戦略労務第363号(2023/8)
イントロダクション
今日8月8日は暦の上では立秋ですね。残暑お見舞い申し上げます。毎年夏の暑さが厳しくなっていくようです。まだまだ厳しい暑さが続くでしょうがそろそろ落ち着いていくような気もします。例年台風一過の青空といえば空が高くなるのが相場ですから。
「戦略労務」第363号をお届けします。今回は1か月60時間を超える残業時間についてです。
★月の残業時間が60時間を超えたらどうなるか?
2023年4月1日より、法定外残業時間が月60時間を超えた場合の割増賃金50%以上の支払義務が中小企業にも適用されています。10年以上適用が猶予されてきた本規定ですが、働き方改革関連法案施行により、中小企業についても例外なく適用されることになりました。
残業時間が60時間を超えた場合の2つの対応
特別条項付36協定の締結を前提として残業時間(時間外労働)が月60時間を超えた場合、基礎賃金×50%以上の割増賃金を支払うか、代替休暇を付与するか、どちらかの対応になります。
36協定を締結したとしても、原則的な法定外残業の時間は、月45時間及び年間360時間までが上限と定められています。この上限時間のカウントには、法定休日における労働時間(休日労働)は含まれないため、休日労働の時間は別で管理する必要があります。
本規定は、2010年の労働基準法改正の際に設けられましたが、経過措置として資金面で制約がある中小企業への適用は長年猶予されてきました。しかし近年、長時間労働に伴う精神的不調による休職や過労死などが社会問題化したことを受け、働き方改革関連法の施行に伴い、中小企業への割増賃金の引き上げ適用となりました。
月の残業時間が60時間を超えた場合は、その超えた時間分の基礎賃金に50%以上の割増賃金を加算した賃金を支払う必要があります。なお、50%以上の割増賃金が必要となるのは、60時間を超えた部分のみであり、時間外労働全体の割増率が50%以上になるわけではありません。
月の残業時間が60時間を超えた労働者から申し出があった場合は、50%以上の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇を付与することも可能です。これを「代替休暇」と呼びます。また、代替休暇に代えられるのは、あくまでも50%以上の割増賃金が必要な部分のみです。つまり、代替休暇を付与したとしても、通常の25%以上の割増賃金支払義務は残るため、注意が必要です。
なお、60時間超えの時間外労働に対して「50%以上の割増賃金を受け取るか」「代替休暇を取得するか」という選択は労働者の判断であり、会社から強制的に代替休暇を付与することは認められませんので、これも注意が必要です。
しかし現実問題としてやむを得ず1か月60時間を超えてしまう場合であれば、なかなか代替休暇を与えられないことになるかもしれません。
貴重な人的資源なのですから「いつまでもあると思うな・・・」との考え方が必要です。