し、第3回にマスコミ各社に対しヒアリングが行われます。関係団体では4団体のうち日本商工会議所 のみが25年から10年の短縮を主張しています。理由は”最低保障機能をもたせるべき”とのことですが、なぜ10年に短縮すれば最低保障機能を持つことになるのか理解不能な主張です。そもそも”最低加入年数”という語を使用しており、受給資格期間ということを理解していないことがわかります。マスコミ5社(資料議事要旨)中では読売、朝日、産経が10年への短縮を主張しています。朝日は新聞記事のコピーを附しているだけで良くは分かりませんが、記事の中に”25年では長すぎる。この高いハードルが未納を増やし不公平も生んでいるからだ”とあります。朝日、読売はもともと年金に対する知見のレベルが低すぎると常々感じています。読売は次のように主張しています。”受給資格期間を10年に短縮して無年金を少なく”。産経は配布した記事のコピー中で”無年金や低年金対策”としています。なお日経は基礎年金全額消費税方式を前提に”国内に10年以上住んだ人皆に支払う”という主張です。毎日は期間短縮への言及は無いようです。

平成23年8月から平成25年4月まで開催された社会保障審議会年金部会では厚労省資料「受給資格期間の短縮について」に基づき平成23年第2回で議論がされています。平成18年の同じ年金部会での議論では10年短縮賛成という意見が多かったのに対し、いろんな問題の可能性や、実施に当たっての慎重さを求める意見が主流になっているように見えます(議事録参照)。特に私が注目したいのは森戸委員が政策の趣旨に疑問を呈しているところです。

○森戸委員
  ・・・省略
無年金者の救済という政策目的と、当然のように書いてあるんですけれども、その割に、その前の部分では、無年金者がこんなにいて、こんなに大変な人がいますとか出そうですという、無年金者の現状というのがありますけれども、数字だけで、無年金者の救済という意味が余り入ってこないんですけれども、もうちょっと説明をしていただけないかなと思いまして。趣旨がわかりましたか。
○神野部会長 この改革の目的というか、考える際に重視しなければならないのは、アプリオリに前提にされているように見える無年金者の救済なんですかということですか。
○森戸委員 そうです。それが短縮の最大の目的だということでいいんですかね。では、10年にしたら、素直に無年金者の救済にそんなになるのかなという。
○神野部会長 かつ、成案の方では、それほど無年金者の救済という趣旨がうたわれていないのではないかという御発言ですね。
○森戸委員 諸外国もそうだし、ちょっと長いのではないかみたいなことしか書いていないので。

もともとよく制度を理解していない人達が、25年は長いのではないかとか、無年金者対策になるのではないかというような、雰囲気的なもので主張した。それに対応して厚労省が資料は作ったものの、専門家からみると何を意図しているか理解不能という結果になっているということを示しているように思えるのです。結局神野部会長により次のようにやや強引にまとめられます。

○神野部会長 無年金者というか、最低保障機能を強化するということが、先ほど御説明いただいたように、今回は非常に重要なテーマであると。現行制度のもとで、その機能を強化するということだとすれば、受給資格期間の短縮ということによって無年金者を救えるのではないかと。ただ、おっしゃったように、いや、それでは限界があるのではないかということであれば、それはそれとして意見を出していただければいいのではないか。
○森戸委員 とりあえずはわかりました。

4.受給資格期間の短縮が間違っている理由

[1]25年は長すぎるということはない

第一節で述べましたとおり、普通に生活していれば受給資格期間は40年でも容易に満たせます。うっかり手続きを間違える等で未納期間が数ヶ月できてしまうという可能性はありますが、25年さえ満たせないということは考えられません。今までを考えると、保険料の納付が義務とは知らなかった。手続きをせずにほっておいたが催促がなかったので問題ないと思った。保険料免除の制度について知らなかった。等の理由で未納になってしまった方が居るかも分かりません。これは制度の周知努力、督促も含め徴収の徹底、手続きの容易化等で解決されるべき問題です。(別稿国民年金保険料の未納も参照ください)。そのうえで25年を満たせない人間は悪質な滞納者のみでしょう。それとも厚労省や日本年金機構はそのような努力をするつもりは無いということなのでしょうか。

