独断的JAZZ批評 783.

DAIKI YASUKAGAWA
演奏も素晴らしいけど、録音も素晴らしい
こういうジャズは是非とも大音量で聴いてほしいものだ
"KANMAI"
佐藤浩一(p), 安ヵ川大樹(b), 橋本学(ds)
2012年8月 スタジオ録音 (D-NEO : DNCD01)


待ち侘びていたCDである。このトリオはライヴ・ハウスで何回か聴いている。その度に、この3人のアルバムが発売されないかと思っていた。「やっと」というべきか、はたまた、「ついに」というべきか、待ち侘びていたトリオ・アルバムが発売された。しかも、安ヵ川が主宰する新しいレーベルの第1弾として。
佐藤浩一は期待の若手ピアニストである。かつて"UTOPIA"(JAZZ批評 698.)というトリオ・アルバムをリリースしているが、すべて佐藤のオリジナルで占めたこともあって、僕としては大満足とはいかなかった。BUNGALOW(JAZZ批評 736.)という若手メンバーが集まったカルテットにも参加している。
橋本学もこのトリオには欠かせない一人で、外連味がなくて色彩感豊かなドラミングがいいね。
安ヵ川については、今更いうこともないけど、日本、いや、世界を代表するジャズ・ベーシストだ。強靭なビートと伸びのある艶やかな音色。加えて、アルコを弾かせればこの人の右に出るジャズ・ベーシストはいないだろうというほどの腕前。

@"KANMAI" 「神舞」は山口県の祝島の神事だという。そこからインスパイアーされて書いた安ヵ川のオリジナル。静謐で深淵。生々しいベースの音色も、ピアノもブラシもとても良い音だ。素晴らしい録音!3人の緊密感とか一体感がより一層の美しさ、さらに言えば、神々しさを醸成している。
安ヵ川には加計呂麻島からインスパイアーされた"KAKEROMA"という曲もあるが、一度聴くと旋律が耳から離れない印象深い曲だ。

A"LONG AGO AND FAR AWAY" 
映画音楽からJEROME KERNの書いた曲。躍動感あふれる演奏。センスの良い佐藤のピアノが生き生きと飛び跳ねる。さらに注目して欲しいのはバッキング。ベースのソロで挿入されるバッキングがとてもセンスが良くてノリが良くなる。
B"PRAY FOR JAPAN" 
東日本大震災からの復興を願って書かれた安ヵ川のスロー・バラード。美しくて深い。余分なものが一切ない研ぎ澄まされた演奏に耳を傾けたい。
C"TO ANOTHER WORLD" 
佐藤のオリジナルで5拍子で演奏されているという。
D"GREENSLEEVES" 
アルコによる重低音。素晴らしい録音なので大音量で聴いてもらいたい。色彩感覚豊かな橋本のドラミングが彩りを添えている。
E"DAWN" 
西山瞳とのデュオ・アルバム"EL CANT DELS OCELLS"(JAZZ批評 749.)でも挿入されている安ヵ川のオリジナル。ミディアム・テンポの4ビートを刻みながらズンズン進む。
F"ST. ELMO'S FIRE" 
これは橋本のオリジナル。ベース・ソロでは橋本は手で叩いているのかな?グルーヴ感溢れる演奏だ。3者のインタープレイ、緊密感が素晴らしい。ベース・ソロにおける佐藤のセンスの良いバッキングも聴きどころのひとつ。
G"VALENTINE BLUES" 
ブルースと名がついているけど通常の12小節のブルース形式ではないらしい。20小節になっているようだ。ブルース・フィーリングたっぷりの佐藤のピアノがイケている。バッキングもキレにキレている。4小節交換の2コーラスを経てテーマに戻る。こういうのライヴで聴いたら、きっと痺れるね。
H"MY BLUES TUNE"
 CHARLES MINGUSにインスパイアーされて書いた曲だという。グルーヴ感たっぷりだし、太いベース音が何とも言えない。ウ〜ム、唸るね!

いやあ、素晴らしいアルバムだ。演奏も素晴らしいけど、録音も素晴らしい。こういうジャズは是非とも大音量で聴いてほしいものだ。ベースの安ヵ川がリーダーだけど、ベース・トリオにならず、ピアノ・トリオになっているのがいいね。美しさ、躍動感、緊密感に溢れた素晴らしいピアノ・トリオに大きな拍手を贈りたい。
世界有数のジャズ大国・日本の面目躍如と言ってもいいだろう。来年にはこのトリオの発売記念ライヴもあるようだ。こういうジャズが身近で、しかも、生で聴ける有難さ!
今年を締め括るのに相応しいアルバムだと思いつつ、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2012.12.14)


試聴サイト : http://www.d-musica.co.jp/release/neo/DNCD-01.html



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