HITOMI HISHIYAMA & DAIKI YASUKAGAWA
ピアノとアルコ、ピアノとピチカートという2種類のデュオ、更には、美しさと切なさを併せ持った演奏を堪能できる
"EL CANT DELS OCELLS"
西山 瞳(p), 安ヵ川 大樹(b)
2011年12月 スタジオ録音 (D-MUSICA : DMCD-20)
このアルバムはD-MUSICAの丁度20作目にあたる。ベーシスト・安ヵ川大樹が主宰するレーベルだ。日頃、スッポトライトあたることの少ない若手ミュージシャンにレコーディングの機会を与えている。僕は全20枚のうちこのアルバムを含めて11枚をゲットしているが、どのアルバムも非常に真面目に作られており好感が持てる。何よりも、プレイヤーの一人一人がイキイキしているのが良い。
このレーベルによってその存在を知ったミュージシャンとして、高田ひろ子、村山浩、GRACE MAHYA、山田拓児などがいるが、いずれも今まで知らなかったのが不思議だというくらい優れたミュージシャンでもある。
さて、このアルバムであるが、西山瞳と安ヵ川のデュオ・アルバムである。安ヵ川といえば、今や日本を代表するベーシスト(JAZZ批評 655. & 699.)であり、コンポーザーでもある。多分、この安ヵ川にアルコを弾かせたらこの人の右に出るジャズ・ベーシストはいないだろう。
一方の西山瞳であるが、今までに僕は2枚のレビュー(JAZZ批評 446. & 714.) を書いているが、いずれも高い評価とは言えない。果たして、今回はどんな演奏を聴かせてくれるのだろう?
@"WHITE CLOUD MOUNTAIN MINNOW" 今までの西山にない力強いタッチだ。ピチカートで迫る安ヵ川とのコンビネーションもいいね。
A"KAKEROMA" KAKEROMA(JAZZ批評 709.)とは奄美大島の加計呂麻島のことをいう。安ヵ川が夢の中で聴いた旋律をそのまま採譜したという。美しい安ヵ川のアルコによるテーマがいいね。ゆったりとしたメロディが美しい。
B"WAITING FOR NO ONE"
C"COMO SIENTO YO" 安ヵ川のアルコ奏法をたっぷりと堪能できる。哀愁を帯びた曲想。アルコの奏でる音色と情感のこもったピアノが切ない。味わい深い1曲。
D"DAWN" 頭から軽快な4ビートを刻む。ここではビート感溢れるピチカートを堪能いただきたい。
E"LAKESIDE"
F"FACE OF YESTERDAY" 西山の書いたオリジナルはどれも美しさと切なさを併せ持っている。こういう曲想が安ヵ川のアルコとピチカートに見事にマッチングしている。
G"VOYAGE" ベース・ソロ・アルバム(JAZZ批評 699.)のタイトルにもなった曲。
H"PRAY FOR JAPAN" 2011年3月の東日本大震災後に復興を願って書いた安ヵ川のオリジナル。言葉はいらない。目を閉じて耳を傾けよう。
I"EL CANT DELS OCELLS" 邦題「鳥の歌」 重低音のアルコが魂を震わす。
わずか3日前にこのアルバムの発売記念となるツアー・ライヴに行ってきた。APPLE JUMPにおけるこの二人のデュオである。APPLE JUMPは小さなライヴ・ハウスゆえに生音で聴けるという有難い恩恵がある。「ジャズはライヴだ」とは昔から言われてきたことだが、改めてそういう認識を確かにする。生音のベースの鳴り方が全然違うのだ。箱が共鳴し床と壁と空間を震わしている。どんなに音響技術が進んでも生音は生音なのだ。その場の空気感、オーディエンスの唸り、拍手、そういうものが一体となって一つの音楽を仕立て上げているのだと思う。
翻って、このアルバムであるが、西山が@、B、E、Fを、安ヵ川がA、D、G、Hとそれぞれが4曲ずつのオリジナルを提供している。ピアノとベース、ひいてはピアノとアルコ、ピアノとピチカートという2種類のデュオ、更には、美しさと切なさを併せ持った演奏を堪能できるアルバムということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。 (2012.04.08)
試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=rUiUcM9IPXQ
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