そうは言っても、現在無年金になっている人、間違いなく無年金になる人が既にいる。それはどうするのかといわれるかも分かりません。次に説明するように短縮して無年金者を減らしてもあまり意味は無いと思います。仮にいくらかの意味があるとしても既に発生している人をのみ対象とするような時限の立法をすれば良いのです。年金の本来の制度そのものを変更するのは誤りです。

[2]無年金者を減らすことはほとんど無意味

何故無年金者を減らさなければいけないか、というと老後の生活に最低限の収入を保障するということでしょう。では問題は、実際に助けられる人がどのくらいいるのか、次に最低限の生活を保障できるのかすなわち支給する年金は幾らになるのかということです。都合で後のほうから考えてみます。

10年の保険料納付で受給できる額は満額の4分の一です。今年度の価額では年19万1千7百円です。これは10年が全て保険料納付済期間の場合であり、免除期間やカラ期間が含まれる場合もっと少なくなります。

第3節で紹介した会合のどこかで、受給資格期間を満たせば厚生年金も受給できるはずなのでこのような見積は間違っている、というようなことを主張されている方がありました。厚生年金の加入期間の方が受給資格期間より長いことはありえないので、この場合厚生年金の加入期間は10年以下です。そのときに高給をもらっていたというあまり考えられないケースを除けば別稿「 第3号被保険者問題」第4節で示した計算例(計算例では40年加入の場合を示しているのでその4分の1)で示すように、10年まるまる厚生年金の被保険者であったという場合でもせいぜい年10万円ほどのものでしょう。10年に短縮することで受給資格期間を満たす人の中にどれだけ厚生年金の加入期間を持つ人がいるのかも問題です。

すなわち10年に短縮したことで新たに受給資格者となる人の受給額は、最高でも生活保護の最低生活費に遠く及ばないものです。これは何を意味するかというと、お金が無い人に対しては生活保護費の一部を年金という財布から出すようにするだけであり、資産があるとか扶養してくれる子がいる等で生活に困らない人に対しささやかな余裕を与える意味しかないということです。

なお受給資格期間が25年の現在でも、非常な低年金しかもらっていないという人が身の回りにもいるというのが実感ではないでしょうか。実際に厚労省年金局「平成23年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると基礎年金のみ受給している人で年金月額2万円以下の人が468,862人おり、月額3万円以下ですと150万人を越え全体の6%にあたります。内訳は分かりませんが女性が多いことから、免除期間があるというよりも昭和61年前に主婦だったためのカラ期間で受給資格期間を満たしている人が多いのではないかと予想します。

以上から分かるとおり、老後に最低限の収入を保障するためには、受給資格期間を短縮して名目の「無年金者」を減らしてもほとんど解決にはならず、別途無年金かつ低年金への対策を行わなければならないのです。すでに発生している無年金者、低年金者に対しては、生活保護制度を活用するか、時限の立法を制定するかで救済し、今後の発生を抑制するためには保険料の徴収を徹底し年金満額を受けることができるようにするしかないのです(基礎年金満額が十分な額かは別の話です)。受給資格期間の短縮はほとんど意味がありません。

"実際に助けられる人がどのくらいいるのか”という第一の問題に対しては10年に短縮しても助けられないということを述べてしまったので「いない」という答えになってしまいます。10年に短縮することで年金をもらえるようになる人がどのくらいいるかについては前出の厚労省資料「受給資格期間の短縮について」の2ページ目に65歳以上の無年金者42万人のうちの40%すなわち17万人程度が新たに受給資格者になるというデータが載っています。これは相当にいいかげんな数字であることの指摘だけしておきたいと思います。まずこれには合算対象期間が含まれていません。従って昭和60年以前に主婦だった、平成3年前に学生だった等で合算対象期間(カラ期間)があり実際には無年金者では無い人がかなり含まれる可能性があります。次に、第2節では煩雑さを避けるため説明しませんでしたがたが、実は25年の受給資格期間を必要としない人たちがいます。最も多いと思われるのは、昭和31年4月1日以前生まれで厚生年金保険や共済組合に長期間加入した人です。例えば今年61歳以上である昭和27年以前生まれの人は厚生年金保険に20年加入していれば受給資格期間を満たします。その他、平成3年3月31日前に坑内員や船員だった人等受給資格期間を25年よりも短くする特例がいろいろあり、それらも考慮されていません。つまり実際の予想無年金者は42万人よりもかなり少ない可能性があります。これに対して厚労省は最大42万人であるという言い方で逃げています。それでは最大42万人というのは正しいのかというと、そうでもありません。この42万人という数字自体あてになりません。これには65歳以上に最大5年任意加入することを前提とした数字だからです。

