BRAD MEHLDAU
「ぞっこん」とはならない
"ODE"
BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), JEFF BALLARD(ds)
2008年11月 と2011年4月(B,G,I) スタジオ録音 (NONESUCH RECORDS : 529689-2)
僕が、現代最高のジャズ・ピアニストと思っているBRAD MEHLDAUの久しぶりのトリオ盤。最近のMEHLDAUはソロ・ピアノやピアノとピアノのデュオ、あるいは、オーケストレーションと、多才な面を見せてくれているが、やはり、トリオ演奏が聴きたいところだ。このアルバムでは2008年録音の8曲と2011年録音の3曲が混在している。
今年の7月には東京のサントリー・ホールで来日公演がある。そのネット予約が先日行われたが、その時間になると回線が全く繋がらず、ネットの前売り券は断念せざるを得なかった。日本での人気もうなぎ登りで大ホールでの公演しか聴けなくなってきたのは残念だ。ジャズはライヴがいいのは当然として、出来れば大ホールではなくて小さなライヴ・ハウスで聴きたいものだ。KEITH JARRETTにしても、このMEHLDAUにしてもそういうことが難しくなっってしまった。大スターの証ということかもしれない。
@"M.B." テナー・サックス奏者で2007年に亡くなったMICHAEL BRECKERに捧げた曲。MEHLDAUはPAT METHENYらとともに、その前年に録音した"PILGRIMAGE"(JAZZ批評 421.)にサイドメンとして参加し、「血湧き肉躍る」アルバムに仕立て上げた。"PILGRIMAGE"を彷彿とさせるスリリングな展開だ。
A"ODE" いかにもMEHLDAUらしい。独立した2本の手が一人のピアニストによって操られ、右手と左手が会話している。まさに、二人分の仕事をしている、そういう感じ。
B"26" 3/4を基調としたビートを刻んで進む。一筋縄にはいかない多様な変化が面白い。
C"DREAM SKETCH" スロー・ロック調の静かな出だしで始まる。GRENADIERのベース・ワークがピアノに絡んでいく。GRENADIERの太くて硬く締まったベース音はこのグループにはなくてはならない存在だ。願わくば、高揚感満載のクライマックスを迎えて欲しかった。
D"BEE BLUES" ちょっとひょうきんな感じのするブルース。ベースがフィーチャーされている。MEHLDAUはほとんどをシングル・トーンで通している。
E"TWIGGY" 1960年代に一世を風靡したモデルの「ツイッギー」のことらしい。中高音部を多用した可愛らしいアドリブになっている。左手のバッキングが素晴らしい。
F"KURT VIBE" ギターリスト、KURT ROSENWINKELからインスパイヤーされた曲だという。GRENADIERのベース・ソロがいいね。
G"STAN THE MAN" 「♪山寺の和尚さんが・・・♪」と口ずさみたくなる出だしの数小節。その後に続く高速4ビートがかっこいい!こういう4ビートはGRENADIERのような強靭なベースが絶対不可欠。BALLARDのシンバリングもセンシティブで唸ってしまう。これはいいね。
H"EULOGY FOR GEORGE HANSON" 映画「イージー・ライダー」でジャック・ニコルソンが演じたGEORGE HANSONという役にインスパイヤーされたフリーの即興演奏。こういう演奏は苦手だという人も多かろう。その時は遠慮なくパスすることだ。
I"AQUAMAN" テレビの漫画からインスパイヤーされた曲。
J"DAYS OF DILBERT DELANEY この曲はどうやら自分の息子に捧げた曲らしい。
全11曲、全てMEHLDAUのオリジナルだ。どの曲も「人」絡みの楽曲が多い。多分、ほとんどの曲が初めて録音された曲ではないかと想像するのだが、そういう点で馴染みが少なく、親しみやすさに欠ける。「ぞっこん」とはならないのだ。やはり、息抜きにスタンダード・ナンバーの2〜3曲が欲しいところだ。
同じメンバーで録音された2005年の"DAY IS DONE"(JAZZ批評 301.)や2006年録音の"LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD"(JAZZ批評 479.)に比べると、美しさ、躍動感、高揚感という点で過去の2作に軍配を上げざるを得ない。そういう中にあって、AとGは好きな演奏だ。
それにつけても、この変化の速い時代に4年も前の演奏を1年前の演奏と抱き合わせにしてアルバムを作るというのも首を傾げたくなってしまうのだが・・・。 (2012.03.22)
試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=CbNtmSNJW3o
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