戦略労務第343号(2021/12)
イントロダクション
今年も残すところ1か月を切り本格的な冬の到来を迎えています。新型コロナウイルスは新たなオミクロン株へと変異を遂げました。去年と今年のインフルエンザ感染者数は格段に少ないことと思います。インフルエンザ等のまん延は各人の努力や政府の姿勢により防げることが分かりました。「戦略労務」第343号をお届けします。
★労働基準法の改正について→残業代計算にご注意を
新型コロナウイルス感染症の拡大時期であった2020年4月1日の民法改正に伴い、労働基準法の改正も行われています。労務管理上大きな影響を受ける部分として賃金の時効延長が挙げられます。賃金とは基本給だけでなく様々な手当や残業代なども含まれます。
改正前の労働基準法第115条では、「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」と定められていました。旧来は賃金請求権の時効を2年と定めていましたが、民法改正により契約に基づく債権の消滅時効期間は原則として債権者が権利を行使することを知った時から5年間に統一することとされました。
民法改正により、労働者保護を図る労働基準法の時効期間が民法の時効期間よりも短くなってしまい、労働者にとっては不利になることから、労働基準法上の時効消滅期間についても延長されることとなりました。しかし、いきなり5年間に統一してしまうことで事務負担の増加などが懸念され、実効性を確保する意味でも当分の間は3年間とすることとされました。
賃金債権の時効については2020年3月31日までは2年とされていました。しかし、2020年4月1日以降に支払いが発生する賃金については2年から5年(当分の間3年)に延長されました。よって、万が一不適切な賃金計算を行っていた場合、遡って是正となれば旧来よりも多くの額を支払う必要があるということです。2年間から3年間になることで1.5倍になるわけです。
一般的に身近な事例として残業代が挙げられます。遡り是正の対象となるのは、残業代の計算式が誤っていた場合、残業代の基礎単価が誤っていた場合、そもそも支払っていない場合などが想定されます。残業代は賞与や退職金と異なり、対象となった場合は法律上必ず支払わなければならないものであって、使用者側の裁量が働くものではありません。
また、労働基準法第41条に規定する「管理監督者」として取り扱っている事業場において、実態として管理監督者には当たらないとされた場合、当該期間に生じた時間外労働については残業代として支払いが必要になることから、労務管理上注意すべき点は多岐にわたります。
給与明細には支給額(基本給や残業代など)と控除額(所得税や社会保険料)ならびに残業時間数を記載しますが、それはあくまで使用者側からの一方的な通知であるため、正確かつ労働者が同意しているとは限りません。よって、各月の残業時間については相違がない旨、本人の同意を書面で取得しておくことが、将来的に未払残業代を請求されるリスク低減には有効であると考えます。