任意加入は、65歳までは満額に達するまで、70歳までは受給資格期間を満たすまで可能。

強制加入の保険料さえちゃんと納付しなかった人が、65歳以上で任意加入するなどと期待するのは非現実的でしょう。つまり実際に発生する無年金者は42万人よりも多いという可能性もあるのです。

[3]かえって問題が予想される

いろんな議論の場でくりかえし指摘されていることですが、受給資格期間を25年から10年に短縮することは納付意欲を落とし納付済期間が短い低年金者を増やす可能性があります。先ほどの年金部会の資料の4ページを見て下さい。平成21年度に新たに年金をもらう人の納付済期間+免除期間の分布が載っていますが、25年で人数が急に増えその後一旦減少します。つまり、受給資格期間は25年である→25年収めれば良い、と思っている人がいることが予想されます。もっと悪く、納付義務は25年である、あるいは25年納付すれば満額もらえると勘違いしている場合があるかも分かりません。25年を10年に短縮すると、10年で納付を止めてしまう人が増える可能性があります。これは低年金者の増加につながります。これに対し2012年1月の第9回年金部会の「社会保障審議会年金部会のこれまでの議論の整理」では次のようにまとめられています。

○また受給資格期間を短縮する場合にも、国民年金保険料は40年間納付しなければならないことが大原則であり、10年間納付すれば良いという誤解が生じることがないよう、周知徹底・広報及び年金教育を進めることが極めて重要であるとの意見が多かった。また、併せて国民年金保険料の納付率を上げるための施策を講じていくことが必要との意見が多かった。

しかしながら、40年納付を周知徹底させ、保険料納付率を上げれば、25年の受給資格期間は容易に達成され、10年に短縮することは無意味になります。それとも周知徹底も保険料納付率の向上もそこそこしかできないということが前提になっているのでしょうか。

なお障害年金や遺族年金には被保険者期間の3分の2が納付済期間か免除期間であることという保険料納付要件(平成38年4月1日までの特例有り)がありますので、”10年納付すれば良い”との雰囲気が広がった場合、障害年金や遺族年金が給付されないケースが増える懸念もあります。

5.おわりに

年金の受給資格期間を25年から10年に短縮したのは無意味かつ問題があることを説明しました。なによりもこのような変更は”奇妙です”。奇妙な主張であっても、それが政治家や有力者からでたものであるとき、官僚という人種はそれを必死に正すことはせず、のらりくらりと逃げて何とか問題の生じないところに落ち着かせようとし、それでもうまく行かない場合はあきらめてその奇妙な主張に沿った資料を作り、また実現に向けて進む。今回の問題や第3号被保険者問題への対応を見てそういういう印象をもちました。ただの印象です。とにかく法は改正されてしまいました。今後低年金者の増加や、名目的「無年金者」が減ることで行政をスポイルすることが無いように願うばかりです。

補足1:受給資格期間短縮は延期へ

消費税を8%から10%への引上げが平成29年4月に延期されたことに伴い、受給資格期間の10年への短縮も平成29年4月まで延期されることになりました(社会保障制度改革推進会議)。

補足2:受給資格期間短縮の改正法国会上程

消費税10%への引き上げがさらに平成31年10月まで延期されることになりました。受給資格期間の短縮については、平成29年8月1日から適用するというように改正する法律案「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案」が平成28年9月26日に第192回臨時国会に上程され、同年11月16日に可決成立しました。平成29年8月1日から適用され、10月から給付されることになります。

初稿2013/6/12
補足追加2015/1/16
補足2追加2016/10/21
補足2改正2016/11/22