独断的JAZZ批評 698.

KOICHI SATO
さらに研鑽を積んで、ライヴのような感動を味合わせて欲しいと願ってやまない
"UTOPIA"
佐藤 浩一(p), 池尻 洋史(b), 大村 亘(ds),
2010年5月 スタジオ録音 (TWINKLE NOTE : PCCY-30186)


6月1日、APPLE JUMPでMAGNUS HJORTHのジャパン・トリオ・ライヴ(JAZZ批評 697.)を聴いた。1日置いて、3日にもAPPLE JUMPのライヴを聴きに行ってきた。3日は安ヵ川大樹のトリオ。そのときのピアニストがこの佐藤浩一。ドラムスに橋本学。この日は後半に物凄い盛り上がりをみせ、ライヴを聴きに来て本当に良かったと思ったものだ。
兎に角、安ヵ川のアルコ奏法が素晴らしかった。昨年、発売になった"TRIOS"(JAZZ批評 650.)でも書いたが、この人のアルコは(勿論、ピチカートも)絶品!聴けば、その音色の美しさの虜になってしまうだろう。世界広しといえども、これだけのアルコを弾けるジャズ・プレイヤーはそうそういるものではない。この日も、安ヵ川の愛器"CASALINI"は美しい音色で僕らをノックアウトしてくれた。
安ヵ川のオリジナル、「レクイエム」では安ヵ川のアルコに唸り、続く佐藤のピアノ・ソロが本当に素晴らしく、ぞくぞくするような二重の感動を味わうことが出来た。それはもう、鳥肌ものだった。その余韻に浸りながら、その場で購入したのがこのアルバム。
残念ながら、ライヴのときとこのアルバムではメンバーが違う。

@"EGYPTIAN MUSK" 繊細で優しさに溢れた演奏。人となりが良く表れている。
A"BATRISTURGISISM" 
モーダルなテーマ。ちょっとこねくり回した感じ。
B"UTOPIA" 
C"VERNAL FLOWERS ON A RAINY DAY" 
美しい曲であることは間違いないのだが、メロディックとは言えない。フリー・テンポのインタープレイ。
D"MIRRORED MIRROR" 
アップ・テンポの4ビートを刻むモーダルな曲。
E"KINMOKUSEI" 
F"PRAYER" 
ピアノ・ソロ。しっとりしたバラード。これはいい曲だ。聴かせるなあ!
G"A STORY OF THE NIGHT OF SNOW" 
熱い演奏だが、アルバムを通して、時々、大村のドラミングがうるさいと感じるときがある。
H"LONG WINTER AND HAZY MOON"
 知的でシャイな印象の佐藤らしい曲と演奏。一番、嵌っているかも。

全曲、佐藤浩一のオリジナル。アルバムに対する佐藤の意気込みなのだろう。気持ちは分かるが、それが本当に良かったというと疑問の残るところだ。確かに、どの曲もそこそこには行っていると思う。が、世に言うスタンダードほどいい曲かというとそうではない。
スタンダードというのは長い時間をかけて認められてきた、謂わば、皆が認める佳曲なのだ。自己満足に終わらないためにも2〜3曲をスタンダードが占めても良かった。メロディ・センスが違うのだ。佐藤の書いた曲はモーダルな曲が多いので、得てして殺伐とした曲想になり易いのが難点だ。もっとしっとりとメロディの美しさを大事にする曲があれば良かった。何故なら「いいテーマに、いいアドリブあり」だからだ。それともっと熱くほとばしるエモーションを表現できれば良かった。
前述の安ヵ川の「レクイエム」はテーマも素晴らしかった。素晴らしいテーマに巧みな技量と熱いエモーションがあれば、かくも感動を呼ぶ演奏になるのだから・・・。
未だ若い。さらに研鑽を積んで、ライヴのような感動を味合わせて欲しいと願ってやまない。安ヵ川大樹・トリオのときにまたライヴを聴きに行きたいと思っている。   (2011.06.09)

試聴サイト :  http://www.hmv.co.jp/product/detail/4019560




.